ep1-4

 塔の中は広い筒の様にほぼ全てが吹き抜けとなっていた。満月にはまだわずかに足りない月明かりが側面の窓から塔の基部を照らしていた。

 最上階へと続く螺旋階段が窓に沿って緩やかにカーブを描いている。その先は天井に空いた穴へと続いている。おそらく最上階の入り口だろう。

 ツガルは音を立てないように慎重に階段を昇っていった。

 途中、朽ち果てたゾンビの亡骸が階段に散らばっていた。しかしあの黒い羽根はどこにも見当たらない。

 そして、ゾンビがここで力尽きているというのに少女の姿は無い。

 やはり何か別の魔物が潜んでいるのかもしれない。

 ツガルはより一層注意深く階段を昇り、最上階へと辿り着いた。

「……! ……!」

 何事か、人の声が漏れ聞こえた。

 少女の物ではない、濁ってしわがれた声だった。

 何と言っているのか…? 確かめようとツガルが最上階に足を踏み入れた途端!

「シャーッ!」

 黒い影がツガルの頭上を掠めた。

 とっさに屈んで避けなければその魔物に捉えられていたかもしれない。

 抜剣したツガルが剣の側面を魔物に向ける。月の光が反射して闇の中に魔物の姿を照らし出した。

「シュルシュルシュル」

 その魔物は蛇の骨の頭と体に蜘蛛の足と黒鳥の羽根を持つ、まるで人間の脊椎と肋骨から羽根が生えたような姿をしていた。

 成る程、この魔物がゾンビの体を操り少女をここまで運んだというわけか。そしてこの魔物の主人たる魔物遣いがこの奥にいるのだろう。

 であれば、先ずはここを通らなくては先に進めない。

 この様な雑魚に足止めされている場合ではないのだ。

「『流閃』!」

 静かに唱え、ツガルは剣を逆手に持ち、舞った。

 つま先を軸に1回転するように身体をひねり、魔物に向かって倒れ込む。

 身体が地面につく直前で踏みとどまり、後はただ起き上がって納剣した。

 それだけの動作で、間合いひとつ離れた所でツガルを睨みつけていた魔物は叫び声をあげる間もなく輪切りになって床にこぼれ落ちた。

 ツガルが対人戦では見せない剣技のひとつ、『流閃』である。回転により加速された剣先から生じる衝撃波で離れた敵を刻む技であり、魔物と戦うために得た力だ。

 ツガルは最上階の奥から漏れる光を目指して進んだ。

 そしてついに見つけた。哀れにも口枷を嵌められうなだれる少女の姿を。

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