7
私は、リューを去りました。
でも、エーデムには帰れるはずもなく。
「俺の実家はちょっと寂れたが、まぁまぁ立派なところだ。親父が体が不自由になってね、困っているんだ。だから、もしも、レサさえよければ、力になってもらえないかな?」
トビの提案は、私には救いの手になりました。
よく晴れた朝、私はトビの操る馬車に乗って、トビの故郷コーネに旅立ちました。
リューマの仲間たちは皆、見送り、泣いてくれる者もいました。でも、私が泣いたのは、あの方が見送りにすら現れなかったからです。
リューマのことで頭がいっぱいのあの方に、勝手な想いを寄せて強引について来た困り者の女なんて、見送る価値さえなかったのです。
私は、馬車の中でも泣き続けました。
「レサ、セルディのこと、許してやってくれないかな?」
トビが私に話しかけました。
「あのさ……アイツ、なんていうか……愛し方がわからないというか、下手なんだよ」
私は泣き続けました。
トビは、ずっと独り言にように、あの方のことを話続けました。
「俺もよ、なんとなく片思いしているような気にさせられるよ。アイツ、どこまで俺に気を許しているのかな? なんてね。レサだけに冷たいわけじゃない」
私だって知っているのです。あの方の優しさが表面だけで、根はもっと深い何かがあるってことを。
そして、私たちはそれが理解できないってことを。
「多分ね、アイツの特別な人になれるヤツなんか、そういないと思う。レグラスのことは、親父みたいに慕っているけれど……あとは……あ、そう、別れた弟くらいじゃないか? もう死んでいるのか生きているのか、よくわからんが」
私は、やっと泣くのを止めました。
あの方は、特別な人を作らない。私だけに冷たいわけではない。トビの言葉に納得させられ、少しは慰められたのです。
「俺さ、思うけれど、アイツ女を好きにならないと思うな。一生恋なんかしない堅物だよ、きっと」
冗談っぽくトビが言ったので、私はやっと微笑むことができました。
あの方の冷たさの前に、すべての女性は同じ始まりに立っています。そうなら、一生懸命尽くした者が、一番側にいられるのでしょうか?
この苦しい恋を耐え抜いた者だけが、あの方の愛を受けられるのでしょうか?
でも、それは間違いでした。
あの方は、すでに恋をしておいででした。
それも、私がよく知っている、あの、シリア様に。
私がその事実を知るのは、もう少し後のことです。
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