第2話 ふたりの旅の始まり

ep2-1 第2話 ふたりの旅の始まり

 道中の山村に立ち寄った姫君と騎士は、この場で宿を取ることにした。

 幸いこの山村は峠を越える商人のために拓かれた宿場町であったため、寝泊まりには申し分なかった。

 二人は宿の料亭で食事をとった後、今後の旅支度を整えるためにそれぞれ買い出しに出た。

「姫! こちらにおいででしたか!」

 突然の声とともに、姫君は黄金の甲冑をまとった男に腕を掴まれた。

「な…なに…?」

 姫君は咄嗟のことに声も詰まった。

 彼が男の身であった頃は野蛮な連中に囲まれて諍い事にも慣れたものであったが、今や彼も女の身。自分より体格の良い男に制される事に身体が恐怖を覚えた。

「あなたを追ってここまで来たのです。見合いの席では私の侍従が大変失礼をしたようで……ですからあなたの粗相も咎める心算はございません。もう逃避行は充分でしょう、城へ帰り縁談の続きを致しましょう」

 男は一方的にまくし立てると、姫君を白い馬車の方へと導く。

 姫君は抵抗するので半ば引きずる格好となっていた。

「何をしている、ソニア様から手を離せ!」

 腰に響く様な重低音。見れば騎士が抜剣し黄金の甲冑の男に対峙しているではないか。

「なんだ貴公は…名を名乗れ!」

「貴様に名乗る名などない!」

 騎士は一歩も譲らぬといった佇まいで黄金の甲冑の男を睨みつける。

「その紋章…さては貴公、東国の王宮騎士か。身の程知らずめが、わきまえよ!」

 男は騎士のマントの紋章を見遣ると態度を変え横柄な面構えとなった。

「グスタフ殿、日を改めて貰おうか。ここは既に王家の力の及ぶ所ではない。山あいで野盗に襲われたとしても加護は受けられないのだぞ」

 騎士は刺突の構えから斬撃の構えへと転じる。

 それの意味するところは、今この場で黄金の甲冑の男を切り倒し山中へ棄てても野盗の仕業として処理させる事もできるという脅しだ。

 男は青ざめる。

 腕の中で震える姫君を忌々しげに見放し引き下がった。

「いいでしょう。私たちは明日に此処を発ちます。その目立つ馬車、乗り換えた方が良さそうですよ」

 騎士は姫君のもとに歩み寄り、マントの内に包み隠した。

「怖い思いをさせましたね、お姫様」

 騎士は腕の中から見上げる姫君に優しく語りかけた。

「うっ……うぅ……。オレだって、男だった時はあんなヤツ何ともなかったのによぉ……」

 姫君は女から見た男の恐ろしさと頼もしさを、その身をもって学んだのであった。

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