第3話 最弱の最強コンビ

ep3-1 第3話 最弱の最強コンビ

 ソニアとツガルが山村を離れて、ほんの数時間後。

 2人は魔物に囲まれて大ピンチを迎えていた。

 片や、魔王の実娘であり最強クラスの魔力を秘めた姫君。

 片や、魔物と対等に渡り合える最強クラスの剣技を持ったスラム上がりの王宮騎士。

 通常であれば辺境の野良モンスターなど2人にとってはとるに足らない雑魚だ。

 しかし……。

「おい、なんだこの貧弱な身体は! 剣もまともに振れないじゃねぇか!」

「お生憎様。貴方こそなんですの、この身体は! まるで魔力が集まって来ませんわ!」

 入れ替わった2人は互いの長所を打ち消しあって最弱の冒険者コンビとなり果てていた。

 水滴の様な形の青いゼリー状の体を持つその魔物は

 冒険者たちの間でも最下級に弱いと専ら評判の雑魚モンスターだ。

 それらほんの数体に囲まれて既に絶体絶命のピンチになっているのが今のソニアとツガルである。

「ソニア、助けて下さいまし!」

「それができるなら、とっくにやってる!」

「あ痛っ! 指を噛まれましたわ!」

「えぇ!? そいつからダメージもらうなんて相当ドンくさいんだよ! あっはっは……あ痛っ!」

「貴方! 遊んでいる場合ではありませんのよ!?」

 2人が抵抗する程、仲間を呼び出すモンスターは数を増して彼らに迫ってきていた。

「あぁ、もうおしまいですわ」

「せめて『剣閃』が使えりゃ、こんな雑魚ども一掃できるのによ」

「うん…? 何ですって、ソニア」

「せめて『剣閃』が使えりゃ…っておい、なにしてんだ?」

「いえ、なんか…こう。やれそうな気がするのですわ」

「だから、何を」

「ですから…『剣閃』っ!!」

 ツガルは腰に差した剣を逆手に構えてがむしゃらに振った。

 すると。

 ザザザザザシュゥ……!

 ツガルも意識できない程のスピードで彼女の身体が舞った。

 すると、余計な力も加わらずに加速された剣が周囲を蹴散らした。

「な、何をしましたの…わたくし」

 自分の剣を何度も見返して驚愕するツガル。

 それを見たソニアは 成る程と納得した様子だった。

「オレは剣技を体で覚えてたからな。無意識にでも技が出るぐらいになってたんだろう」

「まあ。なんて脳筋肉な殿方」

「うるせ…。ほら構えろツガル。『剣閃』!」

 ソニアが剣技の技名を言い放つと、ツガルはバネで飛び起きた人形のように全身をこわばらせて起き上がり、再び技を繰り出したのだった。

「ちょっと、あの、ソニア?」

「ほら、良いから何も考えるな!『剣閃』!『流閃』!『翔閃』!『流星突』!!」

 ソニアの言葉の指示に、ツガルの身体は鋭敏に反応を示して剣技を放ったのだった。

「な、な、なんですのーっ!?」

 ザシュ! ズバッ! ドゴォォン!

 ソニアの指示によって、2人を囲む雑魚モンスターの群れはほんの数分で壊滅状態となった。

「上出来だぜ、ツガル。いや、オレの身体の鍛え方のおかげかな」

「なんだか、操り人形になった気分ですわ……」

 モンスターを蹴散らしたソニアとツガルは、生き残ったモンスターがまた仲間を呼ぶ前に旅路の先へと急ぐのだった。

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