第48話ラッキースケベは命がけでやれ
「ミズキ! アリサ! 当たらなくてもいいからコースを限定するように攻撃するんだよっ!」
エレーヌの緊迫した声がする。
彼女がこれ程緊張した声を上げるのは最近では珍しい。
「ウンディーネ。MP半分吸って構わない。です。この瞬間に全てを掛けて。ターゲットをし止める。です」
シンシアも本気のようだ。僕やエレーヌ程ではないが人外レベルの保有量を誇るMP。その大半を使って勝負に出ている。
「エレーヌさんっ! こっちは射る準備はできましたっ!」
美月が手に持つのは【ウルの弓】だ。
ウルとは北欧神話における狩猟の神。この武器は神の名を冠しているだけあって中々に性能が良い。
美月が弦のを引くとその周囲に全部で10本の光の矢が浮き上がった。これは中心の一本にあわせて飛来して目標を貫く。言うなれば広範囲を一度に攻撃できるチート性能を持つ武器だ。
美月はそれを険しい顔つきで目標に向かって引き絞っていた。
『ミイッ! タマトッタル---ナノッ!』
完全なフォーメーションを築く中、イキ(粋)っているのは僕が手塩に掛けて育ててこれまで子供のように大事に扱ってきた水の上級精霊のミズキ。
こいつは最近。美月と接触する機会が多かったせいなのか? 妙な影響を受けてしまっている。
今も血走った目でターゲットを見据えており。その攻撃性はとても水の精霊とは思えない。どちらかというと火の精霊に近しいものがある。
そんなミズキも、一応は百戦錬磨。彼女が使う魔法はアクアフィールド。
直接的な攻撃力こそ無いが、ターゲットの進行方向を限定する程度には役立つ上、MP消費のコストが優秀だ。
これは現在、仮契約をしている美月のMP保有量がそれ程多くない事を鑑みた作戦だろう。
とにかく。左右にミズキとウンディーネのダブル上級精霊に加えて中央には美月の【ウルの弓】。
これだけでも上級モンスターは涙目になるのだが……………………。
「私の詠唱も終わった。絶対に避けられないように一斉に撃つからねっ!」
そこに駄目押しで加わったのがエレーヌ。彼女のMPの大半を注ぎ込んだ魔法【ダーク=マター】。これはありとあらゆる存在を消滅させる。
上級魔族ですらくらえばどうなるのかわからない割としゃれにならない威力を持っている。
緊張感が高まる。
彼女らは誰しもが険しい顔つきをしており、ターゲットに対して憎悪を抱いているかのような反応をしてみせる。
緊張と均衡があたりを包み込む。
どちらもこの一撃が全ての決着をつけると知っているからだ。
先に動いたほうが有利とは思わない。なぜなら、相手の手数に対して対象は個だから。
そして、場を渦巻く緊張感がクライマックスまで高まりバランスが崩れた瞬間――。
「今だよっ! 一斉攻撃っ!」
エレーヌの号令に従い、ミズキとウンディーネの水の壁が走り。美月の光の矢が飛び。エレーヌの黒い波動が押し寄せる。
そして――。
「「「くたばれっ! 覗き魔!」」」
その全てがターゲットであるこの僕。藤堂直哉へと到達した。
・ ・ ・ ・
・ ・ ・
・ ・
・
「いやー。悪かったよ。それにしても凄い威力だったよな」
彼女たちが「ぜーぜー」と息を切らすのを見届けながら僕は謝罪を口にした。
事の発端は、僕が彼女たちが水浴びをしている場に入ってしまったのが原因だからだ。
目的地へ向かう傍らモンスターを狩ながら進んでいたのだが。途中で汚れを気にした彼女たちから水浴びをしたいと申し出があった。
その事に僕は了承をしていたのだが。暇な時間で今後の予定について没頭しているとどうしても気になる点が浮かんできた。
それで、美月に至急確認しなければならないと思い、探し回ったのだが。裸で水辺で戯れる三人の美少女を見た瞬間に。
「そういえば水浴び中だった」と気付いてしまった。
だが、例え気付いたとしてもそういう光景で目を離す程には僕も男を捨ててはいない。
何故か突如現れる陽光や霧が大事な部分を隠してしまったが、何とか魔法や道具を駆使して消せないかと試行錯誤していると顔を真っ赤にした三人が得物を構えて僕を睨みつけていたのだ。
そんな訳で、先ほどの光景にうつるのだった。
「トード君。本当に悪かったと思ってるの?」
エレーヌのツノがこれでもかと言うぐらいにせせり上がっている。これは比喩的な表現ではなく物理現象。
彼女は保有MPが3割を切ると自身の血を制御することができなくなり、魔族としての個性が顕れてしまうのだ。
「もちろんだ。僕を見くびるな。自分の非は認めている」
「ふーん。それで。私の身体見てどう思った?」
「無駄にけしからん胸は男心をくすぐって止まない。いつまでも見ていたいと思えるエロい身体でした」
「死ぬといいよっ!」
殴りかかってくるエレーヌの拳を僕は受け止める。折角褒めたのに何て奴だ。
「藤堂君。覗きするなんて最低なんだよ?」
エレーヌと力比べをしていると妙に冷静な声で美月がいう。その目はどう見ても僕を蔑んでいる。まずいな…………。
「違うんだよ美月さん。これには止むに止まれぬ事情があったんだ」
もちろんそんな事情は無い。単純に僕がうっかりしていただけなので、いくら言葉を重ねても真実味など生まれるはずも無い。
「事情って?」
だが、お人よしの彼女は僕の言葉を聞いて表情を改めてくれる。やばい…………どうしよう。何も思いつかない。
「事情関係ない。です。大事なのは。トードーさん。責任。とる。です」
そんな風に悩んでいたらシンシアがジト目で見てきた。ぴょこんと伸びた長耳が可愛らしい。
「僕にどうしろというんだ?」
一応シンシアの要望を聞いておく。
「今回のお詫びに。一人一回。いうこと聞く。です」
「いや。それは何か危険そうなんで――」
なんせ、覗かれた程度で上級魔法やら神器やら最上級破壊魔法まで使ってくるような奴らだ。
僕ならなんなく切り抜けられるけど、普通にやったら絶対にダメージ受ける。
それこそ魔王にも通用する攻撃をするような奴らの願いを聞くなんて真っ平だ。
僕は強い意志を持って断ろうと瞳に力を入れると――。
「「「拒否権無いからね」」」
三人の異様な迫力についつい折れてしまった。
なんだろうこの。女が集まると勢力関係が変わると言うのか…………。
結託するのって良くないよね。
こうして僕は街に到着してから彼女らのお願いを聞く事を無理やり了承させられた。
……………………街に寄らないルートに変更しようかな?
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