第73話見え始める真実④
「と言うわけでだな。魔神候補だった奴が神と恋仲になってレースから抜け出した前例があるんだよ」
「なるほど」
僕は今、ロックから説明を受けていた。
何故僕が神を目指さなければいけないのかという理由についてだ。
『神の使徒になればレースから抜け出せる』
これは実は魔神争奪レースに強制参加させられた側にとってみれば抜け道なのだ。
魔神レースは神と違って最後の一人になれば自動的に終了する。
であるならば参加資格を剥奪するような……神に寝返る事で終了させる方法があるのだ。
「つまりロックは。ニーナとニースを僕の下につけてレースから除外したいと?」
「その通りだ」
「その上で寿命が尽きるまで自分は雲隠れする事で、晴れて魔神となって世界に君臨する?」
「ああ。それであってる」
何せ、魔族の寿命は長い。ロックは普通に生きるなら人間などが対抗できないぐらいに長生き出来るのだろう。
僕の答えを得てロックはうんうんと頷いている。そんなロックに僕は――。
「だが断る」
「何だとっ!?」
「そもそも僕は神になんてなりたいと思って無いですから。この世界で自由に生きられれば満足なので」
他にも神候補は居る。なんだったらそっちを紹介してやっても構わない。
平松か光男ならば彼女たちの受け皿になってくれるのではないだろうか?
もっとも。ニーナもニースもかなりの美少女だ。ハーレムを形成していく上では血の雨が降るかもしれないけどね。
僕の希望を考えた上で話を進めるつもりでいると、ロックは睨みつけると僕に言った。
「お前が受けない場合。周りの女がどうなるかな?」
その瞬間。僕は剣に手を伸ばしていた。
「やめとけ。勝てると思ってるのか?」
ロックの制止に僕は殺意を込めて睨む。
「俺は前の戦いでお前の力の底を読めている。確率でいうならお前と俺が全力で殺し合った時にお前が勝てる確率は2.974%だ」
約3%。33回戦えば一度は勝てる計算になる。それだけの確率があるのなら十分だ。
僕は全ての力を開放しようとするのだが――――。
「…………なるほど。言われてみると嫌なもんですね」
ふと冷静になった。その言葉は先程僕がロックに対していった言葉をブーメランで投げ返したものだったのだ。
「……参った。降参です」
僕は剣から手を放す。現状で勝てる見込みが無いからだ。
「僕は神を目指します」
この場で殺されるよりはまし。僕はそう割り切ると。
「そ、そうか!」
ロックも表情を和らげた。
「だけど、何でもかんでも背負うわけにはいかないんで、引き受けるのはその二人だけですよ」
使徒にするにせよ転生者は全部で十三人。全員の面倒を見たら枠が足りなくなる。
「ああ。それで結構だ」
ロックからも緊張が抜ける。恐らく戦闘も視野に入れていたのだろう。逆立場なら僕も緊張する。
これでもかと言うぐらいに鍛え上げたのに3%で負けるのだ。命が掛かっている場面での3%は無視できない数字だ。
最後に今後の動きについていくつか話をして解散する。
「それじゃあ。宜しく頼むぜ」
「ええ。解りましたよロック」
ロックは重荷を取り払ったのか、軽い足取りで帰っていく。
この世界に生まれてからずっと背負っていた重荷が無くなったのだろう。
僕はふと、あいつらに逢いたくなってきた。
命を脅かす宣言をされたことで失いたくない気持ちが溢れたのだろう。ロックも同じ気持ちなのかもしれない。
今夜はあの二人と過ごすに違いない。
僕は、先の事は皆で話し合えばいいと問題を棚上げすると帰路に着くのだった。
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・
「「「「おかえりなさいませ。御主人様」」」」
「おっ、おう。ただいま」
時刻は深夜だというのに。何故か妙なテンションで四人は僕を出迎えた。
「どうしたんだその恰好。シンシアまで起きてるなんて……」
ステラの為に用意した嫌がらせ用のメイド服。それらを身にまとった彼女らは普段にもまして綺麗だった。
「私達はですね」
「トード君に」
「お願いある。です」
「と言うわけで御主人様の好きな格好で待っていたんですよ」
なるほど。おねだりをするためにメイド服を着ていたのか。誰の発案か解らないが、僕のツボを良くとらえている。
恐らくだが、僕は彼女たちのどんな願いでも聞いてあげてしまうのだろうな。僕にとって彼女達は掛け替えの無い――――。
「そうか。だけどまずは僕の話を聞いて欲しい。今後に関わる重大な話だ」
僕が真剣に言うと彼女達はふざけた様子をただして真面目な顔をした。
魔王と取引した事を話すか。今後二人の転生者がこちらに来ることから話すべきか。
いや。それらは後回しだ。僕はこれまで自由にやってきたし。これからも自由に生きるつもりだ。
だからこそ、こういう時にも自分に正直に生きようと思う。
「エレーヌ。シンシア。亜理紗」
「はい」
「……です」
「はい」
僕は出来るだけ優しい表情を心掛けると三人に語り掛けた。
「僕は三人の事が大好きだ」
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「どどどど、どういう事ですか御主人様っ!」
三人が呆然としはじめて暫くしてから我を取り戻したステラが僕へと詰め寄ってきた。
無理もないだろう。僕は意中の女性に対して同時に告白するというあり得ない行動をやってしまったのだ。
好意を寄せられている事には薄々気付いていたが、このような告白をしたからには関係は大いに壊れてしまうだろう。
だが、今後の僕らの事を考えるとこれまでのように曖昧に済ませてしまうのはあり得ない。
僕のこれから先の人生は楽しくもあるが、苦難に満ちているだろう。神になると言った手前、これまでのようにこの世界を観光するような意識ではいけないし、アドバンテージのアイテム増殖も最大限活用していかなければならない。
その事で周囲を危険に晒す可能性があるのはロックの言葉ではっきりした。
だからこそ、愛想をつかされたとしても。僕はここで彼女達との関係をはっきりさせなければいけなかった。
それこそステラに責められるのは想定外だが、彼女は一般常識に一番近い人間だ。複数の女を手玉にとる僕の行動を責めているのだろう。
だが…………。
「どうしてそこに私の名前が無いんですかっ!」
「いや。なんであると思ったの?」
彼女はかなり図々しかった。僕は僕の中の彼女の評価を数段引き下げざるを得なかった。
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