ep3-6
ソニアの体をスポンジ代わりにすること十数分、2人とも頭まで泡まみれになった所でツガルはようやくソニアを解放した。
「ふぅ……なかなか良かったですわよ、ソニア」
「う、うぅ……ひどい」
ソニアは体中を好き勝手に弄ばれてぐったりとうなだれながら、既にぬるくなり始めた湯を汲んでツガルと共に泡を洗い流した。
そして、2人で並んでようやく湯船に浸かった。
なみなみと湯を注いでいたので、2人分の体積に押し出されて大量の湯がバスタブから溢れて浴室の床を満たした。
「はー、こうやって2人で入ると気持ちが良いですねえ、ソニア」
「お前はそうだろうけどなぁ…」
「おや、お気に召しませんか?」
「……いや、確かに2人でいると、1人でいるときより楽しいな」
「そうでしょう、そうでしょう! わたくし、お城の中ではずっと1人でしたので……こういう事に憧れていたのです。誰かに押し付けられた方ではなく、自分で選んだ相手と一緒になりたいと」
「……そうか。お姫さまってのも大変なんだな」
「結局、逃げ出してしまいましたけれどね」
ツガルは眉をハの字にして困った顔のまま、舌を出しておどけてみせる。
「あ、そうそう。せっかくの機会ですし、親睦を深める為にも今夜は一緒に寝てみるというのは如何でしょうか?」
「調子に乗るな。まったく、お前のそういう下心ミエミエのスケベな所が無けりゃ、オレだって喜んで一緒にいてやるのによ」
ソニアは呆れながらため息をつき、湯船に肩まで沈む。
「あらあら、ソニア。今何と? わたくしと一緒に居たいとおっしゃいました?」
「都合よく解釈するな。スケベを治せと言っている」
「まぁまぁ、照れなくてもいいのですよ。オホホ……」
茶化すツガルをジト目で見据えるソニア。
と、そこであることに気づいた。
ツガルの肩が湯からはみ出して震えているのだ。
「なあ、ツガル。ちゃんと温まってるか?」
「大丈夫ですわよ、心配いりません」
「ほら、肩が……うわ、冷たっ!」
「……お気になさらず。仕方ありませんわ、この体にはバスタブが小さすぎるのがいけないのです」
困った顔で、しかし笑みを浮かべるツガル。彼女はソニアにスケベな狼藉を働く一方で、この様に細やかなことでソニアに気遣う。
それがソニアには堪らなく不平等に感じられるのだ。ソニアを好き勝手に弄ぶなら、それならそれで余計な気遣いなどせずもっと傍若無人に振る舞えばいいものを。
ツガルが自己犠牲にも近しい優しさを見せることで、ソニアの心はどんどんかき乱されていくのだった。自分もツガルの事を気遣わずにはいられない、といった風に。
「……ったく、仕方ねぇな。ほら、こっちに足伸ばせよ」
縦長のバスタブに横向きになって2人で並んで入っていたので、ツガルは足を窮屈に縮めていたようだった。
ソニアは水中でツガルの足首を掴むと、強引に自分の方に向けさせた。
「ソ、ソニア。それではソニアの浸かる場所が……」
「良いからお前は足を伸ばしてろ。こうすれば肩までお湯に浸かれるだろ? オレはここで良いからよ」
ソニアはそう言うと、ツガルに背を向けてツガルの伸ばした足の上に座った。
そして、ツガルの胸に自分の背を預ける格好となった。
「重いか?」
ツガルと同じ方向を向いたソニアが、振り返らずに言った。
「い、いえ。大丈夫ですわ。でもこの様に密着されるとですね……」
「……なんか尻に当たってるな」
「あの、その、それは……」
「まあいい、風呂に入ってる時ぐらい細けぇ事は言わないでおくぜ。しっかり温まれよ」
「……ありがとうございます、ソニア」
2人は湯が冷めるまで、ゆっくりと休息し旅の疲れを癒すのだった。
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