ep1-2

 それから数日後。

 ソニアは母である王妃マリアが招待した10人の貴族達との夜会の席に着いていた。

 要するに、お見合い相手との集団面接の様なものだった。

 表向きは舞踏会。その実、まさに十人十色の異心を抱えてソニアを娶ろうと考える老若様々な貴族達からソニアはひっきりなしにダンスに誘われては口説かれていた。

 中にはソニアの祖父と同じ年頃の貴族もおり、若いソニアは彼がダンスの最中に倒れないものかと内心ヒヤヒヤしたものだった。

 ソニアは領地の内政事情に疎い訳でもないが、今はとにかく彼らの中で誰が一番マシなのかを見定めるのに必死だった。

 何故なら彼女の結婚式は既に明日の満月の夜と定められていたのだから。

 ソニアは今日のうちに相手となる貴族を選び、既成事実を作るため一夜を共にしなければならなかった。

 自由恋愛が認められない身分とは言え、せめて相手は自分で選びたい。そういったソニアの意思を最大限に尊重されたのがこの舞踏会なのであった。

 気を急く彼女の父、メイルシュトローム王をなだめてこの場を整えてくれた母の面目を潰さないためにも、ソニアは決断しなければならなかったのだ。

 さて次の相手は。

 成る程、メイルシュトローム国の交易相手ガルフストリーム国の王室に最も近い分家のグスタフ・ビンネンメーアね。

 等々、見合い写真に添えられた肩書きを思い出しながら笑顔でダンスの誘いを受ける。

 ソニアは腰に手を回されて背筋に鳥肌を立たせながらも、目の前のグスタフを冷静に分析する。

 世間体を気にする伊達男。

 身分の低い相手にはいくらでも傲慢に振る舞える。

 そんな所だろう。

 ソニアはとりあえずグスタフの事を候補のひとりとして覚えておくことにした。

 演奏の曲目が切り替わった所でソニアは一礼し、グスタフに背を向けた所で後ろから腕を掴まれた。

 ハッと振り返るソニアにグスタフはそっと耳打ちする。

「ソニア姫、どうかこの後2人きりで話がしたい。バルコニーでお待ちしています」

 一方的に告げたグスタフは、敢えてソニアに見えるようにまっすぐバルコニーへと向かって行った。

 ソニアはグスタフの背中を目で追う。

 まだ夜は寒い季節。待たせてしまっては失礼かもしれない。

 ソニアは逡巡したが、その内に次の貴族から誘われてしまいタイミングを逃した。

 結局ソニアがバルコニーに現れたのはあと2人分のダンスの相手を終えた後だった。

 そっと窓からグスタフの様子を窺うと、両手で肩をさすりながら震えており大分不機嫌になっているようだった。

 それでもソニアが現れると即座に笑顔を貼り付けるあたり、なかなかの伊達男であった。

「お待ちしておりました、ソニア姫。きっと来ていただけると信じておりましたよ」

 白い息で口元を覆いながら涼しげな表情のグスタフ。もしかしたら彼は忠犬の素質があるかもしれない。

 ソニアがバルコニーに出るのに続いて、ひとりの老いた男がついてきた。グスタフの執事だろうか?

「おい、そこの。席をはずせ。私はソニア姫と2人きりで話がしたいのだ」

 グスタフは冷淡な表情を執事に向け、追い払う様に雑に手を振った。

 しかし執事の者は身動きをしない。

 それどころか、わずかに腐臭を放ち目は白く濁りきっていた。

 異変を察知したソニアが振り向く前に、執事のゾンビはソニアの両腕を羽交い締めにして捕らえた。

 そのまま背中から黒鳥の羽根を生やし、粘液まみれの羽毛を撒き散らしながら、飛んだ。

「キャアアアア!」

「ソ、ソニア姫ーっ!」

 大きく上下にふらつきながら夜の闇に向かって消えていくソニアとゾンビを、グスタフは呆然と見送るしかなかった。

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