ep3-7
2人は充分に温まった所で風呂から上がり、それぞれバスタオルで体の水分を拭った。
「ソニア、髪の毛から水が垂れていますよ。拭いて差し上げましょう」
「おう、ありがとよ」
「ソニア、まだ肩が濡れていますよ」
「ああ、本当だ。気付かなかったぜ」
「ソニア、下着を履く前にここの毛の水分も拭き取らないと…」
「お。悪ぃな、そんなことまでさせて」
ソニアは風呂から上がって以降、ツガルが何をしても嫌がる素振りを見せなかった。
「ソニア~~~……」
「な、なんだよ。そんな情けない声を出すなっての」
「……おかしい」
ツガルはソニアの肩を掴んで顔を覗き込む。
「あん?」
「……いえ、何でもないですわ」
ソニアは裸同士でツガルに迫られてもまるで動じず、胸や前なども隠そうとすらしない。
何か物足りなさを感じてツガルはいぶかしむが、当のソニアがまるで意に介さない様子なのがわかり身を引いた。
「さあ、ソニア。そんな格好でいると風邪を引いてしまいますわよ。可愛いパジャマをご用意いたしましたので、お試しください」
ツガルが満面の笑みでつまみ上げたのは、中までバッチリ透けるような紫色の薄絹のノースリーブワンピースだった。背中側が大きく開いてリボンで止める様になっている。
中の下着はフリルのついたブラとショーツだが、胸の先端と股間にスリットがついている。
「……なんか、所々というか重要そうな所に穴が開いているんだが?」
「ギクゥッ……目聡いですわね、ソニア」
「まあ、お前がせっかく用意してくれたんだし、今日はこれでも良いかな」
ソニアはツガルの指先からそっと寝間着一式を摘み取ると、ひとつひとつ装着感を確かめるようにツガルの目の前で身に付けていった。
それを呆然と眺めるツガルだったが、体の中心に血流が集まり熱を帯びていくのを感じていた。
「ソ……ソニア~~っ!」
がばぁ!
ツガルは感動と興奮に身を任せて、ソニアの肩を両腕で包むように抱きしめた。
そして、ソニアからのツッコミに備えて目をギュッとつぶる。
……しかし、ソニアから受けたのは掌底でも鳩尾蹴りでもなく、まるでいたずらっ子をあやすような優しい頭なでだった。
「ほらほら、お前も服を着ないと風邪引くぜ?」
ぽんぽん。
ソニアに後頭部を優しく叩かれて、ツガルは毒気を抜かれたようにおとなしく夜着に身を通した。
それから2人は翌朝の準備を済ませると、交わす言葉も少なに、それぞれのベッドに就いた。
「……(おかしい。おかしいですわ。どうしてソニアはいつものように激しく抵抗しないのでしょう)」
ツガルはソニアの寝息を聞きながら、じっと天井を見つめて考える。
ツガルにしてみればソニアに嫌がられるのも承知で、むしろ嫌がる彼の反応を見たいが為に大げさに羞恥心を煽っていたのだが。
「……(嫌がられない、と言うことはわたくしの無作法も許されている、受け入れられているということなのでしょうか)」
ツガルは思い悩む。
ツガルはソニアを大変気に入っていた。
ソニアの中身が男で、敵国の騎士であることも重々承知している。
その上で、彼にならば文字通り自分の全てを明け渡しても良いと思っていた。
彼女は元々、男女の交わりについて興味を持っていたし、自分の欲望を持て余し気味ではあった。それが男の体を手に入れた事で発露し、今や異性となった元の自分の体を相手に劣情をぶつけてきた。
だからこそ、果たして自分が今抱えている感情は恋愛と呼べるものなのかを真剣に疑っているのだった。
「……(わたくしは、ソニアの事を本当に愛して、恋しているのでしょうか? わたくしは、ソニアを受け入れる事ができているのでしょうか? わたくしは、彼を信じて良いのでしょうか?)」
ぐるぐると思考は巡る。
それでも目は冴えて一向に眠くならない。
ツガルが掛け布団を食いしばってウンウンと思い悩んでいると、不意に部屋の中からベッドの軋む音が聞こえた。
彼女の隣、ソニアのベッドからだ。
結局ソニアはツガルが買ったセクシーすぎる下着と寝間着だけを着て寝てしまったはずだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます