第63話探索者ギルド
「全滅した……だと?」
広間にブラックパールの声が響き渡った。
「正確には壊滅です。六魔将が最後の一人。このホワイトシチューが残っているので」
そういってホワイトシチューは自分の胸を叩いた。
「似たようなものではないかっ! どうしてそのような事になったのだっ!」
だがその態度が癪に障ったのか、ブラックパールは怒鳴りつける。
「それが……その…………襲撃を目前に控えて、最終確認の為に事前に集まる事になっていたのですが……」
六魔将はレーベ侵攻の為に準備を進めていた。ここにいるホワイトシチューは後方を担当しており、全員が陸から攻めるのを見届けた後でテイミングしてあるクラーケンで港から攻める予定だった。
「私は、クラーケンの調整に手間取っていた為に参加できなかったのです」
テイミングしてあるとはいえ、知能の低いモンスター。連携をきっちりと取らせる為には訓練が必要だったのだ。
「私がようやく調整を終えて集合場所へと赴いたところ…………」
そこでホワイトシチューはチラリと前を見る。
「死んでいた六魔将の5人を発見した。そういう事でいいのかな?」
言葉を引き継いだのは魔王だった。
魔王が発言をした事で全員の緊張感が否応無しに高まるのを感じる。
いや、全員ではない。魔王本人を除けばその右腕と左腕も両側に佇んでいるが、特に気圧されている事は無かった。
「一つ。質問をさせてもらえるかな。ホワイトシチュー」
乾いた言葉にホワイトシチューは首肯する。
「僕は事前に配置も時間も決めておいたはず。最終確認なんてする必要が無いようにしてあったんだ。どうして勝手な事をしたんだ?」
その瞳は無感動にホワイトシチューを見ている。
「そっ、それは…………」
魔王による威圧。それに当てられたホワイトシチューは何かを言わなければと唾を飲み込む。
「魔王様。こやつは魔王様に与えられた重大な作戦を失敗したのです。これ以上言い分を聞く必要は…………」
焦った様子でブラックパールが前にでる。それに対して魔王は―ー。
「実は…………作戦にあたって最終確認をするように命じた者がおります」
「へぇ…………」
魔王を飛び越えての六魔将に対する指示。完全な越権行為をした人間がいる。ホワイトシチューはそう言った。
「ばっ、馬鹿なっ! そのような者が存在しているはずなかろうっ!」
「それは興味深いな…………。誰が言ったの?」
「魔王様っ! これ以上話を聞く必要はありませんっ!」
焦る様子のブラックパール。
「君たち六魔将の不手際は問わない。命も獲らないと約束しよう。言うんだ」
だが、魔王はそんな制止を完全に無視する。
「そこにいる四天王が一人、ブラックパール様の弟である六魔将のホワイトパールです」
場が静まり返る。そして―ー。
「馬鹿なっ! ホワイトパールがそのような事をする訳があるかっ! 魔王様。騙されてはいけません。こいつは我が身の可愛さに嘘を――」
「つまり。君の差し金か。ブラックパール」
「なっ!?」
「そういえば。キリマンの作戦も君が見張っていて潰されていたね。もしかして君。内通してるんじゃないの?」
魔王は探るような視線でブラックパールを見る。その視線を受けたブラックパールは――。
「くっ!」
この場から逃げ出すべく動き出したのだが。
「クリムゾンフレア」
「ぐあああああっ!」
灼熱の炎がブラックパールへと襲い掛り、その身を焦がす。
「驚いたね。どの転生者か判らないけど随分と行動が早いじゃないか」
ゆっくりと魔王は近づいていく。その手には漆黒の魔力の塊が浮かぶ。
かつて、魔王軍の一人。ブラックマンデーを始末したエレーヌ最大の魔法『ダークマター』それを魔王はあっさりと成功させて見せた。
「一応聞いておく。今からでも僕に忠誠を誓いなおすのなら処分は勘弁してあげよう。君が情報を伝えた者は誰だ?」
身を焦がすダメージに加えて魔王の威圧。そして死に至る暗黒の波動だ。普通の人間であれば恐怖して話すだろう。だが――。
「余程強力能力なのかな? 口を割らせるのは無理そうだし、組織の運営で君は邪魔になりそうだ」
泳がせる方向でなら足掛かりをつかめるかもしれなかった。だが、そうこうしている間にも自分たちの情報が抜かれてしまうかもしれない。
そう考えると魔王は躊躇する事無く、判断を下した。
「バイバイ」
次の瞬間。ブラックパールは消滅した。文字通り塵一つ残す事無く。
◇
「良かったの?」
魔王の右腕が口を開く。
「あいつを辿れば転生者に会えたんじゃないの?」
左腕も同調する。
他の魔王軍幹部達は退室させた中、三人は会話を続ける。
「構わないさ。ブラックパールにはモカを担当させていた。おそらく居るとしたらそこだろう」
魔王は気にしない。何故なら自分が圧倒的優位にいると理解しているからだ。
「それにしても相変わらず気が狂いそうになるぐらいの魔法ね」
魔王の……、いや転生者としてのユニークスキルがその自信を深めてくれる。
「それで。レーベは獲れなかった訳だけど。次はどうするの? 四天王でも派遣するのかしら?」
その問いに魔王は時間を置かずに返した。
「その事で僕に考えがあるんだよね」
◇
「と言うわけで、この建物が探索者ギルドの建物になるのだ」
僕らは現在、ロストアイランドの中心にあるタニア。そこにある探索者ギルドを訪れていた。
「冒険者ギルドと違って随分と高そうな造りをしてるんだね」
感心そうにしているエレーヌ。そんなエレーヌに僕は言う。
「そりゃそうだ。何せ選ばれしものしか所属できないギルドだからさ」
「選ぶとは。なん。です?」
僕の言葉にシンシアが聞いてくる。今から説明しよう。
僕はステラを視線で牽制しつつ説明を始める。
「ここロストアイランドには多数のダンジョンが存在する。だけど、誰もが勝手に篭る事を許されている訳じゃない。ダンジョンに入るからにはそれ相応の実力が必要になってくるんだ」
ロストアイランドに生成されるダンジョンは数が多く、また島の広さは相当なものなのだ。
無秩序に冒険者たちに好き勝手にダンジョンに潜られてしまい、冒険者が餌食になると困った事になる。
具体的には冒険者を取り込んで成長するダンジョンが手に負えなくなる可能性があるのだ。
「だからこそ。ある程度の実力が無い人間は低レベルのダンジョンにしか入ることはできないんだ」
中級以上のダンジョンには探索者ギルドから人間が派遣されており、厳重な管理をされている。通行には通行料を支払う必要があるのだ。
「それって、せこくないかな?」
亜理紗が不満そうな顔をする。
「そうでもないよ。こっちにとってもメリットがある話なんだし」
僕は全員を見渡すという。
「まず、探索者ギルドがダンジョンを常に探してくれているので、こちらで探す必要がない事が一つ」
探索者ギルドに行けばその場で最新のダンジョンの位置を教えてもらえるのだ。これは時間を大切にしたい僕らにとっては好都合だろう。
「そして、他の人間たちがダンジョンに入る事で攻略の速度が上昇して危険が少なくなる」
探索者ギルドの差し金だろう。ギルドとしては数をこなしてダンジョンを攻略してほしいのだ。見つけたダンジョンにその時に滞在している戦力を逐一投入していく。
「最後に、手に入れたアイテムは一度探索者ギルドが買い上げた後で資格を持つギルド員のみが参加できるオークションで購入する事が出来る」
これらのシステムにより、探索者ギルドは潤い続けている。
豊富な運営資金を使い、人を雇うことでいち早く生成されたダンジョンを発見する。
そしてそのダンジョンを管理下に置いて、そこにギルド員を派遣することで攻略の速度を上げ、回転率を高める事で神器などの高レアリティのアイテムを産出させられる。
最後に、それを買い上げて、オークションを開く事でギルド員からお金を回収して新たな攻略をさせる。
ここの他にもカジノがある街や高級リゾート地もあるのだが、それら全てが、ここで潤っている攻略者達から搾り取るための施設なのだ。
まるでビジネスのお手本のようなサイクルをえがいている。
「それじゃあ。今からどうするの?」
エレーヌの質問。僕は顔をそちらに向けると。
「ダンジョンに入るには試験を受ける必要がある。これによって実力を測られて、入れるダンジョンが決まってくる。その後は貢献度によってギルドランクが決まるらしい」
まったく。上手いやり方だ。オークションに参加したければダンジョンに入ってギルドに貢献しなければならないのだから。
「あの…………。御主人様」
「なんだ。ステラ」
「私もダンジョンに入るのでしょうか?」
僕はステラが身に着けているメイド服を見る。初級ダンジョンの敵ぐらいなら何とか出来そうな防御力だけどね…………。
「ステラには僕らが試験を受けている間にやってもらいたい事があるんだ」
僕の言葉に彼女は首を傾げる。
そんな彼女に僕はインベントリから袋を取り出すと。
「わっ。重いです」
彼女に渡した。彼女は重みでよろめいた。
探るようなステラに僕は言った。
「僕らはこれから試験を受けてくるからさ。その間に拠点を買っておいて貰えるかな」
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