ep3-3

「まあ、良いでしょう。複雑な魔力回路が必要になったときは当面はわたくしが描きます。ソニアは道中で使えそうな回路のページを暗記しておいてくださいませ」

 宿の部屋のテーブルを占拠したツガルは紙の地図を広げて旅の経路を書き込んでいく。

 ソニアはベッドに寝転がりながら魔力回路事典に付箋を貼る作業を続けていた。

「必要になったときって、どんな時だ?」

「そうですわね…元に戻る方法が分かったときでしょうか」

「元に戻る!? それも魔力回路でできるのか? なら早く描いてくれよ」

「お待ちなさい。それがわかっているならば、わたくしもすぐにやっていますわ」

「そ、そうか。そりゃそうだよな。すまねえ」

「まずは、わたくし達がどのような魔力回路によって魂を入れ替えられたのかを分析する必要があるのです。そこから逆算して、元に戻すための回路を設計しなければなりません」

「……道は長そうだな」

「大きな魔力を使えば、その余波は身体に残るものです。ですから、魔力の余波を分析できるほどの大きな研究所を探そうと思います」

「なるほどな。でもよ、メイルシュトローム国の王様に頼れば研究所ぐらい見繕ってくれるんじゃねえのか?」

 ソニアが何の気なしに疑問を投げかけると、ツガルはペンを置いてため息をついた。

「それは難しいですわね。わたくしのこの身体の本来の持ち主は、その王様を暗殺するために密入国した犯罪者なのですよ。それに今では裏切り者として仲間からも追われている身。しばらくはメイルシュトローム国から離れた方が良いでしょう」

 ツガルは暗にソニアを責める。

 何も知らずに唆されたとは言え、確かに彼は彼女の父親を倒すつもりで来ていたのだから。

 ソニアは何も言わずツガルに従う事にした。

「それで、これから先の目的地は決まったのか?」

「隣国、ガルフストリーム国に行きます。メイルシュトロームと同じく魔法大国として名を馳せる双璧ですから。その国の王立研究所に掛け合ってみようと思います」

「すげえな、さすがお姫様。頼る当てはあるのか」

 興奮気味に食い入るソニアをなだめて、ツガルは怪しく微笑んだ。

「そうですわねぇ。なるようになれ、ですわ」

「行き当たりばったりかよ……」

 不透明な行き先にソニアの不安は募るばかりであった。

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