第67話激突
2018.12.1文章修正済み
今回は視点変更がありますので変更の際に◆で人物名を示すことにします。
◆藤堂視点◆
「へぇ。レックス君は勇者の末裔なんだ。凄いね」
僕は大袈裟に驚いた振りをすると彼に羨望の言葉を贈る。その意識は握りしめている宝玉へと集中しながら。
「噂には聞いていたけどあるのね。勇者の隠里って。それにしてもどうして出てきたの?」
話に乗ってくるのはユーリ。彼女は若年に見えるが実は違う。
彼女の種族はハイエルフ。実年齢は1000歳を超えている。つまりBBAなのだ。
「トードー。何か妙な事考えてない?」
「いいえ全く」
僕の握りしめた宝玉が激しく揺れる。僕はその揺れを悟られないようにきつく握りしめると。
ユーリは僕への興味をなくしたのか、レックスに質問を続けている。
僕はその質問を聞きながらも宝玉の具合を確認している。
僕がわざわざ握りしめていることから判るようにこの宝玉はただの宝玉ではない。
正式な名称は『真実のオーブ』という。
虚偽の発言を感知して揺れるというマジックアイテムだ。
これは神界に存在していなかったアイテムで、レーベの高級魔法店で売っているのを見かけて即座に確保したアイテムだ。
性能的には嘘発見器になる。発言する時の言葉を魔力で判定して嘘か真実かを判断する道具だ。
僕は即座にこのアイテムの危険性を看破するとエレーヌ達が気付く前に購入した。正直結構な大金を支払ったけどこうして利用できたので後悔は無い。
「そういえばユーリとミレーヌはずっと一緒に旅をしてるのか?」
ユーリがハイエルフの時点で転生者の可能性は無い。一応他の人物に関しても、日本に存在する地名や料理。そのほかサブカルチャーの単語を出して『知ってるか?』確認した。
その上で宝玉が反応しなかったのだからおそらくこの中に転生者は居ないはず。
最も、このアイテムも完璧ではないだろう。嘘を見抜くマジックアイテムがあるのならそれを無効化するアイテムがあってもおかしくないのだ。それを言い始めたらきりがないのでこの場は信じる事にした。
「ずっとじゃないよ。ミレーヌはね。私の弟子なんだよ。特殊な出自の子で預かったんだけどさ。魔法の才能がずば抜けていたから鍛えてみた」
「それで、あの迷惑な魔法を打ってきたのか?」
どうやら年は外見と違わず15歳らしい。年の割には中々威力が高い魔法を使う。ユーリの教え方が余程上手いのだろうな。
「さっきはすいませんでしたですぅ。今度は外さないようにしますですぅ」
裾をひっぱりながら謝ってくるミレーヌ。
「一応確認しておくが、僕を狙うなよ? 倒すのはモンスターだからな?」
彼女は「はいですぅ」と笑顔で返事をした。とりあえずは信じるとしよう。
そんな風に、和気あいあいとした空気でダンジョンを進んでいく。休憩前とは違ってこれはこれで楽しい。
よく考えると転生者を疑っていたせいもあって僕の態度もぎこちなかったからな。
皆の様子が微妙だった原因は僕にもあるのだろう。僕は若干反省をしてみるのだが…………。
「そっちの二人ももう少し近くに来なよ」
レックスが距離を置いて歩いている人物に声を掛ける。
ニーナとニース。この二人は双子の姉妹だ。
「私達はここで十分です。お姉ちゃんがそう言ってます」
答えたのはニーナ。ニースはアサシンらしく口元を隠してニーナにぼそぼそと話しかけている。どうやら僕らと仲良くやる気はあまりないらしい。
「そっか。話したくなったらいつでもきてよね」
一応あの二人の事情も聞いた。なんでもある人物を探してこの島まで来たらしい。
その人物はこの島のダンジョンに並々ならぬ興味を持っていたらしく、手掛かりが無いか探すために試験を受けたらしい。
会話こそ難があるものの、この二人はタイプが違えどかなりの美少女だ。こんな二人から離れるなんて尋ね人はどのような人物なのだろうか?
「すまん。ちょっと待ってくれ」
僕らがサクサクとモンスターを倒して進んでいると係員から待ったの声が掛かった。
「ちょっとギルド本部から連絡が入った。ここで暫く待機をしてもらう」
その並々ならぬ態度に僕らは腰を落ち着けて休憩をするのだった。
◆ロック視点◆
「アイスブリッド」
「光よっ!」
「倒せ。です」
目の前では三人の女性がそれぞれ武器と魔法を使ってモンスターを屠っていく。
上級魔法の威力を連発しても息を切らさない。高位の精霊を完全に従えている。
ダンジョン産の中でも神器に次ぐ威力の弓を持っている。
ダンジョン試験は六人で行われるのだが、他の二人と比べてこの三人はレベルが高いと俺は感じた。
「ロック君。そっちの打ち漏らしたのお願いできる?」
「はいっ!」
純粋な威力と連射力なら負けないと思いながらも、今回は張り合うことをやめている俺は近寄ってくる中級モンスターを袖一振りで魔法を放ち消滅させていく。
「おおぉっ! やっるぅー」
「……強い。です」
ふふふ。そうだろそうだろ。何せ全魔法習得のチートスキルに加えて無詠唱だからな。
そのうえ生まれつきの魔力の多さにも恵まれている。
彼女もかなりの魔法を使えるようだが、打ち合いならば負ける要素は皆無だ。
「ロック君って若いのに凄いなぁ」
目の前の茶髪の美人さんが羨望の眼差しで見てくる。これだよこれ。俺が欲しかった異世界生活はまさにこれなんだよ。
魔王様とか四天王とかむっさい男連中を従えて、じめじめとした空間で誰も幸せにならないような計画を練る。
キリマン攻略? 知るかっ!
レーベ攻略? 失敗してんじゃねえかっ!
「それ程でもないですよ。アリサさんの方こそ素晴らしい弓の腕前です。エレーヌさんもシンシアちゃんも」
そう。この三人は異様に鍛えられているのだ。それこそ魔王軍に欲しいぐらいだ。
「えへへ。そっかなぁ」
エレーヌが照れて笑う。
これが本心からの笑顔というやつか。あいつの底冷えする笑顔に比べてなんと自然な笑顔なのか。
これはやはり引き込む工作をしなければならないかもね。
そもそも。俺が一人でダンジョンにこもった理由それは新たな人材の発掘だった。
どこぞの転生者により六魔将が壊滅させられ、四天王も二人使い物にならなくなってしまった。
あんな奴らでも俺が支配している国の最精鋭なのだ。
俺は新たな戦力を確保してくるという名目で二人を振り切ってロストアイランドまで来た。
その理由は……………………。
どうせ使徒にするのならむさっくるし男よりも可愛い女の子の方が良いに決まってるだろっ!
「ちょっとストップしてくれないか?」
「はい。構いませんけど」
何やら試験官が停止を命令してきた。コールリングを使って本部と連絡をとっているようだ。
俺達はしばらくの間待機させられている。
その間にこの美しい三人を観察する事にしよう。こんな態度をとてもではないが、あいつらに見せる事は出来ない。何故なら嫉妬で半殺しにされてしまうから。
暫くすると通信を終えたのか試験官が話をする。
「えー。君らの実力は大体判った。これで一次試験を切り上げる」
残る二人の男女が嬉しそうに手を取り合っている。だけど、こいつらついてきただけなんだよな。
あの三人に加えて俺が居たから楽勝だったけど、普通に君らが戦ってたら合格できたか疑問だぞ。
だが、試験官の言葉には続きがある。
「これから二次試験を行う。諸君らにはある相手と戦ってもらう」
「いきなりですね。それって本来の試験に沿った形なんですか?」
試験官はその質問に。
「いや。本部からの通達でな。今回が初めての試みになる。ちなみに全員を合格させるつもりは無いので絞り込むように命令を受けたのだ」
「なにそれ。酷い」
エレーヌが憤慨している。
「意地悪。です」
シンシアもそれに乗っかる。
無理もない。実力が足りないから落とされるのではなく、上の都合だからな。
だけど安心してほしい。
「大丈夫ですよ。エレーヌさん。シンシアちゃんも。この俺が居る限りはどんな相手が来ても負ける事はあり得ない」
むしろ可哀そうなのは対戦する相手の方だ。まさか夢にも思うまい。
「それで。俺らの対戦相手はどこにいるんです? 一度地上に戻ってからやるんですか?」
俺は試験官に確認をする。哀れな生贄はどこで狩れば良いのか。
「その事だが、対戦相手は間もなくこちらに来る予定だ。後発の試験組が居たらしくてな。中々の速度で進んでいるらしい」
どうやらすぐに来るようだ。ダンジョン探索が早いということは結構な手練れなのだろう。だが相手が悪かったな。
程なくして対戦相手のパーティーが現れた。先頭には男が二人。イケメンと黒髪のパッとしない男。その二人に追従するように現れた4人の美少女。
「馬鹿…………な…………」
俺は思わず声を上げる。
「トード君なんでっ!」
隣のエレーヌが驚きをあらわにする。だが、今の俺には余裕がない。
「それはこっちの台詞だよ」
お互いに知り合いらしい。これほどの美少女を前にけだるそうな顔をしている。だが、俺の視線はまっすぐに二人を見つめていた。
「ようやく見つけた。今なら半殺しですませてあげる」
口元を隠す黒ずくめのポニーテール。油断することなく殺意ある目を俺に向けてくる。
「私達から逃げられるとおもったの? たとえ神の目はごまかせても私達の目はごまかせないんだよ」
アグリーア教の聖衣を身に着けた女がにこやかにほほ笑む。
気が付けば一触即発の雰囲気が漂い始めていた。あっちの方でも黒髪の男がエレーヌ達に責められている。美少女にでれでれしている視線を拾われたらしい。
まったく男として情けない。
とにかく高まる緊張感。こういう雰囲気は嫌いじゃない。
ああいいぜ。見せてやる。この俺の真骨頂を。
「かかって来い。返り討ちにしてやる」
この【魔王】黒岩が全員まとめて相手をしてやるさっ!
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