第3話 「ぶつかる為に」
「颯天が、共に居るために、その道を選ぶのを望んでおらずともか?そして、その道が苦難が待ち受けていたとしても、お主は進むか?」
「…はい。颯天さんが望まなくても、私は後ろじゃなくて、隣に立ちたいです! 苦しい事もあるかも、しれない。でも私は進みます。颯天さんの隣に居るために!」
「…そうか。お主の覚悟はよく伝わった。‥‥考えは変わっておらぬようじゃ。どうする、颯天よ?」
「えっ!?」
咄嗟にニアは辺りを見る。が自分と白夜が立っている場所はかなり開けた場所で近くに木々は無くて。
一体何処に隠れているのかとニアが改めて辺りを見ていると。
「何処を見ておる、わしの後ろに居るじゃろ?」
「え、後ろって‥‥…えっ!?」
白夜の言葉通り、自分の正面。即ち白夜の後ろを見るとそこには一体いつから立っていたのかというほどに。忽然と、寧ろ何故、言われるまで気が付かなかったのかというほどに背を向けた颯天が、立っていた。
「い、一体いつから‥‥?」
「最初からじゃよ? 颯天に呼ばれてそのついでにお主を連れてきたんじゃよ」
「い、言ってくださいよ!?」
「言ったら来なかったじゃろ?」
「うっ」
ぐうの音も出ないほどの正論に、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいと内心で思いながらニアはそれ以上何も言えないでいると。颯天が口を開く。
「それで、白夜。俺にどうしろと?」
「何、改めてニアの想いを聞いてお主はどう思うた?」
「俺の想いは、変わらないさ」
「…そうかの」
ニアの想いを聞いてなお、変ることは無い。颯天は振り向くことなくそう言い、その答えに白夜は小さくため息を吐き。
振り向くことなく颯天が歩き始めようとした時だった。
「なら、ぶつかるしか、ないのぅ?」
「え?」
「…なんだと?」
「当たり前じゃろ? 互いに譲れるのであれば、言葉で駄目であれば互いにぶつかる方が良い。下手に引き延ばせばよいという訳でもないしの?」
「それは‥‥そうかもしれないですけど」
「‥‥‥‥」
白夜の言葉に動けなかったニアがそう答え。逆に颯天は驚いたような声を出して以降は、動きを止め。それぞれの反応に対して何を言うまでもなく白夜はそう言いのけた。
「なに、別に殺し合いをしろ。っと言っておるわけでもないのじゃ。いわば規模が少しばかり大きな喧嘩のような感じじゃよ。もちろん、互いに本気でじゃがな?」
「本気か?」
「本気じゃよ?手を抜くなんぞ、相手に悪かろう?」
「「…‥‥」」
白夜の言葉に颯天は振り返る事無く、しかしその声音の動揺からもかなり驚いている事が伺えて。言葉にはしなかったが、ニアももちろん驚いていた。
白夜はニアと颯天。この二人の実力差を良く知っているはずなのに、提案したことに何か理由があるのかとニアは考え、それは沈黙する颯天も同様だった。
「もちろん、これ以外に、互いに良い方法があるならそれでもわしは構わん。あくまで二人の問題じゃからの。じゃがこの方が、より想いを理解するのに適しておるとわしは思っておるよ」
「‥‥私は、白夜さんの考えて賛成です」
「ニア‥‥!?」
ニアの賛成に颯天は予想外だったのか、振り返った颯天にニアは正面からその眼を見つめる。
「私は、本気です」
「…ッ! そうか、勝手にしろ」
一瞬、その表情が歪んだように見えた後、颯天は感情を伺わせない声音でそう言い。再びニアたちに背を向けるとそのまま現れた時と同じように、姿を消した。
「ふむ、行ったようじゃぞ?」
「‥‥はああぁぁぁぁ~~~~」
颯天の姿が消えた後も、近くに居るのではないか。そう思い少しの間は肩の力が抜けずにいたニアだったが、白夜がそう言った事で肩だけではなく、全身の力も抜けてしまい地面へとへたり込むように座ってしまい。
そして、そんなニアの前に白夜は来ると、ニアの頭にポンッと手を乗せる。
「良い目と啖呵じゃったぞ。あれならば、ニア。お主の想いの強さが颯天の奴に伝わったじゃろうて」
「そうですか‥‥?」
「うむ。まあ、そんな啖呵を切ったお主に言うのも何なのじゃが‥‥、颯天の奴を嫌いにならんでほしい」
「どういうことですか?」
「詳しくはわしの口からは言えぬ。じゃが、颯天がお主に「英雄」になって欲しくない事にはちゃんと理由があっての事だと。これだけは覚えてやっていてほしいのじゃ」
発破を掛けたわしが言えた義理ではないがの。そう小さく呟く白夜の姿は、まるで仲違いをさせないために両者の間で苦しむ幼い子供のように感じて。
「うむっ!?」
「大丈夫です。私は颯天さんの事を嫌いになる訳ないですから」
ニアは。自身の頭を撫でていた白夜の手をそっと包み込み、自分の胸に引き寄せ、そのまま白夜をギュッと抱きしめる。自分の想いが少しでも自分たちの為に苦しんでいる白夜へと、伝わる様に。
「…そうか」
そして、ニアのその言葉に安心したのか、白夜は特に逆らうことなくニアに抱きしめられて、少しの時間が経ち、白夜はニアの抱擁が緩むと抜け出して立ち上がる。その頬は恥ずかしさからか少し赤くなっているように見えたが。だが、それは直ぐに消えて。白夜の眼は何処か爛爛とした感じの、真剣なものと切り替わる。
「んんっ‥‥。さて、であるならば、時間が惜しい。早速、特訓と行こうかの」
「‥‥特訓ですか?」
「うむ。今のお主はそこらの魔物程度であればまず遅れは取らぬじゃろう。が、颯天が相手となれば、死を感じるほどの本気の。そして
「‥‥‥」
それは、ニア自身も自覚していた事で。自身と颯天との実力差を表すのであれば、ニアを蟻とするならば、颯天は天変地異を起こすことの出来るほどのドラゴンと言えて。
だが、実際はそこに更に経験の差が入ることによって蟻と龍ほどの絶望という言葉ですら生温い彼我の差があると。それを知って諦めるかと言われればそうという事は無く。
更に言えば。こういうからには白夜には何か考えがあると感じていたニアは覚悟を持った目で白夜を見ると、その眼を見て白夜は笑った。
「じゃから、颯天に勝つ。ないし一矢報いる。その為の特訓として。ニア、今からわしと真剣勝負じゃ」
「…はい」
ニアの返事を聞くと白夜は跳躍して距離を取り。ニアもその場で立ち上がり。立ち上がったニアのすぐ横に鞘に収まった二振りの小太刀が突き刺さり。ニアは何も言わずに刺さった鞘から小太刀を抜き、構える。
「真剣だと思い臆する出ないぞ? 今のお主は、相手を気遣う事すら‥‥」
そう言いながら白夜の体から肌が降りえるほどの霊力が放出され、二十はくだらない数の狐火が作り出される。
「烏滸がましい。故に本気で、こい」
「っ!」
白夜の雰囲気が変わった、そう肌で感じた瞬間にニアが走り出し、その様子に満足しながら悠々と、白夜は狐火を放ち、死闘という言葉が相応しい真剣勝負による白夜によるニアの特訓が始まった。
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