第66話この中に一人転生者が……

 薄暗いダンジョンを僕ともう一人の少年は剣を持ちながら先頭で歩いていく。


 僕らは現在。試験用に使われているダンジョンへと潜っている。

 ここは街からも近く、そこそこの深さがあり、出てくるモンスターも手頃な為に探索ギルドが試験用にと確保しているダンジョンらしい。


 ギルドに雇われた探索者が定期的にモンスターを間引いているので、比較的安全に試験を受ける事ができるのだ。


 僕は隣の少年が話しかけたそうにチラチラ見てくるのに気付いているのだが、今はそういう気分でもないので無視していた。


 というのもあれからステラとの通信を切った僕は今後の方針を決めかねていたからだ。


 ステラの話を信じるのなら転生者は15歳前後。これはおそらく、ステラ達が一斉に転生したことから伺える。

 おそらく母体に知識を持ったまま転生させられたのがステラが体験した現象とすれば、それぞれの転生者達は条件に合った転生先で生まれたはずなのだ。


 おそらく生まれた時期のずれは長くて10月10日という事だ。


 その考えで行くと、転生者候補はここにいる全員という事になるのだが…………。


 問題はどうやってそれを割り出すか。

 出来ればステラに内緒で他の転生者に接触して話を聞いてみたい。そうすることで彼女の言葉の裏付けをとる事が出来るからだ。


 ちなみに神の瞳を僕が使っても転生者の称号を覗き見る事は出来ない。それはステラの時で実証済みだ。

 だが、ステラは転生者を特定して見せたらしい。神の瞳を転生者が使った場合、おそらくは称号か何かを見る事が出来るのだろう。


 逆に言えばステラは僕らの称号を見る事が出来ない。神と魔神。相反する所属ゆえのガードなのだろうか?


「おい」


 僕は後ろの少女たちを見てみる。全員が幼いながらも整った容姿をしており、中には年不相応な雰囲気を漂わせているのもいる。


「無視をするなっ」


 くそっ。こんな状況でなければ僕としても先輩探索者面をして彼女たちに良い所を見せてフラグの一つも建てて見せたのに。相手が転生者かと思えば何もする気が起きない。


「一体何処まで進むつもりだ」


 だって、転生者だとすると中身はBBAな訳だろ。ステラは5歳で転生という事で20と数えてやれば年上のお姉さんで問題ないが、他の転生者の話を信じるなら三十路オーバーだ。

 

「なんですか? 煩いな。話声でモンスターが寄ってきたらどう責任をとるんです?」


 長らく無視していた相手に僕は向き直る。そこには先ほど受付にいた係員がいた。


「大体なぜ私がこんな場所に来なければならないんだ。今日は定時で帰宅して妻と晩餐をする予定だったのに……」


「それは僕に文句言われてもね」


 メンバーが揃ったので早速ダンジョンに向かうことに決めたのだが、肝心の試験官がエレーヌ達に付いていっていて不在だった。


 色々突っ込んで話を聞いてみると目の前の係員も引退こそしたものの、かつてはダンジョン探索者だったらしく試験官の資格を保有していた。


 そんな訳で、強引に説得して連れてきたのだが。


「なあ本当に不味いんだよ。うちのワイフは怒ると手が付けられないんだ。連絡もなしにダンジョンに入ったなんて知れたらどんな目にあわされるか。今日は時間も遅いからここで引き返そうな? 明日の朝からでもいいだろ?」


 何やら泣きそうな顔ですがられる。どうやらこの男は完全に尻に敷かれているらしい。


「大丈夫ですよ。ちょっと残業代を稼ぐ為にダンジョン試験の付き添いするだけだし」


 僕はそんな係員に対して心に思ってもいない言葉を述べた。妻帯者は苦しめば良い。



 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


 いかにして転生者を探すか。僕は必死に考えた末に一つの結論を出した。


 ステラの話を信じるのなら転生者はお互いに命を狙われている自覚があるはず。

 ステラがそうしたように物心つく頃から戦闘訓練をして自分たちを鍛えているはずなのだ。


 こいつらは見た目は15歳の少女だが、もし転生者なら秘めたる力があるはず。僕はその事に気付くとそれを観察することにした。


「お。オークの集団が来たぞ」


 係員が声を上げて後ろに下がる。これが試験とはいえ女の背中に隠れるとはいかんともしがたい奴だ。


「右は任せた。左は僕が持とう。後は適当に削ってくれ」


 赤髪の剣士の少年レックスは僕の言葉にうなずくと剣を振りかぶって突撃していく。


 少しの間見ていたが、彼の動きは転移者の平松ぐらいか?


 なかなかに切れの鋭い動きだ。もしかしてこいつが転生者?


 そう考えている間にもオークの群れが僕に襲い掛ってくる。

 僕は本来なら一瞬で切り伏せられるこいつらをなるべく傷つけないように抱え込んだ。


 緩い振り方で近寄らないように、そして怪我させないように牽制する。

 それというのも残る4人の実力をじっくり見たかったからだ。


 目の前のオーク達の眉間に次々に矢が飛んでくる。放ったのはエルフのユーリ。恐ろしい技術で次々とオークを射抜いていく。


 続いて僕の脇を影がすりぬけていく。その影はダンジョンの壁を蹴り三角飛びをすると黒光りするダガーをハイオークへと差し込む。

 ハイオークが倒れる前に彼女はダガーを引き抜くとそこから飛び上がり、次の獲物へと襲い掛っていく。その動きは電光石火。おそらく僕以外には何が起きているのか見えていないのではないだろうか?


 彼女はニース。アサシンだ。


 ふと身体を緑色の光が覆っているのに気付く。これは複数の支援魔法を最大で掛けた際に起こる支援の相乗効果だ。

 あらゆる支援魔法を高レベルで扱えるプリーストでなければ起こせない高等技術。それがパーティー全員にかけられているのだ。


 そのせいもあってか、レックスもユーリもニースも動きが格段に良くなり、ものすごい速度でモンスター達をせん滅していった。


 これほどの魔法を扱うのは先ほどのニースとは双子の姉妹と紹介された姉のほう。ニーナだ。



 大体のモンスターが彼女たちの活躍によって散っていく中、奥のほうから新たなモンスターの群れが現れた。

 ハイオークにオークキング。どうやら中ボスのおでましのようだ。


 ここまで僕は一匹たりともモンスターを倒していない。見に回っていたのもそうなのだが、一度距離を取ってしまうと横殴りになりそうで突っ込むタイミングがつかめないからだ。


 だからこそ新たなモンスターの出現に少しぐらいは自分で倒しておくかと考えた。仮にも中ボスクラスなら多少は彼らも苦戦するだろうしね。


 僕が剣を手に突っ込もうとしたその時。


「避けてくださいですぅ」


「は?」


 とっさに背後を振り返ると巨大な炎の球が出来上がっており、まっすぐと僕に向かってきた。


「クリムゾンフレアですぅ」


 気の抜けた声。完全に僕を殺しに来ている配置。OKわかった。君が転生者だ。


 僕はその攻撃を紙一重で避けるとクリムゾンフレアは奥のハイオークやオークキングを焦がした。


 うん。エレーヌ程じゃないけどかなりの威力を持っているようだ。僕でなければ避けられ無い所だったよ。


「ごめんなさいですぅ」


 涙目になって謝る。確か魔法使いのミレーヌだっけ。完全に半べそで謝る仕草は演技には見えない。いや、演技だとするとうそっぽすぎる。

 おそらく彼女は単なる天然さんで間違いないのだろう。転生者ならもう少し慎重に行動できるはずだし。



 非常に判断に困る戦闘結果に僕は頭を悩ませる。僕は戦闘を見る事である程度転生者候補を絞り込めると考えていたのだが……………………。


 こいつら揃いも揃って力ありすぎだろ!


 これでは実力から転生者を特定することが出来ないじゃないか。僕らは目的地の途中の休憩部屋へと到着した。


 ここで一気に正体を暴いてやるからな。



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