ep2-2
「大丈夫でしたか、ソニア姫」
安心感のある低い声で囁かれて、姫君は自分が先程からずっと騎士に肩を抱かれている事に気が付いた。
「な、何言ってやがる。姫はお前の方だろ」
「ですが今は誰がどう見ても貴方がお姫様の方ですよ」
「それは…そうだけどよ」
中身が入れ替わっているのだ。しかし外側は確かに彼の方がお姫様である。
「ソニア…それがお前の名前か?」
「いいえ。今日から貴方の名前ですよ、姫」
騎士の方はすっかり自分の外側に慣れたようで、まるで本当に姫を守る騎士にでもなったかの様に身ぶりが堂に入っていた。
「ソニアと呼ばれたら返事をしなくてはなりませんよ。いいですね、ソニア……」
騎士は元々自分のものだった名前を姫君に与えて呼び掛ける。
そうすることでより一層、自分が姫君では無くなったことを実感できるように。
「ソニア、返事をしてください」
「……んだよ」
お姫様扱いをされてソニアは恥ずかしさでいたたまれなくなり、ぶっきらぼうに応える。
「ソニア、わたくしの名前は何と言うのですか? 自分の名前を知らなければ名乗る事もできないのです。教えていただけませんか?」
ほんのわすかな間、身を寄せるだけの付き合いと思い互いに名乗っていなかった。
騎士もソニアも、ゆっくりと自己紹介をする余裕がなかったのだ。
これから元の身体に戻るまで長い付き合いになりそうだ、名前ぐらい教えなければとソニアも納得した。
「ツガルだ。オレの…いや、お前の名前はツガルだ」
「ツガル……良い名です。ツガル…」
騎士は何度も繰り返し自分の名前を口の中で反復する。
「名前を読んでください、ソニア。呼ばれ慣れておかない咄嗟に対応できなくては困ります」
騎士はソニアの手を取り、瞳を覗きこんだ。
ソニアは何度も鏡で見慣れた自分の顔に迫られて怖じ気づく。
その目の奥にある本当の彼女の声に、逆らうことができなくなっていく。
「ツガル……」
「はいはい、聞こえていますよソニア様」
「お前が呼べって言ったんだろうが!」
「はぁ……いけませんね。貴方はもうお姫様になったのですから、言葉遣いにも気をつけていただかないと。ねぇ、ソニア様」
こうして、騎士はツガルになり、姫君はソニアになったのであった。
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