ep1-8
それからしばらくして2人は無言で瓦礫の中から這い出た。彼も彼女も自分の身体の重心が急に変わってしまったことに順応しきれずよろめきながら、古塔の残骸から離れてようやく腰を下ろしたのだった。
「見事に壊れちまったな…」
「あれだけの高さから落ちて無事でいられた事だけでも僥倖としましょう」
「無事…ねぇ。全く無事なもんか。オレたち、身体が…えっと、一体どうなっちまったんだ?」
「魂が入れ替わってしまったみたいですわね。しかし記憶は元の身体の物を引き継いでいる…魔力回路の構造には非常に興味をそそられますが、この様に全壊してしまっては復元は不可能でしょう」
「復元は不可能!?」
「魔力回路を作った本人も死んでしまった様ですし、まず全く同じ物を作るのは出来ないでしょうね」
「うんうん、つまり…??」
「わたくし達は、一生このままということですわ」
「そ、そんな……!!」
がっくりとうなだれるのは、少女の身体となった彼。
一方、騎士の身体となった彼女の方は既に諦めが付いたのか、それとも元々肝が据わっていたのか、平然としているように見えた。
「あら、わたくしの身体が気に入らないのかしら?」
「気に入るも何も…お前の方はどうなんだよ。そんな男の身体に納まっちまって」
「…わたくし、その身体に丁度飽きてきた所でしたの。宜しければ差し上げますわ」
「おいおい、良いのかよ。こんな、小さな女の子じゃねぇか」
「実はもう、覚悟はしていたのです。幼い頃から周りの者達はわたくしの身体を欲しがっていましたわ。ある者は政治の道具として。またある者は先程の魔術師のように魔力回路の動力源として…」
「……そんな」
「でも、貴方のような勇敢で優しい殿方に差し上げられるのでしたら、悔いはありません。見ず知らずのわたくしを、こんな姿になってまで助けてくださるとは…そう言えば未だ御礼を申し上げておりませんでしたわね」
騎士の身体となった彼女は跪き、少女の身体となった彼の手にそっと口付けをした。そしてその細い手を丁寧に逞しい両手で包み込んだ。
「助けてくださいまして、ありがとうございました」
「お、おう」
「これからはわたくしが貴方の騎士となり、永遠にお守りいたしますよ、姫」
彼女は深々と頭を下げた。
彼の方は、戸惑いながらも…しかし、はたと気付く。
「ひ、姫!? お前、いや、オレ? この体、お姫さまの身体なのか!?」
「はい。あなた様は今やこの国、メイルシュトロームの王女であらせられます。えっへん」
跪いた騎士が悪戯っぽく歯を見せて笑った。
表情だけは年頃の少女のようだった。
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