第33話パーティ強化をする理由
「酷い目にあったっすよ!」
顔を付き合わせた途端、上杉は涙目で僕に掴みかかってきた。
「いや。ごめんね。まさか逮捕までされると思わなかったからさ」
まさかそこまでされるとは思っていなかった。
「大体さぁ。普通に考えて光の女神を崇めている宗派に男が「神だー!」って乗り込んでどうなると思ったのさ」
もし仮に騙す気だとしたら女神の如く美しい女性を立てるべきだろう例えば――。
僕は瞬時に浮かんだ相手に対して首を横に振る。うん。無いな。
「それに気付いているのに言わない藤堂君も大概なんだけど…………」
なにやら相川が言っているがスルーだ。
「上杉を解放するためにお布施も払ったんだけど」
手持ちの高級食材から金貨まで。教会の幹部も最後のほうではニコニコしながら上杉の罪を許してくれた。
札束ビンタの効果は絶大だ。宗教って本当にチョロいよね。
「すっ。すまねえっす。俺の為にそこまで…………」
上杉が申し訳無さそうにしてくる。
「別に良いけどさ。一応貸しにしておくからね」
「なんだかんだで上杉さんの事一番心配してましたよね」
美月が何か言ってるけどスルーだ。
「あのまま牢屋に監禁されているよりは良かったから感謝するっすけど……………………。ああもうっ! こうなったらダンジョンで一山当ててやるっすよっ!」
上杉の言葉に僕らは移動を開始するのだった。
☆
「はぁっ!!!!」
上杉の気合の声が響く。
それと同時に目の前で巨体を震わせていたトロルの身体が上下に別れた。
「すごいっすよなおっち! この装備」
上杉は戦闘が終わるたびに僕のほうへと振り返る。
「そんな大した装備でも無いけど。売り物なんだからで壊さないようにね」
「わかってるっすよ。でもやたらと簡単にモンスター倒せるようになったんすよね。これって俺の時代来てるっしょ」
上杉は嬉しそうに槍を振り回した。
僕が上杉に装備を貸したのは訳がある。誠に遺憾ながら彼にはお金を貸してしまった。友人間の金銭の貸し借りは時に要らぬトラブルへと発展する。
そして僕はそういった細かい部分がとても気になる人間だ。
一刻も早く金銭的な貸し借りを無くしたい。それには彼に稼いでもらわなければならない。
そうすると装備を貸して彼の実力向上を補助するのは当然の結論といえよう。
つまり。これは上杉の為ではなく、僕がお金を返して欲しいからやっている事なのだから――。
「なおっち。本当に感謝っすよ」
このように感謝されるような事ではない。
「無駄口叩いてる暇があったらとっととモンスターでも狩ってきてよね。じゃ無いと今晩の宿は無しだからね」
「酷いっす!」
涙目になるロン毛。これだから上杉は…………。
「ふふふ。素直じゃないわね」
くすくすと含み笑いをする相川。ちょっと何を言っているかわからないです。
「でも。上杉君はまだしも、私までなんて…………。便乗してるようで申し訳ないわね」
相川が気後れしてるのか自分の武器を見つめている。
「それも売り物だからね。大した事無い剣だけど合わなかったら他のを出すから言ってよ」
上杉だけだとバランスが悪く、パーティーの足並みが乱れる気がした僕は相川にも武器や防具を貸し与えた。
「ううん。使いやすいわよこれ。リザードマンの鱗が紙のように切れるし。これで安物って信じられないぐらい」
「そう? なら良かったよ。相川さんの剣筋が良いからかもね」
「そうなの…………かしら?」
腑に落ちない様子ではあるが、相川も前へと戻っていく。
「結局私がばらすまでもなく強力な武器貸してるじゃないですか」
美月がなにやら呆れた声で言っているがスルー。
「それより美月さんは要らなかったの?」
上杉や相川には神器は流石に不味いのでその2ランク程度下の装備を渡してある。神界にあったやつだが、全ての武器防具を完全に覚えてる人間なんて存在しないので平気だろう。
だから僕は美月に対しても、いや。事情を知っている美月にこそ良い装備を渡そうと思っていた。
彼女は僕の能力を知っている。だからこそ懐柔する必要があったので神器を渡してやろうと思ったのだが…………。
「流石に目立っちゃいますし。そもそもそういうの藤堂さんが嫌がりそうだと思ったんですけど?」
ん? どういう意味かな?
「その顔は通じて無さそうですね…………。私は藤堂さんが凄い能力を持っているから近づいたと思われたくないんです。これで意味は解ります?」
どうにも彼女の言葉は迂遠な気がする。確かに僕は他人に良いように利用されるのは好きじゃない。
だけど、困っている人間や少しでも親しみを感じた人間に対してはそこまで冷たくも無い。
自分が取得した神の瞳を使わないでくれている美月に関してはそれなりの親しみを覚えてすら居るのだ。
装備を寄越せといわない謙虚さも考慮するなら好意的感情とすら言えるかもしれない。
「さっぱりわからない」
僕の返事に美月はがっかりしたような顔をすると。
「鈍感を治すアイテムがあればよかったのに…………」
なにやらぶつぶつと恨めしげに見てくる。
「まあ。今は必要なくても何か欲しい物があったら言ってよね。美月さんに何かあったら困るし」
何せ、条件付とはいえ協力関係にあるのだ。彼女がいれば僕も幾分動きやすいところが出てくることを考えると失うわけにもいかない。
つまりこれも全て自分の為なのだ。
「なんか面倒臭そうなこと考えてそうですけど……………………そうですね。必要になったら………………。指輪でもお願いしますね」
表情を変えると美月は嬉しそうにダンジョンを進んでいった。
「なんだったんだ…………ミズキ。わかる?」
僕はずっと傍らに居たミズキに聞いてみる。
『ミイ。ワカンナイ』
ミズキはふわふわと浮かびながら答えるだけだった。
~一方その頃のエレーヌとシンシア~
「速く! もっと速く走るんだよっ!」
エレーヌの緊迫した声が木霊する。
「はぁ…………はぁ…………。です」
シンシアが息を切らせながら走っている。その後ろには――。
「ええい。本当にしつこいよっ! 『エクスプロージョン』」
振り向きざまに魔法を放ったエレーヌ。爆発が起こったが、追っ手は全滅したようだ。
「とりあえずこれで少しは休めるね」
パラパラと落ちてくる小石を払いながらエレーヌはシンシアに向き直った。
場所は山脈を跨ぐ中程。あれから森林を抜けた二人は無謀にも山脈を横断していた。
普通の人間は山脈を避けて遠回りをする。それと言うのも人が入り込まない魔境程、強力なモンスターが出現しやすいからだ。
だが、エレーヌ達は。
「…………誰かさんがモンハウに突っ込むから大変。です」
こともあろうに山脈を突っ切る選択をした。これも一重に藤堂に早く会いたいが為。
「まあまあ。過ぎたことは仕方ないって」
軽い口調で済ませるエレーヌに。
「…………山脈は任せろ。鉱石の収集に来てるから平気って言った。です」
エレーヌが自信満々だったので任せたシンシアだったが、山に入ってそうそうにモンスターの集団を引き寄せまくった。
その引きの悪さは神にでも恨まれているんじゃないかと言うくらいに悪く、最初は倒していた二人だったが、次第に疲れて逃げ出したのだ。
「大体。シンシアちゃんだって森から出る場所間違えたじゃん。ちゃんと地図どおりに森を抜けてたら平原を抜けられたんだよ」
普通のルートであれば山脈の切れ目に出るはずだった。それをエレーヌが指摘すると。
「…………そっちこそ。です」
一触即発の気配が漂うのだが…………。
「GAAAAAAAAAAAAAA」
遠くからモンスターのザワメキが漂う。
「とっ、とりあえず喧嘩してる場合じゃないね」
「…………です」
二人は運命共同体なのだ。即座に仲直りすると休憩を終わらせて歩みを進めた。
結局。大量のモンスターを避けたり逸らしたりしつつ山脈を横断するのに二日を要した二人はようやくキリマン聖国の国境へと辿りつくのだった。
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