第11話対面

「今回は無理な申し入れを受けてくれて本当にありがとう」

思ったより大きな手が差し出される。

「いえ、こちらこそありがとうございます」

ボクサーらしくない細い手でしっかりと握る。

「思った通り、優しそうなご主人だ」

「いえ、そんな…」

「今日はね、カンヌまでの準備をお願いに来たんだ」

「まず、パスポート取ってください」

「そうですね、僕以外は持っていません」

「あれ、ほんとにメンドクサイんだよね。時間もかかるし。秘書を同行させますから、取りに行ってください」

「ありがとうございます」

「あとね、カンヌもメンドクサイの。ドレスコードがあってね。男性はブラックタイ、女性はドレス」

「そうなんですね…」

「銀座の三越にね、私の外商があって、そこで見繕ってもらうから、子供達もサイズ合わせに行ってください。それも秘書が同行します」

「ありがとうございます」

「さくらさんは、ドレスを作りますから採寸してもらって下さい」

「作るんですか?」

「そうですよ。エステも行ってね」

「エステですか?」

「はい、コレうちのグループのお店。好きなお店に時間のあるときに行ってください。手配しておきます」

「何から何までありがとうございます」

「いや、こちらこそ。会社や学校を休んでもらって申し訳ない」

会長って、こんなに気さくな人だったんだ。


「さぁ、準備の話はこれくらいにして、キミはどんな仕事をしてるの?」

そこから僕の仕事の話になって、独立を視野に動いていると話した。会長はなんだか真剣に僕の話を聞いて下さって、なかなか目の付け所がいいと誉めていただいた。そうこうしているうちに車が自宅前に到着した。


「会長から、奥様とお子様へお土産です」

芍薬の花束とケーキの箱を渡された。

「お土産まで、ありがとうございます」

「みさなんによろしく」

車が出るまで見送って、玄関を開けると子供達が待ち構えていた。車の音が聞こえたのかな。

「パパー!おかえり!」

「すごい!どうしたの?」

「ケーキ!ケーキ!」

みんな口々に騒いで喜ぶ。

「わぁ、私の好きな花。買ってきてくれたの?」

さくらまでうっとりと、とても嬉しそうだった。

「土方会長からお土産で頂いたんだ」

そういえば、花なんて贈ったことないな。

こんなに喜ぶなら、今度買って帰ろう。

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