ep2-3

 宿に戻り、荷支度していると、ツガルに入浴を勧められた。

 確かにこの身体に入れ替わってから水浴びもしていない。服も体も土埃にまみれていた。

 ソニアが悪戦苦闘してドレスを脱ごうとし結局1人では脱げないのでツガルに手伝ってもらってようやく服を脱いでから浴室に入ると、バスタブには白い湯気を立たせる湯がなみなみと注がれていた。

「あ、お湯たまってる……。あいつ、いつの間に」

 宿の者も、入るかわからない風呂の準備まではしてくれないだろう。

 となれば、わざわざ入浴の準備を整えてくれたのはおそらくツガルだ。

 ツガルは自分が入らないというのにソニアのために気を利かせてくれたらしい。

「お姫様……か」

 ツガルはどうも、ソニアをお姫様扱いしたくて仕方ないらしい。

 もしかしたら、自分が誰かに同じ様なことをしてもらいたかったという願望を叶えているのかもしれない。

 いや、もしくはただ単に本来の自分の身体を丁重に扱いたいという至極真っ当な理由であろう。

 なんであれ、ソニアは自分が誰かに大切にされる事に心地良さを感じていた。

 これまで男として生きてきて、地べたの泥水を飲むような生活もしてきた。路地裏の喧嘩ばかりに明け暮れ、生きるために食糧を盗む様なこともしてきた。ほとんど死にに行くような魔物退治に駆り出されては生き残り、剣の腕を上げて騎士団に拾われるほどになった。

 そうして鍛えてきた身体が突然奪われ、今では自分の魂はか弱い少女の身体に納まっている。

 ソニアにはソニアなりの、

 ツガルにはツガルなりの故あって今この様な状況にあり、それを受け入れなくてはならない。

 ならばツガルがしているように、自分も「少女からされたかったこと」を相手にしてやるのが良いのだろうかとソニアは思案した。

 しかしまずは目の前の問題。

「汚れた身体のまま湯船に入るわけにはいかないよなぁ」

 身体を洗わなければならない。

 やれやれ、と溜め息をつきながらソニアは手桶を取った。

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