第12話ダンジョンに入る日②

 一般的に、ダンジョンと言うのは六人パーティーで臨むのが最適といわれている。


 前衛三名、後衛二名、補助が一名。

 これがダンジョン攻略の基本となっており、場合によっては前衛を減らして後衛を入れたり、回復系を外して魔道士系を増やしたりなどがある。


 言うまでも無いのだが、ダンジョンは疲れる。

 長時間潜る事により人間は神経をすり減らせてしまう。


 そうすると思いも寄らぬ所でミスをしてしまい、結果としてパーティが決壊する事も考えられる。

 なので、通常、ダンジョンに潜る場合は適度な休憩は必須と言い換えてもいい。


 間違っても、それ以下の少人数でチャレンジしたり、ましてや今まで到達した事が無い階に興味本位で突撃したりなど…………。



 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


「トード君。【マインドブラスト】はやくきなよ」


 エレーヌが魔法を唱えて敵を倒しながら僕を呼んでいる。


 あれから、師匠命令により僕は強制的に20層へと付き合わされた。


「師匠。ちょっとはペース落として…………」


 目の前の師匠は迫り来るレイスを魔法で倒しながらもにこやかに僕に呼びかける。


「もう。若いのに体力無いなぁ」


 これまでの間も。エレーヌは休憩を取ることなく進んでいた。

 それどころか、僕が臨時広場で人員を補充しようとした際にも「修行にならないから駄目。部外者はいらない」などと、他の人間の同行を拒否したくらいだ。


「そっちが、体力ありすぎなんですよ」


 元々それほど運動を必要としていなかった日本から来ているのだ。

 レベルアップこそして体力はついているけどそれにしたって疲れるものは疲れるのだ。


「仕方ないな。回復してあげる」


 そう言って手をかざすと何とも暖かい。身体から疲労が抜けていく。


「あの…………そろそろ戻るつもりは無いですか?」


 なんだかんだで降りてきて現在は25層にいる。

 現在の彼女は先程までとは違い、出てくる敵を全て一撃で遠距離から倒している。


 それと言うのも、僕が疲れを見せているからだろう。

 自分が倒す事で僕の負担を気遣っているのだ。


「もうちょっとだからさ。頑張って頑張って!」


 無意味ににこやかに笑う。逆に腹ただしいと知っていてやっているのだろうか?


「そんなにフラフラしてて罠とか踏んじゃわないでよ」


 生憎だが、僕は罠には掛からない。何故なら…………。


名称:トラップバスター

効果:魔法効果のトラップを自動的に解除する。落とし穴等の物理トラップは無効。

必要SP:10000


 きっちり罠対策をとっているからだ。


「そっちこそ。あんまり先行き過ぎて罠踏まないで下さいよ」


「私? 無い無い。魔道を極めた私の目に狂いは無いんだよ。どんな罠もたちどころに見つけて――」


 そう言って歩いている最中に突如エレーヌの姿が消えた。

 地面には魔法陣が設置されてあり、淡い光と粒子が中空を漂っている。


 どう考えても転移系トラップだった。


「あの…………あほ師匠ぅぅぅうぅーー!」


 僕の叫び声がダンジョンに響き渡った。



 ☆


 装備を万全に整えた僕は、恐る恐るダンジョンを進み始めた。

 というのも、あほなエレーヌが罠を踏み抜いてはぐれたからだ。


 幸いな事に、僕は半ばこうなる可能性を見越して一つの手を打っておいた。それが…………。


『いやー、まいったよ。飛んだ先がモンスターハウスでさ。大部屋に中級モンスターが100体と上級が3体もいたんだよ。流石に私もびっくりしちゃった』


 耳元に届く音声は何処から聞いても大変そうに聞こえない。

 そもそもの話、そんな状況に飛ばされて未だに無事で、会話を出来ているのはどういう事なのか?


「師匠はもう少し落ち着きを持って行動してください。何なんですかあのタイミング。絶対やるなってタイミングで罠をきっちり踏み抜くなんて。知っててやってるようにしか見えないですよ」


 大口を叩いた直後に転移だもんな。演出かと思った。


『それにしても便利だねぇ。こうして離れても会話できるんだもん。トード君は本当に色んな魔道具持ってるんだ』


 エレーヌが感心して呟く。僕は指に嵌っているそれを見る。



名称:コールリング(ペア)

効果:特殊処理された一つの魔石を割って魔法陣を刻んだリングに嵌めた物。対になっているリングと念話で話す事が出来る。

必要SP:8000



 恐らくエレーヌならばはぐれる可能性が存在する。そう思っていた僕はあらかじめこれを彼女に渡して説明をしてあった。


「それより。まだ現在地の詳細わからないんですか?」


 モンスターハウスに放り込まれても平気な人だ。今更何が出てきても負ける事は無いのだろうが、更に罠を踏んだり、足を踏み外して下層に落ちたりしそうで怖い。


『あー。ごめんね。怒ってるよね?』


 その声色は申し訳無さそうだった。

 無理も無い。ここまで僕は普通の能力のみで戦ってきた。恐らくだがエレーヌは僕がこの状況を心細く思っているのを察していたのだろう。


 事実。僕には力が無い。いや、正しくはこのダンジョンを安全に歩くには力が足りていないのだ。

 それは戦闘経験であったり、ダンジョンでのノウハウ等だ。


 その証拠に僕は自分のステータスを見てみる。



氏名:藤堂 直哉(とうどう なおや)


レベル: 59


職業:見習い魔道士


HP 2000

MP 2500

STR 950

DEX 1100

VIT 950+100

INT 1400

MND 1400


称号:神候補


ユニークスキル:Duplicate インベントリ


SP:58000




 この世界に来てから2ヶ月。最初に倒したゴールデンタートルのほかにも多少の経験は積んできた。

 だが、手軽に倒せるモンスターでは経験値が足りずそれ程レベルは上がっていない。


 現在居るフロアにはレイスやゾンビナイト・スケルトンナイトなどの厄介な敵が存在する。

 元々ゴースト系のモンスターは物理攻撃の効果がいまいちな為、剣で倒すのには時間が掛かる。


 僕も一対一なら余裕で切り結べるのだが、複数を同時に相手にするには厳しい。


 神候補の称号によるレベルアップ時のステータス補正があったとしても現在の僕ではエレーヌに遠く及ばない。

 アカデミーでペンを握っていた女の子に対して遅れをとっている事実。


 それは恐らく、僕の持つユニークチートが戦闘型では無いからだ。

 現時点で他の神候補と比べれば僕は負けない。それは装備が充実しているからだ。


 たとえ相手が敵意を持とうとも、エクスカリバーでひと薙ぎで倒せる。


 だが。年月を経れば逆転されてしまうだろう。身体能力の差がつき、たとえエクスカリバーを振っても当たらないかもしれない。

 向こうに同等の防具があれば普通に防がれるだろう。


 さらに、奪われてしまえば僕は無力だ。


 その事が自然と僕の心を重くする。


「はぁ…………」


『トード君!?』


 僕の溜息を聞き取ったのか向こうで焦り声がした。


「いえ。ちょっと現状を憂いていただけです。おきになさらず」


『えっと。やっぱり私のせいだよね? 嫌がるトード君をこんな所まで連れてきたから』


 萎縮する彼女に対して。


「他に原因があります?」


『うぅ…………ごめんね?』


 申し訳無さそうにするエレーヌに。


「すんだ事は仕方ないです。それより師匠。早く合流して僕を護ってくださいね」


 あまり虐めすぎても仕方ない。僕は早く師匠が合流してくれるのを願いながらも周囲に気を配り続けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る