第8話 過去

「山田くん…」

「はい…」

「リツくんも、さくらに会ってたの?」

「はい…黙っていてすみませんでした」

「山田くんはともかく、リツくんみたいなイケメンと会ってたなんて…複雑だなぁ」

僕も複雑です…

「さくらに会いたいって言ってたから、予定立てて連絡して。キミも来てね」

「わ、わかりました」行きたくない…。

うなだれるように背を向け、片手を上げて去っていく藤木さん。なんかごめんなさい。


そうだ、佐藤さんに相談しよ。



「なんだそれ。さくらさん、何やってたの?」

「レンタルおばさんって、おばさんの派遣です」

「おばさん?デートすんの?」

「そういうわけではなくて、赤ちゃんのいる母親を助けたり、何か相談に乗ったり、いろいろあるみたいなんですが、僕らとはランチがメインで…」

「お前、昼休みにそんなことしてたのか」

「すみません…」

「一緒に行ってやってもいいけど、そのリツってヤツ、大丈夫なのか?ヘンな真似させんなよ」

「僕の言うことなんて聞きませんよ。だから、いざとなったら、佐藤さんと僕で羽交い締めに…」

「なんだそりゃ。心配しなくていいよ。藤木は、ああ見えてボクサーだから」

「え!マジっすか!?」

「うん、大学でチャンピオンだった」

ひぇー。

「弟に言っとけ。ぶっ殺されるぞって」

良かった…。って、良かったのか?

とにかく、帰ってリツに言っておかなくちゃ。





「ただいま」

「おかえりなさい」

玄関で、上着を脱ぐなり問いかける。

「さくら、リツくんって知ってる?」

「…ええ、山田さんの弟さんの?」

「うん。会ってたの?」

「お客様だから…怒ってるの?」

「怒ってる訳じゃないけど…」

はぁ。ため息をつく。

「もう会わないから大丈夫よ」

「それが会うんだよ。近々家に来る」

「え?どうして?」

「うちのコンサルになった」

「そーなんだ…おいしいもの作らなくちゃね」

嬉しそうなさくらの後ろ姿を見て

あぁ、またこの人の悪いクセが出てきちゃったと、僕は頭を抱えた。


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