第32話神器の在り処

「神器アイテムを入手しようと思うんすよ」


「ん? 何言ってるの?」


 僕は興奮気味に捲くし立てる上杉に質問する。


「そもそも上杉君はSPが足りないから神界で神器をとれなかったんじゃないの?」


 相川が疑問を口にする。


「神様を目指すならSPを無駄に消費するのはやめて置いたほうがいいんじゃないですか?」


 美月も言葉を重ねる。


「そもそも君に足りないのはSPじゃないと思うよ。常識とか落ち着きとか…………」


 あとロン毛が暑苦しいのと妙に馴れ馴れしいのも……。


「言いたい放題っすね。俺だって考えてるんすよ」


「ほう?」


「実はキリマン聖国はいくつか神器を所有してるんす。俺らは一年かけてその一つのありかを突き止めたんすよ」


 なんでも平松パーティー時代に彼らは神器の存在を調査していたらしい。

 確かに神界に存在するアイテムといっても元々のオリジナルは現界に存在したアイテムだ。


 コールリングやテレポリング等も一部の金持ちの間では取り扱われている物。

 もっとも購入するのに大型の家が買えるぐらいの資金が必要になるので貴族の緊急連絡用だったりほとんど市場に出回らないのだが。


「下手な考えというか…………普通に有用な魔道具や武器ですら大量の金貨で購入しなければならないというのに。上杉はいくら持ってるの?」


「聞いて驚くなっす。金貨15枚っす!」


 うん。なんていうか…………想像はしてたよ。


「さて二人とも。上杉は放っておいてダンジョンに入るメンバーについてなんだけど――」


「なんすかっ! 仕方ないでしょう! 稼いだ傍から新しい装備が欲しくなるし。防具の修理代とかもばかにならないんすから」


 うーん。前衛職のジレンマという奴かな?

 基本的にポーションなどの消耗品は各自の持ち出しになる。前衛が緊急時に飲む回復ポーション。

 魔道士が使うマナポーションなど。


 他にも杖や槍や剣なんかについてもそうだ。お金を稼ぐには冒険するのが一番なのだが、冒険をするという事はそういった出費がかさむ事を意味する。


 もっとも。僕には縁の無い話なのだが。


「上杉にお金が無い事情は把握した。だけどそれ言ったら神器なんて到底手に入らないんじゃない?」


 僕がそう聞くと。


「ふふん。なおっちには知らない取って置きの情報があるんすよ」


 上杉はドヤ顔でそう言った。




 ☆



「ここに伝説の【天空の兜】があるっす」


「って言っても…………」


 美月の戸惑いの声が聞こえる。


 ここはキリマン聖国の王都マイカジャ。その中央に座する大神殿の入り口だ。


 この世界で最大宗派を誇る、光の女神【アグリーア】を崇める神殿だ。


「どうしてここに来ようと思ったのか、益々理解できない」


 上杉達の調査が間違って居る事に関してはここで議論しても仕方ないだろう。

 問題はここにくれば何とかなると思っている上杉の残念な頭についてだ。


 僕がその辺について解説を求めると。


「ゆーても俺ら神候補っしょ。名乗り出れば神殿のお偉いさんに案内されてババーンと神器ぐらい譲ってもらえるはずっすよ」


 「うわー」とばかりに嫌そうな顔をする相川と美月。そんな二人をみて僕は。


「なるほど。その発想は無かった。上杉。他の神候補に取られる前に確保するんだ。これは聖戦だ! 正義は君の手にある」


「おおっ! さっすがなおっち。話が解るっす! ちょっと俺。ってくるっすよ!」


「ああ。ってこい」


 そう言って上杉を送り出した。


 その直後、彼は神を偽ったという罪状で連行されていった。全く遺憾ともし難い事態であった。








~一方その頃のエレーヌとシンシアは~


「シンシアちゃん。ちょっといいかな?」


 ガサガサと草木を掻き分けて進むシンシアをエレーヌは呼び止めた。


「…………なん。です?」


「キリマン聖国までブルマン帝国を経由するよりこっちの方が早いって森に突っ込んだんだよね?」


「…………です」


 シンシアは見た目でわかるハーフエルフである。エレーヌも見た目では解らないがハーフデミル。

 二人はお互いがハーフである事を認識している。


 なのでブルマン帝国に二人だけで行く場合のトラブルを考えたのだが…………。


「さっきもここ通らなかったっけ? あの木とか見覚えあるよ」


「…………気のせい。です」


 先ほども通ったような気がするが、木の形なんて似たようなもの。エレーヌは納得する。


「あっ。でもあのモンスターの死骸。さっき倒した奴じゃない?」


 先程襲ってきたモンスターと同種の死骸を指差す。


「他の…………固体。です」


 シンシアは若干考えつつも。答える。


「そう…………他の冒険者が来そうな場所でもないけど…………そうなんだよね」


 何せシンシアはハーフエルフ。エルフといえば森が得意なのだから。道に迷うわけが無い。

 エレーヌは自分の勘違いと判断する。


「ねっ。ねぇっ!? あの場所。完全に私が爆破した跡地だよねっ!」


 ちょっと大型のモンスターが現れたので一撃で爆破した傷跡が森に残っている。

 あれほどの魔法をぽんぽん扱える人間はそれ程居ない。


 エレーヌのその問いに…………。


「…………迷った。です」


 シンシアの呟きにエレーヌの顔が歪んだ。


 結局彼女達は森から抜け出すのに三日を要するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る