第5話

最寄りの駅まで徒歩10分、今日も学校への通学のために、まあまあ混んでる電車に乗る。

向かいの席に座る学生たちは、思い思いに楽しげな話題を友達とかわして、わりと自分勝手な解釈で話を展開している。

彼らは、8割がた意味のない相槌だけで会話が出来るスキルを持っているようだ。

電車に揺られ、朝のダルさに少しぼーっとしていると、そんな会話が自然と耳に入ってしまう、しかし、自分とは違う感覚の人の話に、聞き耳を立てるのは、退屈な通学中の暇つぶしとしてはそれなりだ。


「お前ってさ、結局、限界まで薄めたカルピスみたいなやつだよな?!」


向かいの席に座る男子は周りの迷惑と言うには、すこし小さく、となりの友人に対してと言うには、すこし大きな声で、会話を続けている。隣の友人も同じぐらいの音量で答える。


「んなことは思ってねーよ!ヤバイな!お前!ヤバイ事ばっかやってさ!まじヤバイぜ!この前ファミレスのドリンクバーで作ったあのヤバイ飲み物みたいだな!!」


ヤバイ、ミーには意味がわからない。ただ、ファミレスのドリンクバーはマナーを守って使うべきだ。


「最近はそういう色々混ざってるほうがいいんだよ!」


本当かどうかはわからないが、彼の中ではそうなのだろう。


こういう何も考えてないような、中身のないくだらない話、いや、ほんとにくだらない。

でもそれが、そのくだらなさがいいんだ。ミーのこの通学中をこんなにも普通な、どこにでもありそうな、意味のない「日常」って感じにしてくれる。

このまま本当に、彼らが向かっている高校に行って、朝の授業を受け、昼ゴハンを食べ、午後の授業が終わった後には、部活をして、クタクタになったあと、ふらふらと電車で家に帰って…


と、そんな妄想をしてみる。


だけどミーはそんな生活が送れないんだ、ミーは異常なんでね。


でも、そんなミーでも普通の高校生として、毎日を過ごしたい。何気ない人生を過ごしたい、心の底からそう思うこともあるんだ…


ごめん、嘘だ。


いや、全部嘘ってわけじゃ無い、僕の中にある普通な部分は、100%そう思ってる、まあ普通な部分ってたぶん1%ぐらいしかないんだけど。


電車に乗ってからの数分間で、1%未満の普通な「僕」の心の底からの満足は得られたハズなので、通学ごっこはこの辺にしておこう。


じゃあ、ここから本題。結局99%以上の、99%異常の「ほとんどのミー」にとっての目的は、朝から「通学ごっこ」をしてまで達成しようとしている目的は、「次の駅」だ。正確には次の駅に乗ってくる「ある人物」だ。


彼とは初対面だ。だけど彼と会う事になぜか分からないけど期待を感じている。まあ、初対面の人間に会う時は大体そうだ。


彼に対する情報は今のところ少ない、確実に分かっているのは外見ぐらいだ。ミーの携帯には彼の写真が入ってる。外見についての第一印象は、うーん、なんていうか、まあ、顔は良くもなく悪くもなく、身長も高くもなく低くもなく、髪型はその辺の安いとこで切ったって感じで、服装は制服だし…その辺を色々加味して、分かりやすく一言で言ってしまうと…


「冴えない奴」って感じ?


ただ、その冴えないやつは、なにかを隠し持ってるらしくて… 結局彼の評価はそれ次第ってことだ。そいつを見るためにわざわざこんな電車に乗って、通学ごっこしてるんだ。

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