第18尾中部の家族の眠らない夜

 妖狐は、闇の帳から襟狐の住むアパートに戻って来た。

「さて、狐袖さん、戻って来ましたよ。」

「…正直、来なくてよかったけれど、約束は

 約束だからね。だから、ここでお前の秘密を

 探ることを打ち止めにしてあげる。」

「いや、私は自分について無知すぎる、

 だから、ここであなたに問い質す! 」


 二人の戦いがの火蓋が切って落とされた。


「来て『霊刀・千狐尾刃せんこびじん』これが私、『有栖川狐袖』の所持している刀。

 私の刀は、炎を自在に操れるから、私の別称は『焔狐』、『陽炎ようえんなる狐』等々、では、始めましょう騙し騙される非情なる戦いを。」

「さて、『深淵のモード』…。

 私もいきます。」

 と、いきなり妖狐は、抜刀術で狐袖に仕掛けた。

「…やはり、そう来ますよね、狐袖さん。

 いや、『幻惑の狐』、袖姐さん。」

「ふっ、やはり、そこまで思い出しているのね。三代目様の娘、『幻想の狐』、有栖川

 妖狐…。」

 二人、いや、二匹の狐は鍔迫り合いは熾烈な

 戦いを繰り広げていた。


「んー、やはり、これは逃れられぬ業(カルマ)なのか、本能(サガ)なのか…。」

「母さん、何言っているんだ? 」

「いや、比狼には関係ないことだよ。」

 アパートの部屋から覗く二人をよそに、二匹の狐は戦っている。

「ほらほら、どうした妖狐、そんなんだと私の本気、見れないよ。」

 そう言った矢先、妖狐の刀が狐袖の頬を掠めた。

「…ふっ、フフフ、カーカッカッカッ!!

 そうだよ、これだよ、これ。私の求めていたのは。小生意気なガキにやられるのは癪だから

 私の本気を見せてあげる。

『惑わす狐(ミラッジ・フォックス)』」

「…あれ、私は、誰と戦っていたっけ? 

 あっ、そうだ、『狐袖』さんと戦って、って

 あれ。何で私は、『私』と戦っているの? 」

「あのバカっ、本気出しやがったな。狐袖の

 やつめ。」

「どういうことだ、母さん? 」

「狐袖のact『惑わす狐』は幻を見させたり、記憶を操る力があるんだ。そして、その力を

 見込んで私と妖狐に親子の関係を植え付けた

 と言うことだ。」

「えっ、でも、俺と母さんは親子だよな。」

「無論、否定はしない。」


 一方、妖狐と狐袖の戦いはと言うと、


「悪いけど妖狐、これは試練なのよ。だから、

 さっきも言った通り、本気だから。」

 と狐袖は呟いた。


「…もう、私は迷わない。だから、この幻は

 もうない! 」

 妖狐の見えるものは、もう自分自身と戦う幻

(ヴィジョン)はなく、狐袖と東雲の空があった。

「狐袖さん、もう私は、幻なんて見ません。

 だから、決着をつけましょう。」

「いいだろう。一撃で沈めてやる! 」

「『剣撃剣舞・終の型』。」

「『千狐絶刀せんこぜっとう』!! 」

「『鏡花水月』。」

 二匹の狐の斬撃はぶつかりあい、妖狐が膝を付いた。

「ふっ、流石、三代目様の娘だ。」

 そう言って狐袖は倒れた。

「袖姐さん、悪いけど、私のこと話してくれない? 」

「悪いが、喋るのがダルいから私の心を読んでくれ。」


 朝焼けが、二人の姿を写し出す。夜の帳は消えて、太陽が顔を出している。


「…なるほど。」

「そう言う事だ。」

「まぁ、嘘はないのでそう思っておきますね。」

 妖狐の謎は、概ね解かれた。幻想のような、過去に囚われていた少女、この先はどうなるのか?

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