第34尾.越えられない壁

「さて、お前ら今の状態はどうだ?」


と質問する稲瀬。

妖狐はみんなの心の声を代弁するかのように

こう答える。


「いや、どうもこうもないのですが……、

先生。」


「まぁ、それもそうだろう。で、今日は

何の日か分かっているな? みんな。」


「そうですよ先生、今日は……。」


妖狐達は県内で最も人口が多い都市へと

向かった。

そう、今日は『全国』への切符を手にする為に

「actors県大会」の開催日である。


「ほれ、着いたぞ。」


稲瀬の運転で県内で大きいドームへ着いた。

稲瀬が受付をしに行く。

その最中、妖狐と龍成はこんな会話をした。


「やっぱり、ここらは人の海だね、龍成。」


「それもあるが、俺らの様な県大会の参加者

もいるってのも忘れるなよ、妖狐。」


「分かっているよ、龍成。」


稲瀬が受付を済ませ、大会前の順番発表を

する。


「さて、お前ら今回の戦闘の順番を発表

する。

先鋒『墨田 密狸』!」


「は、はい!」


「次鋒『ブラッド=エレーナ=操=ハーヴェスト』!」


「はい!」


「県大会はお前ら二人〝固定〟な。」


稲瀬のその発言に密狸、操の二人は〝キョトン〟とした。


「で、大将だが……。」


稲瀬は大将の説明をする。

二人は不安そうな顔をして、妖狐にこんな質問をする。


「ね、ねぇ……、妖狐さん。」


「どうしたの、みっちゃん。」


「本当に私達二人だけで、やれるのでしょうか?」


「んー、大丈夫だと思うよ、みっちゃん。」


「アリス、ちょっと不安に……。

うっ! 胃が……。胃薬、胃薬を……。」


「二人共、緊張し過ぎ。この為に修行して

来たんでしょう?

だから心配ないよ。」


「アリス……。」


「妖狐さん……。」


二人は妖狐の励ましを受けた。

そして、各々は全国へ行くと言う目標を掲げ

県大会に挑む。


県大会本番、密狸と操の不安とは裏腹に順調に駒を進める。


そして――


〝決勝戦、那騎袖高校vs冷泉学園――〟


「先生、『冷泉』ってどんな学校ですか?」


「ん? 『冷泉』か、一言で表すと〝暗殺者を育て上げる為の学園〟だな。」


と、答える稲瀬に天羅は


「暗、殺?」


と言葉を漏らす。

その言葉に稲瀬はこう続ける。


「そうだ、暗殺だ。それを生業にするための

学園だ。」


龍成は稲瀬にこう質問する。


「いいのか先生オレらが〝戦闘のプロ〟に

挑んでしまって。」


龍成の発言に稲瀬はこう答える。


「逆に考えるんだここで勝てば〝全国〟に

行けると……。」


「そうですね、先生!」


「お前はもう少し考えて喋ろ、妖狐!」


「さて、お前らここから先は文字通りの強豪

だらけだ。覚悟はできたか、お前ら!」


「もちろん!」


「おう、任せろ!」


「了解です!」


「はい!」


「やってる!」


「おうよ!」


と全員の覚悟の返事を聞いた稲瀬は〝フッ〟と

微笑みながら


「いいかお前達、手筈通りにやるぞ! 

戦闘のプロにどこまでやれるか分からんが、

やれるだけやってこい!」


『はい!』


〝先鋒は出て来てください……〟


「では行きます。」


密狸は舞台へと行く。


舞台に着くと、


「へぇ……。あんたが先鋒なんだ。」


そう言った少女の手には〝薄く長い刃を携えた奇妙な『刀』〟を持っていた。


「えぇ……、そうみたいですね。『此花こばな 素美もとみ』さん。」


審判が


「両者前へ」


と言い、手を下げると同時に


「試合開始ィ!」


と叫ぶ。


先に仕掛けたのは、素美の方である。


蛇羽じゃばね〝ヤマガカシ〟!」


うねる刃、その動きは正にヘビ!

ヘビの様な動きをしながらその刃は密狸を

襲うが、


「私はこっちだよ……。」


密狸のact「数奇な狸」の〝虚数の力〟で、虚像を見せかわした

密狸。

だが、actを見た素美は、


「ほう……。これがお前のactか、おもしろそうだなそのact、わちきが〝奪って〟

あげる。」


密狸が次にactを発動しようとした瞬間とき


「ッ!? 私のactが……。」


「わちきのact『能力奪取アクト・スナッチ』……。どうだい、actが使えない気分は。」


「actがなくたって、私は!」


そう言って密狸は素美に体術を仕掛けるが、


「そんな攻撃でわちきを〝倒そう〟って言うの? 無駄だよ……。

このわちき、『此花 素美』と『薄紙剣はくしけん』の

コンビネーションはお前には打ち破れまい!」


返り討ちに合う密狸だが、それでもなお立ち向かう……。


「……。〝よくやった〟と誉めてやりたい

ところだが、お前は終わりだよ。

その褒美として、わちき最大の技を送って

あげる。いけっ、〝薄紙剣〟!」


立ち向かう密狸に無慈悲にも素美の操る薄紙剣

が襲う。


「〝無限刃・白蛇神〟……。」


その攻撃で密狸は倒れた。


密狸は担架に運ばれ、那騎高校の陣地へと置かれた。


「みっちゃん……。」


心配そうにする、妖狐。


「妖狐、密狸の命に別状はないみたいだ。

今は気絶しているから、休ませてくれ。」


そう言った、稲瀬。

立て続けに、


「妖狐、ウォーミングアップをしておけ。

準備はしておけよ!」


「はい!」


そして稲瀬は気絶した密狸にこう言う


「……密狸。よく頑張った、次の操に託そう。」


そして大きな声で、


「操、頼む!」


操は指ぬきグローブをグッとやりながら


「分かりました。」


と答え、舞台へと向かった。


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