死がふたりを分かつまでR2

 魔物を一刀のもとに斬り伏せる。振り向きざまに剣を振り下ろし、ショートケーキに飛び掛かろうとしていた魔物を斬る。

「あ、ありがとう」

「無理しないで、僕の後ろに下がってて」

 息の荒い彼女の前に出て、剣を握り直す。

「待って、怪我してるわ」

 彼女が一言二言唱えると、みるみるうちに傷が塞がっていった。

「ありがとう」

「無理しないでね、チーズケーキさん」

 無理はするだろうな、と思いながら微笑みを返す。少なくとも死ぬことだけは避けなければ、ここに来た意味がない。彼女に背を向けて、僕は魔物の群れに突っ込んでいった。

 元々はただのケーキだった僕らが、剣を振るうことになるなんて考えられただろうか。思えば、人間の姿になってから随分といろいろなことがあった。

 はじめはただ戸惑うだけだったけれど、すぐに魔物が現れ始めた。逃げまどう人間達の中一人だけ堂々と立っていた人が、僕に戦い方を教えてくれた。魔物は元々ケーキとは対極にある辛いものから生まれたもので、それを打ち倒せるのは僕たちケーキの力だけだ。師匠は僕に剣を、ショートケーキに癒しの術を、モンブランには糖術という魔法を教え込んだ。そして、僕らを人間の姿にし、その力を利用しようとした者の存在を教え、姿を消してしまった。けれど、きっと、すべてが終わったら会えると信じている。

「危ない!」

 ショートケーキの声で、魔物の爪が目前に迫っていたことに気付く。

「くっ!」

 とっさに剣を構えるが、それも弾かれる。やられるのか、こんなところで――!

「お兄ちゃん!」

 叫び声の直後に目の前で爆発が起こり、思わず目を閉じる。

「チーズケーキお兄ちゃん、大丈夫?」

 目を開けると魔物は視界から消え、代わりにモンブランが駆け寄ってきていた。首を巡らせると、魔物は壁に打ち付けられ気を失っているようだった。

「チーズケーキさん、怪我はない?」

「多分、無いかな」

「強いからってぼーっとしないでよ!」

「ごめん、気を付けるよ」

 先ほどの魔物が最後の一匹だったらしい。ちらと扉に目をやると、それに気付いたモンブランが口をつぐんだ。

「あの奥にいるんですね」

 ショートケーキが緊張した面持ちで扉を睨む。

「あいつさえ倒せば、またケーキに戻れますよ」

 自分を安心させるためにも強い声を出す。彼女はぎこちない笑みを浮かべてみせた。

「また、ケーキに戻っちゃうんだ……」

 独り言のつもりで言ったのだろうその声は、僕の耳に届いていた。

「モンブラン」

 名を呼ぶと、モンブランは弾かれたように顔を上げる。

「あ、違うの! ただその、自分勝手に動けるのも楽しいな、って思っただけで、ケーキのままでいる方がもちろん絶対いいの!」

 彼女は彼女なりに自分を納得させているつもりだろうけれど、そのかすかな迷いは敵につけ込まれる隙ともなりかねない。ここでもう少し、しっかりと言い聞かせてやるべきだろうか。ショートケーキに目配せすると、困り顔で視線を返される。

「ほら、早く行こ! ぐずぐずしてたらまた魔物が来ちゃう!」

 僕の考えを知ってか知らずか、モンブランは僕とショートケーキの背中を押して前に進ませる。

「そんなに押さなくても自分で歩くって」

「でも、モンブランの言うとおりかもしれないわね」

 僕らはそれぞれの武器を握りしめ、扉の前に立つ。


 これが、最後の戦いだ。

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死が二人を分かつまで 時雨ハル @sigurehal

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