第64話悪いがこの試験は六人用なんだ

「今から登録に行くけど。くれぐれも余計な行動はするんじゃないぞ?」


 あれからステラにこのロストアイランドに滞在する間に使う拠点を購入に行かせた僕はエレーヌ達と探索者ギルドへと入った。


「むっ。それは余計なお世話だよっ!」


「心外。です」


 トラブルメイカーのエレーヌとシンシアが頬を膨らませて反論する。だが、君たちには前科があるのだ。


「直哉君。なんで拠点を手に入れるんですか? これまで私達ってずっと旅をしてきましたよね」


 亜理紗の疑問は最もだった。これまでも僕らは色々な国を旅してきた。


 三大大国の一つである『モカ王国』


 宗教国家の『キリマン聖国』


 そして最大の人口を誇る『ブルマン帝国』


 いずれにも立ち寄っている上、これまでの経路でもそれなりに富んでいる国にも寄ったのだ。


 僕は亜理紗に対してメリットを説いていく事にした。


「まず。ここロストアイランドがどの国にも属さない自由都市というのが一つ」


 国家に属さないからこそ余計な縛りが無いのだ。


「ここが転生者や転移者にとって有益な場所というのが一つ」


 この場所はあらゆる意味で有益な場所なのだ。現に魔王もレーベを抑えようとしてきたのがその証拠。


 おそらくは、レーベを封鎖する事でロストアイランドを独占する狙いだったのだろう。


「それって。ダンジョンコアですか?」


 その質問に僕は頷いておく。


「ダンジョンコアがインベントリに入らないのは知ってるよね?」


 僕の問いに亜理紗が頷く。


「ダンジョンコアは生きている。生き物はマジックボックスにもインベントリにも入らない」


 それこそが拠点を必要としている理由なのだが、気付けるだろうか?

 だが、亜理紗は僕の言葉の裏を読み取る事に成功する。


「つまり。入手したダンジョンコアの保管場所として必要という事?」


 そういう事だよ。僕がこの場に来たのは様々な理由があるが、一番大きいのはダンジョンコアの入手だ。


 僕は亜理紗の答えに頷き返すと補足を行った。


「他にも、複数のダンジョンを同時に攻略する場合があるかもしれない。その際に戻るタイミングが合わなかったり、消耗品の補給に関しても在庫やなんかをある程度置いておく事ができるし」


 何がどれだけ消耗するか解らない以上、余裕は欲しいところだ。


 因みに、ダンジョンコアを持っている状態ではテレポリングも起動することができない。


 これはダンジョンコアが持つ膨大な魔力が転移の魔力を受け入れないせいだと思われる。なのでダンジョンを攻略した後も戻るのにそれなりに時間が掛かってしまうのだ。


「なるほど。納得できました」


 どうやら有用性を認めてくれたようである。僕は気を取り直すと――。


「それじゃあ。これから探索者ギルドに登録に行くけど。こことは長い付き合いになる予定なんで喧嘩とか険悪にならないように注意するようにね」


 そういって僕は受付カウンターへと向かうのだった。



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「はぁ? 試験を受けられないって?」


 受付にて僕が代表として応対すると係員からそう言われた。


 僕はそんな係員を睨みつける。突然意味不明すぎるだろ。


「受けられないというわけではありません。試験内容として6人が揃わなければ試験を始められないと言っているんです」


 なんでも説明によると。探索者ギルドの試験はダンジョンに潜るパーティー6人で受けるものらしい。


「別に僕らは4人でも問題無いけど?」


 6人のメンバーをそろえて近場の低級ダンジョンへと向かう。そしてそこでギルドが指示する階層まで降りて戻ってくるというのが試験の内容になる。


「それは規則なので出来かねます」


 係員は頑として首を縦に振らない。それどころか…………。


「ちなみに、現在三名の登録待ちの人間がおりますので、そちらの女性三人であれば即座にお通し出来るのですが…………」


 そういうと係員は何やらエレーヌ達を見ている。


 その視線がどこか厭らしく感じるのは僕の気のせいだろうか?


 僕が断ろうかと考えていると。


「それでいいですよ」


 エレーヌが返事をした。


「おいっ! エレーヌ」


「だって仕方ないじゃない。このまま待ってて都合よく4人分の枠が開くのを待つのは効率が悪いし」


 そういう事を言ってるんじゃない。


「何より、これから先、別行動をとる可能性もあるんでしょ? ここはダンジョン攻略の中枢なんだよ。ここで人脈を広げて置いたほうが、後々の事を考えると絶対に良い筈でしょ?」


 確かにその通りなんだが…………。


「それともトード君は私達が一緒じゃないと心細くて仕方ないの?」


「寂しがり屋さん。です」


 ここぞとばかりに突っ込んでくる。さっきの事を根に持ってるな?


「解った。好きにしろよもうっ!」


 生半可な相手では悪意を持ったとしてもこの二人に勝てるわけがない。


「亜理紗。きっちりこの二人を見張れよ。やらかさないように」


「私なのっ!?」


 突然振られた亜理紗が驚愕の声をだす。仕方ないじゃないか、ほかに適任が居ないし。


「ちなみにこの二人は放っておくと確実にやらかす。念のためにエリクシールを人数分渡しておこうか?」


 僕のその言葉に亜理紗は嫌そうな顔をした。今までの旅で十分にありえると気付いたのだろう。


 こうして、僕は旅立っていく三人と巻き込まれた三人を見送りながら次の登録者が来るのを待つことにするのだった。




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「本当に御主人様って人使いが荒いんだから」


 私は現在、大量の金貨を背負った状態で道を歩いています。

 渡された金貨は実に1000枚。


「金貨1枚で約30グラムだから30キロ。女の子に持たせる量じゃないよね」


 その割に平気なのはこのメイド服のお陰だ。このメイド服は身体能力強化の魔法が掛かっているらしく、このぐらいの重量はものともしない。


「それにしても神器の【神の瞳】まで貸し出すなんて。『これがあれば建物の適正価格が判るから、それを参考にしつつ金貨を手付金にしてよね。予算は3万枚までは出すからさ』」


 先ほどのセリフが脳裏によぎる。どうしてそんな大金を持っているのか聞いてみたら、コツコツと色々な街でそこそこのレアリティの道具を売って回ったらしい。


 金貨2枚の私の父の宿に長期宿泊してるぐらいだからお金はあると思ってたけどさ。何処まで先を見据えて貯金をしてるんだか…………。


「それにしても、エレーヌさんとシンシアさんには感謝だなぁ」


 あの二人が庇ってくれたお陰で私は生きながらえる事が出来た。本当は魔王を殺して欲しい所だけど、彼が言うように戦力が足りていないのだろう。


 あの時「今はまだ」と言っていた。いずれは可能になるのかもしれないし、現状で高価な装備を貸し与えてくれているので私はそこそこ信頼されているはず。


 であればその信頼に答えるべく行動をしている間は護ってもらえるのだろう。


「とりあえず、ご主人様が気に入るような屋敷を購入する所から始めるとしましょうかね」


 私は何気なく神の瞳を起動しながらそう言った。こういうのはいざと言う時に使えないと意味がないもんね。

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