第15話ハーフエルフと出会った日

「ん…………ここ…………は?」


 鈴のような声が聞こえる。先程助けた少女が目を覚ましたらしい。


「目が覚めた? ここはダンジョンの25層。墓地フィールドだよ」


 流れるような薄い金髪に白い肌。エメラルドの瞳。やや幼いが十分に色を含む顔立ち。耳を覆う大きな帽子。


「あなたが助けてくれた?」


「うん。レッドドラゴンが君を飲み込もうとしてたから。無事で良かったよ」


 あと少し遅れていたら間に合わなかっただろう。


「どうして…………?」


 その声に困惑が見える。恐らく何故自分を助けたのか聞いているのだろう。


「助けられる力があったから助けた。それだけだよ」


 実際、やばければ見捨てる覚悟だった。今回は偶々攻撃が通っただけのこと。


「でも…………あの人たちは見捨てた。です」


 それは先程の連中の事だろうか?

 無理も無いと思うが、それを彼女の前で口にする程愚かじゃない。


 本来なら見捨てた彼らを責めるべきなのだろう。

 実際に僕もここに辿りつくまでは擦り付けられたのがエレーヌだと思い込んでいた。


 もしエレーヌが死んでいた場合、僕は彼らを探し出して復讐していただろう。


「それより。どうやってレッドドラゴンの攻撃をかいくぐったの?」


 一見すると華奢な女の子。とてもでは無いが、あのレッドドラゴンをいなせる力があるようには見えない。


「…………精霊魔法。です」


 そう言って掌に火の精霊を乗せる。


「それが…………火の精霊? はじめてみた」


 彼女の掌で火の精霊は楽しそうに踊っている。それがこの場にマッチしていなくて無性におかしかった。


「見えるの? です」


 彼女は驚きをあらわにした。もしかすると警戒されている?


「見えるって? 精霊のこと? 君が見せてくれたんでしょ?」


「普通の人間には精霊は見えない。です」


 普通って。君も普通の人間じゃ……………………。彼女は僕がそう言おうとしているのを察したのか帽子を取った。


「エルフ?」


 彼女の耳は僕に比べて尖っていた。だが、彼女は首を横に振ると。


「私はハーフエルフ。です。母がエルフで父が人間。です」


「そうなんだ。俺は両親揃って人間だよ」


「怖く…………無いの?」


「なんで?」


 不思議な問いかけだな。こんな可愛い子を捕まえて怖いと思うわけが無い。むしろそっちが僕を怖がる可能性が高いんじゃないか?


「それはね。ハーフエルフやハーフデミル。所謂『半亜人』『半魔人』は忌み嫌われてるからだよ」


 僕の質問に答えたのは目の前の少女ではなく、後ろから声を掛けてきたエレーヌだった。


「…………師匠。何故返事をしなかった?」


「あー。ごめんね。色々あってさ」


 頬をかいて誤魔かす。だが、エレーヌは僕がどんな目にあっていたのかを知らないからこそそういう態度をとっているのだ。


「てっきり師匠がレッドドラゴンに襲われてると思って気が気じゃなかったんですよ?」


「さっきの咆哮ってレッドドラゴンだったんだ? えっ。トード君大丈夫なの!?」


 そう言って無造作に僕の身体をペタペタと触りだす。身体のあちこちにエレーヌの色んな部分が触れてよくない気分になりそうだ。

 きっと死を意識したせいで、生存本能が刺激されているのだろう。


「大丈夫ですよ。レッドドラゴンは何とか倒しましたからね」


「うそぉ!? あれは最上級のモンスターだよ? トード君じゃ勝てるはずが…………」


「企業秘密です」


 そう勝ち誇ってやる。


「むぅ…………まあいいか。ところでこのハーフエルフちゃんの名前は?」


 水を向けられてビクリと震える。


「あー。まだ自己紹介してないんですよ」


「何やってるの。私はトード君に自己紹介の仕方から教えなきゃいけないの?」


 これからというタイミングだったのにエレーヌが乱入したんだろうと言い返したい。だが、僕は変わりに別な事を言ってやる。


「なら。僕は師匠にトラップの見破り方を教えましょう。そもそもそれが無ければこんな事態になっていないわけだし」


「うっ…………」


「反省したならいう事があるでしょ?」


 更に追い込む。


「わかったわよっ! 今日の晩御飯おごり。それでチャラ。いい?」


 こいつ。人の命が掛かってたのに晩飯ごときで済ませるつもりか。

 …………まあいい。そういうつもりならこっちにも考えがある。


「それで手を打ちます。それじゃあとっととダンジョン出ましょう。君も一緒に来るよね?」


 まさかこんな場所に放置するわけにもいくまい。先ほどのパーティーなら恐らく上層に戻っている最中だろうし、もしいたとしても自分を見捨てた相手と仲良く行動できるわけ無いからね。


 僕の問いかけに彼女はコクリと頷いた。




 ☆




「それじゃあ改めて自己紹介を。私はエレーヌ=ホープスター。そこにいるトード君の魔法の師匠さんだよ」


 この場で僕より立場が上だからだろう。エレーヌはまず自分から自己紹介をする。


「そして僕は、ナオヤ=トウドウ。今は魔道士見習いをやってるけど普段は剣なんかをメインで扱っている。不本意ながらそこの師匠の弟子だ」


「不本意は余計だよ」


 しっかりと釘を刺してくる。


「魔法…………。召喚魔法。です?」


「いや。属性魔法だよ。召喚魔法は魔族じゃなきゃ使えないし。教わりようが無いからね」


「えっ。でも…………。です」


 何か言いたそうにしている少女にエレーヌが。


「まあまあ。良いじゃない。それよりハーフエルフちゃんは名前は何?」


「私は…………シンシア。です」


「ふーん。シンシアちゃんね。宜しくね」


 そう言って握手を求める。シンシアは戸惑いながらもそれに応じていると。


「おまちどうさん。今日はスペシャルメニューだぞ」


 ステラちゃんの父親であるおっさんが料理を運んできた。


「うわぁ。シルヴェスタさん。今日も美味しそうですね」


 目の前ではエレーヌが目を輝かせてその料理を見つめている。


「おう。滅多に手に入らない食材を買い取ったからな。トードーの小僧が最高の料理を希望したから張り切ってみたぜ」


 どうせ奢ってもらうのだから最高の料理をおっさんにお願いしたのだが。

 テーブルの上に乗り切らない程に、豪勢な料理が並んでいる。


 ダンジョンを出た僕達は、一端それぞれ帰宅した。エレーヌは狩りで得たドロップを換金しに行き。

 僕は諸事情があるので宿に戻った。


 その際に、シンシアは所在がなさそうだったので一緒に連れてきていた。


「シンシアは嫌いな食べ物とか無い?」


 テーブルをみて固まっているシンシアに声をかける。


「食べて…………いいの? です」


「もちろんだ。師匠の奢りだからな。遠慮せずに腹がはちきれるぐらい食え」


「そうだよ。美味しいものはみんなで食べなきゃね。シンシアちゃんも遠慮はいらないよ。おねーさんにまっかせなさーい!」


 エレーヌは調子に乗るとその大きな胸を張るのだった。

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