14
翌朝、私は先に起きて、こっそり旅立つつもりでした。
きっと言葉を交わしてしまったら、あの方の申し訳なさそうな顔を見てしまったら……私はますます不幸になってしまうから。
ところが、ほんのりと部屋が明るくなった頃、私はたった一人でベッドにいることに気がつきました。横にあるはずのぬくもりは、もう既にありませんでした。
あの方は、純血種の王族であって、とてもプライドの高い人――だから、このような間違いを恥じて、先に行ってしまわれたのだ……と、思いました。そして、別れを気づかれずにすむこと、きっと顔を見てしまったら苦しかっただろうと、ほっとしました。が、同時にとても悲しくなりました。
あの方にとって、私はなんて意味のない存在なのでしょう?
ただ側にあって、あの方の美しい容姿に惹かれ、うっとりしているだけの、つまらない女にしか過ぎません。あの方の孤高な魂に触れることもできず、ただおろおろしているだけの……。
そして、シリア様の代わりになるだけの……。
どうせ叶わぬ恋ならば、息の根を止めてください。
私は涙を流しました。そして、頬にひんやりする風を感じました。窓が開いているのです。
ベッドから身を起こし、私は目を疑いました。
まだ青白い生まれたての朝の光が、部屋を満たしていました。昨夜と同じ場所に、全く同じように、セルディ様は片膝を抱えて腰掛けていました。
結ばれていない銀色の髪がかすかに風に揺れましたが、あの方は全く動く様子もなく、遠く外を見ていました。まるで硝子細工を見ているようでした。
おそらく正気に戻られてから、一睡もせず、そこにいたのでしょう。ずっと夜風にさらされて。
私が目を覚ましたのに気づかれたのか、あの方はこちらを向きました。動くのが不思議なくらい、静かなまま。そして、夜風に色でも抜かれたような、蒼白な顔をしていました。緑の瞳には、憐憫と後悔の色が見え隠れしました。
「昨夜は……すっかり自分を見失って……どうにかしていました。君には、申し訳ないことを」
あの方にとって、告白するのも恥ずかしい夜だったのでしょう。でも、私はいいわけも詫びも聞きたくはありませんでした。そんな真実は置きさって、夢だけ見て遠くへ行きたかったのに。
「いいえ……もうそのことは……」
私はうつむきました。あの方に謝られたくありませんでした。
いっそのこと、逃げて知らんぷりして下さったほうがよかった。もちろん、そんな卑怯な真似をできるあの方ではありませんでしたが。
どうせ愛されないならば、冷たく突き放してください。
私は、もうそれでも満足。
だって、たとえ身代わりだったとしても、あの方に愛されたのだから。
そして、闇に沈んでしまったあの方の心を、もう一度呼び戻すことができたのだから。
あの方にとって、私は何の意味もない存在だった。でも、私はどうにか意味を見つけたわ。きっとこうして虚しい夜を慰めるためだけに、私はあの方の側にいた……。
もう、それだけでいい。
これで私の長かった恋の物語は終わり。
あとは、遠くに行ってすべてを忘れてやり直す。レサなんか誰も知らない遠いところ。
そして、今度は幸せになる。
もう辛い恋はいらない。
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