2年目

第23話神界への召集

 エレーヌとシンシアに対して危害を加えた5人に関しては事前に用意していたテレポリングで砂漠のど真ん中へと捨ててきた。

 日照り地獄と飢餓の恐怖に苦しんで死んでいくのを僕は【遠見の水晶】を通して確認した。



 エレーヌ達にはその事は言っていない。

 言えば止められると思ったからだ。


 だけど、僕にはそれをする理由も彼らを生かしておくつもりもなかった。僕は他人に対しては無関心だ。

 だからこそ一度身内と認識してしまえば危害を加えられることに我慢がならない。


 僕はエレーヌとシンシアが危害を加えられると知った瞬間に行動していた。世界の倫理など関係ない。

 自らの手を汚すことなく彼らを排除した時には罪悪感は欠片も浮かばなかったからだ。


 そんな風に唐突に戻った日常。

 代わり映え無くエレーヌと魔法の修行をしてシンシアに精霊について教わる。


 属性魔法の進捗も順調で腕が上がっていく傍らに、水精霊のミズキを育成したり、他の属性の精霊と契約したり。

 充実した時間はあっという間に過ぎ…………。


 気がつけばこの世界に来てから1年が経とうとしていた。




 ☆





「拝啓


 藤堂直哉様。


 この度、神界での召集を予定しています。

 期日は翌週より1週間程。行き来に関しては当日になりましたら転移ゲートを開きます。


 参加されなくても問題はありませんが、それにおいて生じる不都合に関してのクレームは受けかねますので了承ください。


 神より」



 朝、目覚めるとそこには一通の手紙が置かれていた。



 部屋にはミズキの他にも精霊が出ている。不審者が来た場合。精霊たちに知らせるように指示をしている。


 それだというのに、精霊達が気付くことなく手紙は置かれていた。

 内容から考えても精霊が太刀打ちできない存在がこれを置いたに違いない。


 精霊が適わない相手…………神である。


 僕は手紙の内容を考えながら頭をかく。

 手紙には自由参加と書かれているが、これはどう考えても強制参加に近い。


 だって、参加しなかった場合のクレーム云々はって何かあるって言ってるようなもんだし。


 特に、僕にしてみれば他の神候補の情報を少しでも得ておかなければならない。


 よって不参加という選択は無かった。僕は最近の充実した生活と今後の予定について頭をめぐらせて見ると結論を出す。


「一応。エレーヌとシンシアに話しておくか」


 僕は手紙を懐にしまうとアトリエに向かうのだった。




 ☆




「えっ。出かけるの?」


「うん。同郷の集まりが今度あるみたいでね。1週間程旅をしてくるつもりだよ」


 アトリエでお茶を飲みながら僕は今後の予定についてエレーヌに話をしている。まさか神界で異世界チート持ちと対面するなんていえないし。


「寂しい…………です」


 裾を引っ張られて振り向いてみればシンシアが上目遣いに僕を見上げている。出会ってから半年。顔つきから何までほとんど変化が無いのは種族の特性によるものなのか?

 出会った頃から天使のように可愛らしい。


「すぐに帰ってくるよ。それまではエレーヌの面倒を頼むよ」


 僕はそんなシンシアの頭を撫でる。太陽のように暖かくきめ細かい髪質はいつまでも触っていたくなるぐらいだ。


「むっ。私がシンシアちゃんの面倒をみてるんだよ」


 あれから半年。僕は精霊使いとしてシンシアから免許皆伝をもらっていた。

 それに伴い、依頼を完了したので、シンシアは宿を出て行った。


 僕としては別にシンシアの宿代ぐらい出し続けても構わなかったのだが…………。


 そこに名乗りを上げたのがエレーヌ。彼女は行き場の無いシンシアに対してアトリエの一部を部屋として与えた。

 それからというものシンシアはアトリエに住み着いてエレーヌの手伝いや家事に料理とこなしている。


「その割には掃除から料理までシンシアがやっていると聞いてるけど?」


 僕はアトリエを見渡す。昔に比べて整っており、本は本棚に。材料は収納スペースへと整頓がされている。

 エレーヌにしてみれば有能なお片づけさんがきてくれてラッキーといった所だろう。


 僕の言葉にエレーヌは目を逸らす。


「エレーヌも少しぐらいは家事できないとお嫁の行き先が無いぞ」


「トード君は酷いよ。私だってやれば出来るし」


「ならやってみせてよ。そしたら僕もそれ以上煩く言わないから」


 ついでにもう一つ。僕は魔術師の免許皆伝もエレーヌから貰った。師弟の関係こそ崩れないものの、今や一人前の魔術師である。

 エレーヌの希望もあって砕けた口調を心がけていた。


「だったらトード君が戻ってくる頃には料理をマスターしておくからね。その時になって「お嫁になって」って言っても遅いんだから」


「へーへー期待してますよっと」


 結局この日はエレーヌの料理は振舞われなかった。

 だが、僕が提供した高級食材にシンシアが腕を振るった料理を三人で舌鼓を打ちつつ楽しむのだった。




 ☆




「もうすぐ時間か」


『ミィ。緊張シテル?』


 僕が呟くとミズキがしゃべりかけてきた。1年掛けてミズキは上級精霊に。他の精霊は中級まで成長を遂げた。

 精霊に付き添って狩りに行くのは楽しかった。


 レベルアップして強くなっていく精霊たちを僕はブリーダーの気分で見守るのだ。

 何と言うか手に塩掛けたペットが出来ることを増やしていくのは見ていて楽しい。


「まあね。久しぶりの神界だし。他の連中に会うのは正直気が重い」


 上級精霊になり会話が可能になったミズキだったが、まだ舌ったらずなのか幼さが残る。もしかすると大精霊になれば流暢に話しかけてくれるのではないかと期待している。



「きたか…………」


 目の前の気配が変わる。空間の歪みが現れたかと思えば気がつけば目の前にはこちらの世界に来た時と同様のゲートが開いていた。


『ミィ。御主人様トビラ』


「ああ。そうだね」


 僕は相槌を打つとゲートを潜り抜けた。




 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


「おっ。やっと最後の奴が現れやがったな」


 僕を出迎えたのはいかつい筋肉男だった。


「来ないかと思ったけど結局全員が召集に応えたわけだね」


 その隣にはイケメンハーレムチートもいる。どちらも一年前に会った時から比べると凄みを増しているようだ。


 全員が僕を見ている。恐らく他の連中の品定めについては僕が登場するまでに済ませてあるのだろう。


「そういえば名乗ってなかったな。俺は草薙。草薙伊織くさなぎいおりだ」


 筋肉質の男が手を差し出してくる。


「僕は平松勇樹ひらまつゆうき。宜しくね」


 イケメンの方も手を出してきた。

 僕は彼らの手を取ることなく。


藤堂直哉とうどうなおや。覚えてくれなくても構わない」


 横を通り過ぎた。


「失礼かとは思うけど。お互いにどんな能力なのかわかってないんだ。無用心に手を取るわけにはいかないよ」


 憮然とした顔つきをしていた筋肉とは別に、イケメンは苦笑いをしている。


「んだよぉ。まさかお前に危害を加えるとでもおもってんのか?」


 心外とばかりに筋肉が言い出す。


「仮に。僕の能力がウイルスだとしよう。触れた相手に好きな病気をプレゼントできるとして。あんたなら手を取るのか?」


 ここに居る連中は普通の素性ではないのだ。警戒を怠ってなんらかの能力で嵌められることだけは絶対にあってはならない。


「そうだね。僕らが迂闊だったよ。この場は引いておくよ」


「ちっ。んだよっ」


 引き下がるイケメンと面白く無さそうな筋肉が印象的だった。




 ☆




『全員揃ったみたいだね。説明をはじめさせてもらうよ』


 一年ぶりに聞く例の声。相変わらず男なのか女なのか判断がつかない。


『さて。君達は異世界で1年間経験を積んできた。今日という日に成長した君達を見ることが出来て大変に嬉しい。そこで今後の事について説明をしようと思う』


 誰しもが声に耳を傾けている。


『君達の最終目標は神になる事。それについて幾つか補足をさせて貰えるかな』


「その事で。聞きたい事があります」


 平松が立ち上がった。


『いいよ。折角だから質疑応答にしよう。その方がお互いに時間を省くことが出来るからね』


 声の主は応じる。


「一年前は気が動転していて聞けなかった話です。僕らは神候補としてここに集められた。つまりこの中から次世代の神が生まれる。そういう認識で宜しいでしょうか?」


『そうだね。僕は少なくともそのつもりだし。君らが努力をしている限りはそうなるだろうと思っている』


 その言葉に平松は頷くと。


「では。神になれなかった人間についてお聞きしたい。僕らの内の誰かが神に選ばれた際。残る人間はどうなりますか?」


 予め決められていた質問なのだろう。平松のパーティーの5人は不安そうに答えを待っている。


『その事について説明するには【使徒制度】について語る必要があるね』


「使徒制度ですか?」


『そう。使徒とは神の御使いの事を指すんだ』


 使徒と言うのはキリストが福音を伝える為に選んだ12人の高弟を差す。ここでそれを持ち出す意味について僕は一人考える。


『神に選ばれた人間は12人の使徒を選出する事が出来る。事前に選んでおいても良いし、神になってから選んでもらっても構わないよ』


 声は淡々と説明を続ける。


『神の命は基本的に永久不滅なんだ。そして使徒となった身も神が滅びない限りは不滅になる』


「つまり。神になって他の12人を使徒に指名すれば誰も死ぬことは無いと?」


 平松が確認する。


『そうだね。それでも良いけど、別に使徒に選ぶのはこの場の人間に限定されない』


「それでは使徒に選ばれなかった人間はどうなる?」


 草薙が立ち上がる。


『別になんにもならないさ。普通に人間として生きて子孫を残して死ぬだけ。ある意味こっちの方が幸せなのかもね』


 その言葉に草薙はあからさまにほっとした。もしかすると彼は神になるつもりが無かったのかもしれない。


『使徒に関しての説明は以上で良いかな? 無いなら次に行くけど』


 声の確認に誰しもが納得した様子を見せる。自分達の身の振り方に神を目指さなかった場合のペナルティの有無。それが解ったから満足なのだろう。

 僕は挙手をすると立ち上がる。


「使徒に出来るのは人間だけかい? 例えばドラゴンやデーモン。他にはエルフや魔族。獣人や精霊なんかも対象になりえるんじゃないか?」


 この世界の人間において、それらの存在は異端とされている。神を崇める宗教は竜神信仰や悪魔信仰。エルフや魔族などの排斥を行っている。

 だが、その価値観は人間を主体としたものである。例えば神が人間に属する存在であるのならばそれは仕方ないかもしれない。


 だけど、この世界に住むものに平等なのならばそういった選択肢も存在するはず。

 だからこそ、僕は神を名乗る人間に確認しておきたかった。


『本人が望むなら問題ないよ。デーモンだろうがなんだろうが使徒にしてもらっても構わない』


「ありがとう。質問は以上です」


 僕はお礼を言うと引き下がる。その際に他の神候補達と目があった。

 彼らは胡散臭いものをみるような目で僕をみる。異世界の価値基準に影響をうけているのだろう。


『ふむ。それじゃあ今日はここまでにしておこう。1週間もあるからね。質問は随時受け付けてるんで気が向いたらしてちょうだい。君達の為に一人に一部屋用意したから。寛ぐのも良いし、情報交換をするのも良いかもね』


 そういった切り声の主は黙った。僕は部屋へと向かおうと腰を上げたのだが…………。


「折角だしここらで親睦を深めるべきじゃ無いだろうか」


 イケメン平松の言葉で離脱に失敗するのだった。

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