第6話

電車の中は当たり前に混雑している。ちょうど朝の通勤通学の時間帯だ。

満員電車と言うほどではないが、そこそこの乗車率、座ることは諦めた方がいいといった感じ。


彼は次の駅で乗ってくるらしい。


(こんなに混んでるとはねぇ、こりゃ骨だね)


伊丹にはあまり常識が無い。あまりと言うか全然かもしれない。


普通ならこんなところで人探しなんてしない。改札とか駅の出口とかで探す方が合理的だろう。彼は異常ではあるがバカではない、それぐらいはわかっている。


ただ彼は、そうやって探し出すよりも、人混みの中から自然に出会う方が面白いと思った。彼にとって気が乗るかどうかというのは、かなり重要だった。

それで何日か時間を潰すのも、「それはそれで」という気分だったようだ。


しかし、実際のところはあっさりしていた。あの少年は、この車両にふらりと乗り込んできたのだ。10両以上は車両はあったが、『ここ』に乗ってきたのだ。


乗り込んできた少年は、乗り込んだ方とは反対側の扉の前まで進み、扉の窓からぼんやりと外を眺めていた。


『ごっこ』を終えた彼は、『冴えないヤツ』の方に向かっていった。


「やあ、おはよう」


『冴えないヤツ』は、その声が確実に聞こえていたが、確実に聞こえないふりをしていた。


「君って、瓜生くん?」


自分の名前を呼ばれて無反応でいれる人は少ない、彼は振り返り、自分の名前を呼ぶ声のする方へ目をやった。

そこには、この辺では見たことのない真っ黒の制服を着た同い年ぐらいの少年が立っていた。


(誰だろうこの人?)


僕にこんな知り合いはいない、それだけはすぐにわかった。理由は簡単だ、僕はそんなに友達がいないから。


「すいません、どちら様ですか?」

少しおどおどとしながら、訝しげに訪ねる。


黒制服の少年は返事をきいてニコッと笑みだけ返すと、自分のことをつま先から頭のてっぺんまで、何かを確認するようにじっくりと眺めてきた。


何も言えずに少し身構えていると、頭のてっぺんまで動いた黒制服の少年の視線が折り返して止まり、真っ直ぐ自分の瞳を覗き込んできた。


目線を外すこともできずいると、彼は少し嬉しそうに話しかけてきた。


「ああ、やっぱり君が瓜生くんか、瓜生 虎男くん!急に話しかけちゃってごめんね、君に少し聞きたいことがあってね!探してたんだよ!」


そう言った後、伊丹は瓜生の耳元にグイッと顔を突き出して囁いた。


「あのさ、君って、なんで死んだんだい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る