第49話港町レーベ
周囲からは磯の香りが漂う街中を僕らは歩いていた。
「トード君! あれっ! すごい魚だよっ!」
興奮しながら肩を叩くエレーヌ。「凄い魚って何だ?」そう思って指差す方向を見ると。
「…………でかいな」
そこには食べ応えがありそうな建物となんら変わらない大きさの魚が打ち上げられていた。
一体どうやってこんなの釣ってきたのだろうか?
「久しぶりの。ご馳走。です」
シンシアの瞳が輝いている。どうやら彼女も大きな魚に感動しているようだ。
「直哉君。私もう我慢できないんだけど」
そわそわと周囲を見渡すのは亜理紗。彼女は初めて来る街に戸惑いを隠せないようで。
「いい加減お風呂入りたい」
…………違った。どうやら食い気よりも風呂だったようだ。
「とりあえずは出航の日付を確認したら宿に向かうとしよう」
ここは港町レーベ。キリマン聖国の南西に位置する街でバリー王国が納める街だ。
ロストアイランドへの唯一の船が出ている漁港でもある。
僕らはロストアイランドに渡ってダンジョンに赴く用事があるのでここに来た。
「今夜はお魚料理を堪能しちゃうんだよ」
「フライに煮付けに焼き魚。です」
エレーヌとシンシアは心既に魚に奪われているようだ。
そんな幸せそうな二人を他所に僕は船着場へと向かうのだった。
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「船は暫くでないよ」
そんな事を船着場に着くなり言ったのはカウンター越しに座っているおばちゃんだった。
「何かあるんですか?」
こういうのはゲームのお約束である。大抵は海上にボスモンスターが沸くので船が出せないなどの原因か、街を牛耳る悪い組織が善良な漁師を脅して嫌がらせをする。
いずれにせよ邪魔な対象を排除しなければ船旅にでられないと決まっている。
僕は武力的な解決方法で切り抜ける事を考えておばちゃんに質問すると――。
「これからパレードがあるからね。その期間は港を船が埋め尽くすから出て行くルートは無いのさ。事前に告知してあるから祭りが終わるまではどの船も動けないのさ」
そういえば、船着場に着いた時に見えた港を思い出す。
海上には船が溢れており、圧巻の一言だった。あれは祭りを見ようと集まった船だったらしい。
「何せ、年に一度の祭りだからね。ロストアイランドの人間がこぞって参加しにきてるからあっちは今ほとんど人も居ないのさ」
「なるほど。惜しい事をしました」
向こうに渡っていればダンジョンを巡り放題だったのに。
「どうにか向こうに渡れればな…………」
そんな独り言がポツリと漏れる。
「えーっ。無理に渡らないでも祭りを楽しもうよ」
エレーヌが聞いていたらしい。
「そうは言ってもね。折角ガラガラのダンジョンがあるのに潜らないなんて勿体無くない? 亜理紗もそう思うよね?」
僕は亜理紗へと話を振る。そうそう。最近は亜理紗の事を名前で呼ぶ事にしたんだ。
本人曰く「ミズキちゃんと紛らわしくて誤解したから」と言っていたが、何を誤解していたのだろうか?
「へっ…………? 私としては祭りも大事というか…………」
そういうと遠慮がちに呟く。
「直哉君って…………スケジュールをきっちり決めて働くしゃち――サラリーマンみたいだよね」
うん? 今。社蓄って言おうとした?
その事に少なからずショックを受ける僕。
「トードーさん」
クイクイと袖を引っ張るシンシア。
「偶には。ゆっくりしたい。です」
うーむ。たかが強行軍を二週間しただけなんだけどな。どうやら三人とも疲れているらしい。
結局僕は強引に海を渡る提案を飲み込むと宿へと向かうのだった。
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「と言う訳で。祭りが終わるまでの間の1週間は自由期間とします」
宿に泊まり、それぞれが旅の垢を取ったりとゆったりとした時間を過ごした僕らは夕飯の席についた。
「やったーーー。久しぶりに休めるんだよ」
エレーヌがやたら喜ぶ。そこまで喜ばれるとまるで僕が休みを与えないブラック企業の上司みたいに見えるじゃないか?
「基本的に何をしててもいいけど、町からあまり遠く離れるのは禁止させてもらうよ。後。街の人に迷惑掛けないようにね」
普通なら言わなくても良い事なのだが、このメンバーである。万が一を考えると注意しておくに越した事は無い。
「それ。直哉君にも言える事だからね?」
「心外。です」
何故か三方から冷たい視線が突き刺さる。馬鹿な。僕が迷惑を掛けることなどありえないというのに。
「解ってないようだから言うけど。この中で割りと常識ないのはトード君だよ?」
「色んな所に顔出しては女の子にフラグ建てて来るし」
「監視が必要。です」
おかしい。もっとも常識があると自負する僕が攻め立てられるだと…………?
ちょっと街によるたびに増やした消耗品やそれなりの武器を売ったりしてお金を作ったり。
エレーヌ達に言い寄ってくるチンピラを目にも止まらぬ速さで排除したり。
町に着くたびにエレーヌたちの目を掻い潜って娼街に繰り出したり。
ごく普通の行動しかとっていないはずなのだが。
「売り方にも限度があるよ? 上級ポーション500本とかマジックアイテムとか取引額大きすぎるし」
それは仕方ない。今後の事を考えると資金が必要なのだから。それに足がつかないように一応変装してあるから大丈夫なはず。
「私達を心配してくれるのは嬉しいですけど。話しかけてきただけで威圧してしまうのもやりすぎです。チンピラさん漏らしてましたし」
それも仕方ないとしか言いようが無い。この三人は黙ってさえいれば目を見張るほどの美少女なのだ。そんな三人を連れている以上は「兄ちゃん。黙ってその三人と有り金置いて行け」とフラグが建ちまくる。
僕はそんなテンプレートを踏襲するつもりは一切無いので、相手が自主的に消えてくれるように殺意を篭めて睨みつけるのだ。
『てめぇら。うちの師匠達をエロイ目で見てんじゃねえよ』ってね。
「夜に。抜け出す。逃げるの。駄目。です」
うん。それが一番仕方ない事なんだよね。だって三人の美少女と旅をしているんだから。僕は健全な少年なので、放っておくと溜まるものがあるのだ。
それを人知れずに処理しようとしているだけなのだが、最近ではその動きを察知してなのか?
宿を出ようとすると誰かがつけてくる。もっとも、数々の神のアイテムを持つ僕の敵ではない。
追いすがる誰かには頭上にタライが落ちるトラップからとりもちにからめとられるトラップを味わってもらうのだ。
つまり僕は何一つ悪い事をしていないと証明が出来てしまったわけで――。
「「「この前の覗きの件。まだ許してないから」」」
反論を試みた僕に対して三人は一致団結するとそう言った。
結局パレードの1週間の内の大半を彼女達の監視つきで回る事を了承させられたのだった…………。
早くダンジョンでモンスターしばきたい。
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