第74話魔王と戦う事を決意するけどまさかあんな事になるとは

 何とも気まずい雰囲気が漂う朝のリビングにて僕は朝食を摂っていた。


 何故時間が飛んでしまったかとのかと言うと。あれから僕の告白に続けて本題を話そうとしたのだが、彼女らが「急に言われても」と気持ちの整理がつかないようだった。

 出来れば妙な思考の時間を与えないまま一気に話を進めたかったのだが、夜も遅いという事で解散となったのだ。


 告白した側とされた側。明確に答えてない以上、状態は宙ぶらりんとなっており、僕らの間にも自然と気まずい空気が流れている。


「ステラ。このパン美味いな」


 なのでこの場で唯一特に何とも思っていない相手ぐらいしか話しかけられない。


「そうでしょう。家の窯で焼いたんですよ。パンは焼きたてに限りますよね」


 ステラは元々、シルヴェスタのおっさんに仕込まれているので料理や家事はそつなくこなしてくれる。

 彼女の案を採用して窯付きの家にして良かった。


 僕はチラリと彼女たちを見た。

 心なしか普段よりもお洒落な服を着ているようだが、チラチラとこちらを盗み見てはいるが会話に入ってくる様子は無い。


 ひたすら僕と目を合せることなくパンを食べている姿は普段のエレーヌやシンシアからすれば考えられない異常事態と言える。


 結局、朝食の間。僕とステラの会話だけがリビングを賑やかすのだった。



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「あー。コホン。それで昨日の続きなんだけどさ……」


 僕は内心で心臓が脈打ち、身体が熱くなるのを無視すると切り出した。


 その一言で三人の緊張も高まる。恐らくは昨晩の間に僕を抜きにして相談が行われたに違いない。


 その結論としてハーレムなんてありえないとか。全員が僕を見限ってしまった可能性がある。

 どうする? 今からでも訂正するか? ロックとの契約だって今すぐどうこうって話じゃない。将来的な約束であって、神を目指すというスタンスを見せて置けば問題は無い。


 昨晩命の危機に陥ったせいで心が弱っていた僕だったが、今ならまだ致命的な発言では無かった事を思い返すと――。


「昨日の事だけど冗談だ――」


 そこまで言った瞬間。三人の目に明確な殺意が宿った。

 うん。そうだよね。滅多にない雰囲気出して置いてそれは通用しない。僕は昨日に匹敵するほどの恐怖を何とか抑えると。



「――という事では無く僕の本心だ。僕は恋愛的な意味で君達が好きだ」


 さて、ここまでが昨日の仕切り直しである。問題はここからだ。


「つまり。私とトード君は両想いって事?」


 続けようとした所でエレーヌが遮ってきた。


「まあ。そうなるね」


「シンシアも? です」


 一人が聞けば聞きやすい。シンシアも便乗してくる。


「僕はシンシアも大好きだよ」


 その答えに二人は満足したのか「えへへへ」と笑う。


「私もなんですか?」


 二人とは違って疑う様子を見せる亜理紗。


「だって直哉君。そんな素振り見せなかったじゃないですか。二人には優しいけど私には一歩引いてると言うか、他人行儀だし」


 それは確かにあるのかもしれない。出会いからして馬鹿をやったエレーヌ。死の危機から救ったシンシア。


 彼女たちはそう言った事情があったせいか距離感が最初から近かった。それに対して亜理紗は同じ神候補として探りあうようにお互いを警戒していた。

 今では完全な味方だと思っているが、その事を自分から説明するのは言い訳をしているように見えるだろう。


「そんな事無いですよ。亜理紗さんも十分御主人様に愛されてますよ。私なんてスルーされたんですから」


 ステラの援護射撃に僕は乗る。


「そうだよ。二人と態度が違うのはあの二人は僕の師匠だというのも関係しているし」


「そう……ですか?」


 まだいまいち信じ切れていないような様子なので。


「信じて欲しい。僕は亜理紗も大好きだから」


 彼女の肩を抱いて真剣な顔で説得した。



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「それで。なんで突然そんな事言い出したのかな?」


 エレーヌが改めて疑問を呈する。


 僕は逡巡した。ロックとの契約。神になる道。それらには大きなリスクが存在している。

 これまでと違って他の神候補とも対立する事になるだろうし、他の転生者が目の前に現れる事も考えられる。


 つまり、今後僕と行動するという事は危険と隣り合わせになるという事だ。


 普通に生活する分には問題は無い。彼女たちは先日の探索ギルドの試験を突破してB級ギルド員の資格を得ている。

 後は定期的にダンジョンに潜って活動をして行けば勝ち組人生が約束されているのだ。


 そんな彼女達に対して僕はどうしたいのかを未だに迷っている。


 僕と一緒に神の座を目指して欲しいのか。完全に決別をしてここで別れて欲しいのか。

 それこそ彼女たちの自由意志に委ねるつもりだが、会話の仕方次第でどうやっても誘導してしまう。


 僕が何も言えずに固まっていると。エレーヌが話し始めた。



「私は好きだよ。トード君の事。出来の良い弟みたいな感じでいつも傍にいて欲しい男の子だもん」


「なっ、何を急に」


 慈愛に満ちた表情で笑ったエレーヌは僕の頭をよしよしと撫でてくれる。彼女にとって僕は異性と言う枠組みから若干内側に入り過ぎているのか身内扱いのようだ。

 頭を撫でられる感触が気持ちよくてされるがままになっていたのだが、彼女は僕から手を放して離れてしまう。


 そして次に前に立つのはシンシアだ。


「トードーさん。暖かい。です。太陽みたいに。トードーさん。大きい。です。大樹みたいに。安心できる。です」


 そう言うといつもよりも強くぎゅっと抱き着いてくる。

 僕はシンシアの髪を撫でる度に愛しさと保護したい気持ちが溢れてくる。


「私は解らないです」


 最後に亜理紗。彼女は最後まで悩む様子を見せると口にした。



「元々、エスカレーターの女子校に通ってたので、こっちの世界に来るまでは同世代の男の子と親しくしたことは無かったので」


「そっか……そうだよな」


 亜理紗に関しては急だったと思う。彼女との距離感は一定だったし、何かしら問題を起こすエレーヌやシンシアを見守る保護者のような立場を強いていたから。良い冒険者仲間の域を出ていないのは判ってた。


「でも出会った頃からずっと気になっていたのは嘘じゃないです。エレーヌさんやシンシアちゃんみたいに全力でぶつかる事はできませんけど。私も直哉君が好きです」



 三人の答えを聞くと嬉しくなる。僕の告白に対して全員が怒る可能性もあったのに。誰一人として責めないのだ。


 僕の中に勇気が湧いてくる。昨晩はロックのいう事に従わざるを得なかった。

 あの場においてロックは絶対的強者だったし、彼女達を狙われるぐらいならば言う事を聞いた方が得策とさえ思った。


「ありがとう。覚悟は出来たよ」


 僕に選べる道は少なかった。

 一つはロックの言う事を聞いて神になる道。もう一つは彼女達に別れを告げて旅に出る道。


 だが、ここにきて新たな道を思いつく。

 何故その時に思いつかなかったのか。恐らくはロックの精神的なプレッシャーに負けていたのだろう。


 彼女達を信じ切れていない部分もあったに違ない。


 だが。今の僕はエレーヌをシンシアを亜理紗を……ついでにステラもちょっとだけ信じている。


 一人ではロックに勝てないだろう。だが、彼女達と力を合わせる事ができれば勝算は跳ね上がる。そしてそうなればロックに対して交渉をする事も可能。


「僕は魔王に脅されている」


「「「!?」」」


「魔王は転生者でそのレベルは圧倒的だ」


 ここに来ては隠し事はしない。格好悪い所も、情けない所も全てをさらけ出すと決めたから。


「だから私達に告白したんですか? 最後の別れを告げるつもりで?」


 その言葉に頷く。本当は神になるつもりで一緒に付いてきて欲しかったからと言うのもあるのだが、この状況なら可能性は消えた。


「三人にお願いがある」


「なーに?」


「なん。です?」


「なんでしょう?」


 僕は深呼吸をする。一世一代の覚悟だ。勢いで全てを決めるなんて愚か者のやる事。常々そう言い聞かせてきた僕がやる初めての後先を考えない行動。


「これから魔王と直接対決にいく。エレーヌ。シンシア。亜理紗。僕と一緒に戦って欲しい」


 三人が息を飲んだ。だが、僕の言葉はこれでは終わらない。一度決めた以上は突っ走るんだ。

 勝ち目の薄い魔王と直接対決をする。それ以上に度胸付けが出来る事なんて他にないからな。


「もし無事に戻ってこられたその時には僕と結婚して欲しいんだ」


 死亡フラグだ? そんなの知るか!

 三股最低男? 上等だよ。僕は人生最大の壁を乗り越えて全てを手に入れて楽しく生きていくんだ。


 魔王を倒す勇者の事を考えればこのぐらいの御褒美は許されても良いだろう。


「待ってろよロック。ボロ雑巾のようにして地に這わせてやるからな!」




 そんな決死の覚悟で僕らは可能な限りの装備を身に着け、作戦を練り上げる。


 気力も体力も全てが充実している。彼女たちに後押しされたなら神にだって勝てるぐらいの気分だ。


 そして僕らはロックの元へと駆け付けると。


「ロック。今度は負けない。覚悟しろっ!」


 そこで僕達は信じられないものを見た。






「たす……け……て……」




 ボロ雑巾のように地に這い僕に助けを求めるロックと。




「ふざけた提案をした罰です。後100セットお仕置きするんです。お姉ちゃんがそう言ってるよ」



 そんなロックに攻撃を続けるニーナとニースだった。

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