第47話大事なのは相性だよ
「よし。ミズキちゃん。拘束して」
目の前には全身を赤く染めた角を二本生やしたモンスターが立っていた。
口元から伸びる牙は黒く汚れており、今まで幾多の生物をその牙で食い殺してきたのが見て取れる。
悪魔族のモンスターでは中位に位置する存在。デーモンだ。
『ミイ。マカセルノ』
美月の指示に水の上級精霊であるミズキは色よい返事をした。
「くっ」
美月が苦悶の声を上げる。ミズキがMPを吸い取り水のロープをデーモンに巻きつけたのだ。
『ニンム。カンリョーナノ』
誇らしげなミズキの言葉を聞くと同時に。
「いっ、行きますっ!」
美月は地を蹴るとエクスカリバーを振りかぶってデーモンへと接近した。
「てやっー!」
気の抜けた声とは裏腹に鋭い斬撃が走り、デーモンは腕を切り落とされて悲鳴を上げる。
「やっ、やった?」
「まだだ。美月さん。相手の息の根を止めるまでは油断しない」
僕は一瞬緩みそうになった美月を叱咤する。
「はっ。はいっ!」
美月はエクスカリバーを握り直すと、上段から振りかぶってその命を刈り取った。
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「はぁはぁ」
「お疲れ。とりあえず飲みなよ」
「あっ。ありがとうございます」
美月は僕からコップを受け取ると水を飲み干す。
『ミイ。ヘーキ?』
ミズキが美月の背中に張り付くと心配そうに聞いてくる。
「う。うん。ミズキちゃんもありがとう。お陰様で無事に倒せたよ」
MPを吸われて疲れているのか、息もたえたえに答える。
さて。何故、美月とミズキが話をしているのかというとその秘密は美月の指に嵌ったリングにある。
「ごめんね。藤堂君。ミズキちゃんを借りちゃって」
「いいよ。ミズキも懐いてるみたいだし」
彼女に渡してあるソロモンの指環。これは精霊を使役する事が出来る指環なのだ。
今までの美月は当然というべきか精霊を見ることは適わなかった。
だが、ソロモンの指環を装備することにより精霊使いとしての資格を得ることができたのだ。
元々。相川とペアでやってきた美月なのだ。いきなり一人で戦えといわれても戸惑いを隠せない。
かといって僕やエレーヌ・シンシアと組ませてしまうとレベル差もあるしサポートに徹してしまい本人の成長に繋がらない。
そんな訳で新たなパートナーに選ばれたのがミズキと言う訳だ。
美月が姿を見ることができない頃から頻繁に美月についていっていたので本人は美月の事を気に入っており、喜んで美月をサポートしてくれた。
「それにしてもミズキ。ちょっと美月さんにくっつきすぎだ。本人が疲れてるんだから少しは離れろ」
『ミイ。イッショニイル』
僕が注意するとミズキはなお更べったりとくっつきだした。
「あはは。私は平気だよ。ミズキちゃんの感触って気持ちよくて落ち着くし」
「悪いな。それにしても何でお前そんなに美月さんを気に入ってるんだ?」
僕はミズキに質問をしてみる。
『ミイ。ミズキトミズキオナジダカラ』
「えっ?」
「確かに同じ名前だけど…………それだけで?」
僕はそんな事で仲良くなるものなのかと首を捻る。美月さんもそう思ったようで僕らは顔を突合せた。
『ミイ。チガウ』
「え? だったら何が同じなの?」
美月の質問にミズキは耳元に口を持っていくと。
『……………………ヲスキナキモチ』
「なっ!?」
後には耳を真っ赤にした美月が残された。
一体何を言われた?
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「ねえ。トード君。アリサと喧嘩した?」
「いや。別に特にそんなはずは…………」
あれから町に戻った僕らは旅の途中の補充という事で、食料の買出しを行っている。
「そお? でも、ちょっと思いついた事があるからって出て行った時はアリサもっと元気だったんだけどなぁ」
僕はミズキを美月に預けるという対策を思いついたので、近場の森まで狩に行ってきたのだ。その時は確かに元気だったんだが…………。
その原因は恐らくミズキの耳打ちだろう。
「おい。ミズキ」
『ミイ?』
「お前。美月さんに何を吹き込んだ?」
手っ取り早い原因に僕は追及の手を向ける。
『ナイショ。ダモン』
「ご主人のいう事が聞けないのか?」
『ミイハイマ。ミズキニレンタルサレテル』
まるで派遣先の融通がきかない社員のように突っぱねる。
「お前。戻ってきたら覚えてろ」
僕が睨みを利かせるとミズキはぴゅーっと飛んで行き、美月に張り付いた。
「喧嘩。違う。です。あれは。恥ずかしい顔。です」
ミズキが離れていくと、シンシアが会話に潜りこむ。
「恥ずかしい? 別に裸を見たとか、浮ついた言葉をかけたとかそんな事は無かったけど?」
「トードーさん。天然。です。女の子。勘違いさせる言動。しまくり。です。アリサさん。それで誤解したの。では?」
人をジゴロ扱いするとは。最近のシンシアは僕に対して遠慮が無くなったようでわりとずばずばとものを言う。
「そうなのかな? まあ考えても解らないから気にするだけ無駄か」
僕はこそこそと話をする美月とミズキを見ながら、そう呟くのだった。
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