第4話
「普通の少年」でいたかった。
いつも通りの一日だと思っていたあの日、
なんの変哲も無い、いつもの通学路。
少なくともあの日までは普通の少年だった。
あの日あの時あの場所で、
彼に出会うまで、僕は「普通の少年」だった。
出会った時から今に至るまで、一度たりとも
「普通の少年」
であったことのない、彼に出会うまでは…
電車に乗る人の波、その中にごく普通の少年、制服、黒のリュックサック、大きくもなく小さくもない身長、少し痩せ形、目の下には少しクマがあり、なんともパッとしない。そんな少年。
月曜日の朝、学校に行く。憂鬱さは3割り増し。
毎日同じ時間に起きて、同じ電車に乗る。
ぼんやりと車窓に流れる景色を見ながら思うことは、基本ネガティブだ。
毎日ほとんど同じことをしているだけで、心が躍る出来事なんてほとんど無い。
輝かしい明日だの、未来ある若人だの、きゃっきゃうふふだの、そういうのとは無縁だからだ。灰色だ、灰色の人生。ラ・ヴィ・アングレー。
はぁ、いつからこんな毎日になったのか… 境目は分からない。決定的にこの日から変わったという日は無いのだろう。
ゆっくり、徐々に、色が無くなっていった。そういう事なんだろう。無色透明で無味無臭の毎日になる日も近いのかもしれない…
いやいやいや、まてまて、僕はまだ16だ!少年だ。高校生だ。未来ある若人だ!
僕の人生は青くあって然るべき、今はその努力を怠っているから、そんな事になってるだけだ!人生が灰色だって?ずっとそのままであってたまるか!テンションが下がりすぎてとんでもない想像してたよ…。
でも、僕がそんな(今は、)灰色な毎日を過ごしてしまう理由はわかっている。
自分が「冴えないやつ」だからだ。
自分でそう思うのだから間違いない。しかも、人から言われた事もある。完璧だ。
正直に言えば、「冴えない」なんて人から言われて、いい気はしない。するはずない。
でも、だからと言って無理やりにでも自分を変えて、「冴えるやつ」を演じるのは何か違うと思うのだ。
いや、それも言い訳だ。分かっているのだ。本当は冴える奴になりたいんだ。でもどうしたらいいかわからないんだ。
そもそも、冴えるやつってどんなやつだか全然分からないし、具体的じゃないし、努力でなんとかなるのかもわからないし!!
はぁ…1つ言えるのは…
こんなことウジウジ考えてるから、「冴えないヤツ」だなんて言われるってこと。
僕の名前は(瓜生 虎男)ウリュウ トラオ という。この名前も全然好きになれない。こんなに冴えないやつのくせに、名前だけはやたら厳つい。「虎」に「男」なんて…こんな名前は自分にあってないんだ…名前負けもいいとこだ。
「虎男」なんて名前をつけるなら「戦国きっての傾奇者」とか「世紀末覇者」とか、あとは「人類最強の男」とか、それぐらいの「猛者」じゃないとダメだろう。
僕が名前負けしないラインで考えれば、せいぜい「猫娘」ぐらいがいいところだ。
はぁ…自分で言ってて悲しくなるけど。
今日の気分は昨日の宿題、アレを引きずっているところがある。自己紹介の文章をデータにして提出するってやつだ。自分の事をよく考えるってのは嫌になる。
特に、自己PR、自分の長所について、ってやつだ。あれはキツイ…頭の中にいくつか自分の長所の候補が浮かんでは消えて、最後に言葉にするときには「特にありません」に変わってしまう。
少し勉強ができるだの、小学校の時に習っていた習字だの。自分の中では少しは自信のあるものも、外の世界に出て来た途端に、とてもじゃないが自慢できるようなものでは無いように感じてしまう。そんな気がしてしまう。適当に書いておけばいいのに。
そしてなかなか終わらない宿題で、さらに気分が落ち込んでいくんだ…。
こんな宿題の文章を気にしてる人なんて誰もいない、先生がチョロっとみるぐらいなもんだろう、そんなことはわかっているんだけど、どんなことにも上には上がいる。これを長所だなんて言うなんておこがましい、そう思ってしまう。
この宿題は、自分がどれだけ冴えないヤツなのかを再確認させられてしまう。
いつもそうなのだ。こう言う類の状況に陥った時、「自分」と言うものを主張しないといけない場面で、僕はいつも、大した能も無ければ鷹でもないクセに(ある意味で虎ではあるんだけど…)隠してしまうのだ。
たった一つだけ、他の人には無いもの、僕にとっての牙になるかもしれない、自分の唯一の長所、特徴と呼べるかもしれない能力のことについては…
でも、この友達にも話したことのない能力は、僕の精神の最期の支えだ。
人に言わないことで、隠すことで、使わないことで、この能力に意味を持たせようとしているんだ。
できれば使わないほうがいいけど、持っておきたいもの。
僕にとってはこの力は、「保険」と同じなんだ。
それは結局何なのか?その能力、僕の持っている力、それを一言で言うなら、それは
「爆弾」だ。
僕は爆弾を持っている。いつでも、どこでも、ポケットの中に。「保険」の「爆弾」を
だけど、たぶんこの爆弾を使う日は来ない。
これを爆発させて、何も起きなければ。何も変わらなければ、僕には本当に何も残らないからだ。
僕にとってはそれが一番怖いのだ。
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