スマホゲームって入れてるもので性格でるよね……でない?

 今日も今日とて、昼休みに先生と一緒にゲームに興じる。


「やっぱ楽ね」

「わかります」


 昨日できなかったノーマルのクエストを周回して、ミッションをクリアしていく。今回は15回ほどやれば終わるので、あまり時間はかからない。

 もう何度倒したかわからないドラゴンをのしたところで、先生の所のミッションが終わりを告げる。


「終わった」

「お疲れさまです」

「うん。ありがとう、友瀬君。おかげで少し周回減らしても良さそう」

「と言って、減らさないんですよね」

「そうなのよね……」


 減らす減らさないじゃなく、ゲーマーは皆、いつのまにかゲームをやっているものなので、減るわけがないのだ。きっと先生もそうだろう。暇があればアプリを開いてなんかやってる。俺もそうだ。


 そういえば……。


「先生って、これ以外に何かやってるんですか?」

「ほれ以外?」


 口に菓子パン(今日は餡パン)を加えながら応える。考えてる間にモグモグと食べ、飲み込むと同時に「そんなにないわね」と答えた。


「見る?」

「いいんですか?」

「ゲームアプリ欄だけだし」


 見せてくれたゲーム欄の中には、先程やっていたゲームも加えて四つしかなかった。その中の三つは俺もやっているけど、一つ知らないものがある。


「これなんです?」


 ヘルメットを被り、背中に銃を背負った男の人が写っているアイコンを指差す。まあ、なんとなくわかるような気がする。昨日さんざん好きであるところを見せられたので、恐らくはそっち方面のゲームだろう。


「まあ、FPSみたいなものかな」

「ですよね」


 わかってはいた。


「なかなか最後まで生き残れないのよね。8人くらいまでならなんとかなるんだけど」

「それって凄いことなんですか?」

「やってない人からしたら、凄いことだと思うわよ。残ってる人強い人ばっかりだし」

「俺がやったら瞬殺ですかね?」

「体力ゲージによるんじゃない?」


 マックスだったら一撃とはいかないということだろう。


「でも、これ以外は普通というか……美少年より美少女が多いですね」


 うち三つは俺もやっているゲームなので内容がわかっている。比較的美少女が多く出るゲームばかりだ。


「そういえばそうね……面白そうだからって理由で初めたけど。育成に凝れるのがそれくらいなのよ」

「美少年が出るゲームは?」

「乙女向けって、比較的ルーズなところがあるよね。カンタンにレベルもマックスにできるみたいな。私、作業ゲームとか育成ゲームの方が好きだから、育てるのが面倒なほど楽しいの。だからじゃない?」

「めっちゃマイ○ラの整地とか好きそうですよね」

「凄い好き。ただ地面を掘ってるだけなのに、その音聞いてるだけで幸せになれる」

「俺、ただ地面を掘る音を繰り返すだけ、っていう作業用BGM聞きながら勉強してます」

「それ、集中力途切れないかしら? ちゃんと勉強できてる?」

「意外とそれなりには。俺、真面目に勉強すればいい点数取れるんで」

「じゃあいつもその真面目な部分を見せてほしいかな。先生としては」

「あははは……」


 先生の言っていることは最もだが、ゲームに割く時間を取りたいので、定期テストのとき意外は難しいかな~。なんて、口が裂けても言えない。

 このまま勉強の方に話題が逸れると、生徒である俺は戦術的不利になってしまうので、ゲームの話に戻す。


「結局先生は、難易度の高い育成ゲームが好きってことですよね」

「そうね。でも美少女は好きよ」

「そうなんですか? あんまりキャラクターにこだわりなさそうなのに」

「そこまで固執はしないけど、でもやっぱり育てるなら可愛い方がいいでしょ?」

「ああ~、それはよくわかります」

「だから、美少年よりかは、美少女の方が好きかな~。男性同士のやり取りに一喜一憂する人の気持はよくわからないし。男性同士よりかは、女性同士の方が可愛らしく見れるから」

「ホモよりも百合ですか?」

「どちらかと言えばね。男の人同士の恋愛も悪い訳じゃないけど……そこまで好きでもないのよね」

「俺は男なんで、ホモはお断りですけど」

「もし友瀬君がホモでも。私はちゃんとお話聞いてあげるから。必ず相談してね」

「その優しさは持たなくて大丈夫です。ちゃんと女子が好きなので」


 女子にときめくことはあっても、男子にときめくことなんて絶対にありえない。そもそも恋愛対象に見れないし。やっぱり女の人の方が興奮できるし、好きだ。


 先生は「冗談よ」と楽しそうに笑う。まさか、からわれた? 先生でもからかうことがあるのか……とどこか衝撃を受ける。

 やっぱり先生は、真面目な人、という印象が強いので、こう子供っぽいことをされると戸惑ってしまう。そこが可愛らしいのではないだろうか。と思うこともあるが、先生に対して可愛らしいと思うこと自体が、なんだか可笑しな気がしてしまう。

 仮にも相手は年上だぞ。可愛らしいはさすがに失礼だろ。


「友瀬君は、普段はどんなゲームをするの?」

「俺は……だいたいこんな感じです」


 先生と同じように、ゲーム欄を見せる。


「音ゲー多いわね」

「手軽に時間も潰せますし。難しいのをクリア出来た時の達成感はやばいです」

「育成とはまた違った快感でしょうね」

「そういえば、先生の方には音ゲーなかったですね」

「ええ。私、音ゲー苦手なの。だからいれてないわ」

「そうなんですか? リズム感覚良さそうなのに」

「そんなことないわよ。というか、友瀬君って、隙きあらば私のこと褒めるわね」

「えっ? そうですか?」


 そんなに褒めてるかな? イメージと違うな~ってのを言ってるだけなんだけど。


「友瀬君から見たら、私って超人ね」

「さすがにそこまでは思ってないですよ」

 大抵のことはこなしそうなイメージはありますけど。

「イメージと違うと幻滅されそう」

「俺は、逆に新鮮で嬉しかったですけど。なんか、先生のこと知れてよかったな~って」

「……口説いてる?」

「違いますよ!」


 今のはただの率直な感想だ!


「そんなに焦らなくていいわよ」先生は余裕の笑みを浮かべると「教師と生徒との間に、そういう気持ちは持ち出さない。あなたが私を好きでいても、私がちゃんと断るもの」

「俺は別に先生のことは好きじゃないです」

「ふふっ。ごめんなさい。ちょっとからかい過ぎたかもね」


 なんというか、年上で先生なんだから当たり前だけど、こっちばかり取り乱して向こうが余裕だというのが癪にさわる。軽くあしらわれているようで、自分がまだ子供なんだから、と間接的に言われているような気分だ。

 熱くなった顔を、深呼吸することで収め、先生を見る。

 先生は、またスマホでゲームを初めてしまった。楽しそうにゲームを進めている先生の横顔を見ながら、俺のように赤面させてやりたいと思った。単純に悔しかったし、先生の取り乱す様をみるのも、弱みを握ったみたいでおもしろそうだと思ったからだ。


 しかしどうやってテレさせるか……俺は女性経験はないし、恋愛シュミレーションゲームも嗜まない。さらに相手は先生だ。今でこそ、ゲーム仲間という親密な関係を築くことができたが、普段はやはり生真面目で規律に煩い怖い人だ。生半可な口説き文句じゃきっと歯が立たない。

 何かないか……何か……。


「どうかしたの? そんな真剣に見つめて」


 ジッと見ていたのがバレていたのか、先生はスマホの画面を見ながら、俺に問いかけた。まさか見られていないだろうと思っていた俺は、ビクリと肩を震わせる。


「まさか見とれてた?」

「……」


 否定の言葉が頭に浮かんだが、それが口から出なかった。見ていた恥ずかしさと、こちらを向いて微笑む先生の顔があまりにも綺麗過ぎて、声をなくしてしまった。その言葉が冗談だとわかっているし、別に見とれていたわけでもないのに、その一瞬だけは確かに見とれていた。


「……――ん!」


 声が漏れそうになって、なんとか喉に止めるにいたる。見とれていた事実を認めたくなくて、顔をそっぽに向けた。そしたら先生もその反応が予想外だったのか「あら……」と声が漏れる。


「その……ごめんなさい。悪ふざけが過ぎたわね」

「いえ。俺も過剰反応しすぎました」


 もはや逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。けれどここでそんな行動を取るほうが過剰反応だろうと思い。動くことができない。

 気まずい時間が流れる。

 色々な言い訳が頭に浮かんでは消える。いまさら言い訳をしたところでと思うし、これはもう時間がすぎるのを待つしかない。

 早く早くと思うと、時間はとても遅く感じる。予鈴が鳴れば立てるんだ。早く鳴れよ。


「……ねぇ──」


 キーンコーンカーンコーン……と、ようやく鐘が鳴った。


「……じゃあ先に戻ってるわね」

「はい」


 先生が先に立ち、それ以上何も言わないまま階段を降りていく。音が遠くなり、静寂が訪れると、俺は大きな溜め息を吐いた。


「マジで。過剰反応しすぎだから。俺」


 きっと当分は思い出して恥ずかしく身悶えるような案件だろう。今の内に、気持ちの整理だけはちゃんとしておこう。


 ~~~


 放課後。


 結局あの後の授業は、集中力が散漫だった。真波先生が担当する現文がなかっただけありがたいと言えよう。もしあの人の授業があったら、俺はずっと教科書で顔を隠していたかもしらない。


「はぁ~」


 ずっと考え事をしていたせいで、頭が疲れている。それが体にも来て結構怠い。早く帰って気分転換にゲームでもするか。

 鞄を肩にかけて席を立つと、「ボーッとしてたね」と、帰り支度を整えた鹿嶋が話しかけてきた。


「ちょっとな」立ち話はせずに、そのまま歩き出す。

 鹿嶋は俺の横に付いて歩きながら「考え事?」と訪ねる。


「考え事考え事。それはもう大変な」

「それは大事だ。友瀬の矮小な頭じゃ解決できないと見た」

「酷い言いぐさだな。これでも成績は中の上で可もなく不可もなくなんですが?」

「勉強ができるのと、頭がいいのは違うだろ? 友瀬、頭は悪くないと思うけど、少し感情に鈍感なところあるから」

「そうか? 割りと機敏な方だと思うけど……」


 少なくとも、自分のことなら。

 しかし鹿嶋は「い~や」と断固拒否する。


「君はライトノベルで言えば、主人公属性だよ」

「ハーレムか~わりとありだな」

「男として責任感のかけらもないね。好きになった子が可愛そうだ」

「ハーレム作る前提みたいだけど、そんなことしないからね? そもそも相手がいないから。俺を好きとか、なかなかいないって」

「……そんなことないでしょ」


 鹿嶋がそう呟く。まさかこいつが俺のことを擁護するとは思わなかったので、少し意外に感じた。


「ああ……なんだ。そうか」

「うん。顔は悪くないんだ。ゲームオタクであることを除けば」

「割りと性格の部分致命的だな」自分で言うのもなんだけど。

「わかってるなら、少しは自重したほうがいいかね。明日は土曜だし、何もないなら外に出るとか」

「外か……」


 あんまり出たくないな。

 俺のそんな心を見透かしたのか、鹿嶋は「本当にしかたないな」と溜め息を吐く。


「じゃあ私の買い物に付き合ってよ。そしたら出る理由になるでしょ?」

「まあ……確かに」

「なら決まりだ。明日はデートだね」

「デッ!」


 鹿嶋を見ると、彼女は小悪魔のような笑みを浮かべている。まるで、俺の反応を見て楽しんでいるようだった。


「お前な」

「何か問題? 男女が一緒にいるんだから。デートと言っていいでしょ。それとも友瀬は、彼女じゃない女の子とじゃ、デートできない?」


 挑発的な言葉。乗るのは癪だが、乗ってやろうじゃないか。


「そんなんじゃない。いいぜわかった。デートしてやろうじゃん」

「決まりだね」


 嬉しそうに約束を取り決める鹿嶋。

 まあ、土曜日に予定がなかったので、わざわざ連れだそうとしてくれた鹿嶋には、少しだけ感謝しよう。けどデートか……初デートか。


 不安半分、嬉しさ半分。相手が鹿嶋というだけで多少気は楽なのが救いか。


「じゃあ明日の14時に、駅前集合ね?」

「駅前って……ここのか?」

「ここのここの。ショッピングモールあるし、二人共定期で来れるし。いいでしょ?」

「ああ。わかったよ」


 まあ、買い物に付き合うだけだし、そんな気負うことはないのか。でも……なんだ。服装ぐらいはちゃんとしていた方がいいかもしれない。

 自分の私服に何があったのか考えながら、自分のセンスを信じるしかなかった。

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