ep3-2

「ふぅ……傷が増えてきましたわね。ソニア、回復魔法をお願いします」

 夜の森を抜けた2人は山の麓の町が見えてきたところで木陰に腰を下ろした。

 ツガルがソニアを守ると言った手前、戦力になるツガルばかりが矢面に立ち魔物の襲撃を打ち払ってきた。ソニアも剣を振ったが、剣の心得が無くとも体力はあるツガルには及ばなかった。

 しかしせめて休息の時ぐらいはソニアの有り余る魔力を活用してもらおうと思ったのだが……。

「すまねぇ、実は……」

「魔力回路が描けない!?」

 出身が魔力を好まない国であったという事もあり、ソニアは騎士として生きてきた頃から魔力の扱いには疎かったのだ。

 基本的な回復魔法の魔力回路さえ描けない体たらくであった。

「よろしい、わたくしがみっちり教えて差し上げますからよく見ていてくださいませ。いいですか、まずは……」

 ツガルは傷付いた身体を引きずりながら剣の鞘で地面に円や直線が複雑に絡み合った図形を書き始めた。

「ここの回路を繋げることでリピーターが…」

「うんうん」

「こうすることでパルサー回路になりますから、ここを繋げて……」

「ふむふむ」

「こうすることで入力信号を反転させることができるのです。わかりましたか?」

「ああ。わかった。いっぺんには覚えきれねえってことがな」

「……はぁ~あ」

 ツガルはがっくりと膝をついて失意のポーズをとつた。

「わかりました。これから少しずつ教えていきますわ。こればかりは身体ではなく頭で覚えたものですから、仕方ありませんわよね……」

「なんか、すまねえな……」

 結局、ツガルが最後まで描いた魔力回路にソニアが魔力を注ぐことで二人は何とか旅の傷を癒したのだった。

 傷が癒えて町に着いたのは既に昼過ぎとなった。

 ツガルが宿を探す間、ソニアは何とかツガルの役に立ちたいと思い独学で魔力回路について学ぼうと決めた。

「分かりやすい参考書とかあれば良いんだけどな…勉強嫌いのオレでも覚えられるような……っと、これは何だ?」

 ソニアが何気なく手に取ったのは…。

「こ、これは!」

 ソニアは自分にぴったりだと思える本を見つけ、すぐさまその本を購入した。

 そして、宿。

 ツガルはソニアが熱心に本を読んでいる事に感心した。

 よく見れば本の小口から大量の付箋がはみ出している。

「ソニア、わたくしは嬉しく思います。貴方を脳筋肉と呼んだのは撤回いたしますわ。勉強ははかどっていますか?」

 ツガルはソニアの家庭教師にでもなったかのような面持ちで彼の背後からそっと本の中身を覗き込んだ。

 だが、ソニアが読んでいたのは魔力回路の教本ではなかった。

「おう、ツガル。見てくれよ。この本、オレにぴったりだと思わないか?」

「あの、ソニア……その本は?」

「魔力回路事典だとよ。魔力回路がどんな風に書いてあるかはサッパリだけど、実例と用途だけはバッチリ書いてあるんだ。すぐに開けるように、使えそうなページに目印付けてる所なんだぜ」

 ツガルが付箋をよく見ると「回復」や「炎」など単純な言葉が記されていた。

「あの、ソニア……魔力回路というものは原理を学んで自分で状況に応じた回路をその場で組み立てる事に意義が……」

「まーまー。堅いこと言うなって。ちゃんと勉強はするけどよ、即戦力にならないとお前もキツいだろ?」

「それは、そうですけど…」

「ちゃんと使いこなすから見てろって! こんなのはどうだ? 『回復』!」

 ソニアが『回復』と書かれたページを開き、手を乗せるとなんと本に印刷された魔力回路に魔力が流れ込み、ソニアの体力が回復した!

「あの……わたくしを回復する事はできないのですか?」

「……あ、じゃあこれはどうだ? 『竜巻』よ!」

 ソニアが『竜巻』の魔力回路に手をかざすと、猛烈な竜巻が発生した!

 ただし、本の上に乗る程度の超小型のものが。

「よし、成功だぜ!」

「ど、どこかですの!? はぁ、わたくし心配になってきましたわ……」

 その後もソニアは超小型の攻撃魔法を披露し、ツガルをさらに落胆させるのだった。

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