第17話 「二つの太陽」
「それでね、ちょっと変な格好をしたお兄ちゃんの魔法で私たちの足の下に円が出来たと思ったら光に飲み込まれて何も見えなくなったの。でも直ぐにそれが消えて、気が付いたらここに立ってたの!」
「…なるほど。ありがとう、そしてすまない。君も疲れてしまっているはずなのに教えてもらって」
「ううん! 閉じ込められた時は怖くて、お兄ちゃんに驚いたちゃったけど。でも、私だけじゃなくて他の皆も一緒に送ってくれたから!だから、王様!もしお兄ちゃんが戻ってきたら、お礼を言いたいの!」
熊の獣人である少女、キィの純粋な願いに、アルレーシャは頷いた。
「ああ、分かった。必ず君のお礼を言葉を彼に伝えておこう」
「本当!!」
「ああ。しっかりと、彼に伝えよう」
アルレーシャの言葉にキィは嬉しそうに眼を輝かせ、そんなキィの姿にアルレーシャは微笑ましさを感じながら、怖がらせないようにゆっくりと立ち上がるとキィの顔には何処か不安げな色が見え隠れしていて。
「大丈夫だ。彼も一緒に居るのであれば、二人揃って無事に帰って来るさ」
「どうして分かるの?」
自分の考えを当てられて驚くキィの様子にアルレーシャはもう一度笑みを浮かべ。
「それは彼を信じているからさ。彼は私でも想像できない方法で物事を解決してしまうからね」
「王様、あのお兄ちゃんの事が好きなんだね!」
「…へ?…え!?す、好きっ!?」
「あれ、違うの?」
「い、いや!? その、間違ってはないんだがええっと、そのまだその想いを伝えていないと言うかっ!?」
「? あ、お母さん!」
「ああ!キィ!」
唐突にテンパリ始めて周りの音が聞こえなくなっていたアルレーシャはその声に思わず驚いたが、直ぐに先程までの混乱など何ともなかったかのように咳払いをして振り返るとそこではキィに母親が抱き着いたところだった。
「ああ!良かった!本当に、本当に無事で!」
「お、お母さん!ちょっと、くるひぃ!」
母親はボロボロと涙を流している一方で、キィは強く抱き締められすぎてハハオヤの背中を叩いていたが、泣いている母親には聞こえていない様子で、その様子をアルレーシャは微笑ましく見ていたが次第にキィの顔が青くなり始めたのに気づき。
「あの、感動の再会を邪魔するようですが、娘さん、キィちゃん気絶しちゃいますよ?」
「あ、アルレーシャ様!?」
声を掛けてきた人物が国の王であることに母親は驚き、キィの抱擁が弛み、そのタイミングを逃すことなくキィは脱出し。
「はぁ、はぁ…く、苦しかった…」
母親の抱擁から解放されたキィは酸素を必死に取り込むように呼吸をしている様子に安心をしながらアルレーシャは母親と少しばかりの話をした後。
「本当に、ありがとうございました!」
「いえ、気を付けて帰ってくださいね」
恐縮している母親にそう言い。
「またね、王様!」
「ああ、元気でな!」
母親に手を引かれながら手を振るキィに手を振り替えし、その姿が見えなくなり背を向けたアルレーシャの顔は王の顔へと変わっており。
「姿を見せよ」
誰もいない空間へそう呼び掛けると、アルレーシャの前に黒衣の服を身に纏った者達、イルミナス皇国に存在する光を司るのは騎士団とするならば、彼らは国の為に汚れ仕事や密偵などの闇を司る組織である【
「それで、帝国側の反応はどうだ?」
「はっ。軍は帝国に帰還したのですが、現在帝国の上層部は沈黙を保っているとのことです」
「そうか…。件の方は?」
「そちらも探りを入れていますが、重要施設な為になかなか…」
「そうか。引き続き帝国に動きが無いか警戒と情報の共有を厳とせよ。また国内の不穏分子にも注意せよ。見つかるなよ?」
王である者であれば。光があれば、そこに闇を宿す。清濁を併せて吞む、この意味を知っているアルレーシャから放たれる冷たい雰囲気はまるで背中に抜き身の刃を当てられているかのようで。
「「「はっ!」」」
だが、彼らはそれに恐怖することなかった。
何せ、情を寄せ判断を間違えばそれは自国を危機に陥れるかもしれない。
だからこそ、アルレーシャの冷たい空気は信頼しているからこそだからで。
彼らは答え、その姿は闇の中へと消していった。がアルレーシャからすれば、彼ら以上の実力者である颯天を知った現在、少し稚拙だと感じてしまい。
「いや、颯天が異常なだけだな…」
彼らの実力はこの国はアルレーシャを除いた場合の最高戦力たる【四騎士】を光とすれば、その彼らは影ながら国を思い、人々に知られることなく危険な任務を遂行している影の存在で、その実力は【四騎士】に次ぐ実力者で構成されているのだから。
「っ!? なんだ、この禍々しい魔力は…!?」
だが、颯天という存在を知った今。アルレーシャは彼らを颯天に鍛えてもらうか、そう頭の中で思案したがその思案は中断を余儀なくされ。禍々しい魔力を感じてアルレーシャが見た先は、空。夜の帳が降り、太陽に代わり煌々と輝く星が仄かに照らす世界(空)を侵食するかのようにそれはあった。
「魔力の、塊?」
そこに見えたのはそれは、本来触れることのできない魔力が高濃度まで圧縮された事によって質量を持っているその様子はまるで禍々しく瞬く不吉な星のようで。
(一体いつから、いや、そもそもあれは何なんだ?)
アルレーシャが知る限り、あのような空間を歪ませるほど、かつ質量を持つほどの魔力を見たことは無かった。それ以前に、あのレベルになるまで存在を隠していた何者の技量に驚愕すべき所だが。
星を見るとそれは刻一刻と大きさを増しながら降りつつあり、それも一直線に水精霊の森の中央にある泉に向かって落ちているようで…。
「まさか、堕ちてくるというのか!?」
アルレーシャが驚愕するのも無理は無かった。「水精霊の森」には水の大精霊であるローレライの存在しており、その身から溢れる魔力によって森全域に加護として行き渡り泉を中心として森全体が外部からの魔力による攻撃を遮断する結界となっているのだが。
今、空より降りつつある凶星に対して如何にローレライの結界が耐えきれるとは思えず。そも、あれほどの禍々しい魔力が落ちたらどれほどの被害が及ぶかもわからない。何より、この森で暮らすエルフや獣人達が暮らせなくなってしまう…。
「やらせない!」
そう思った時には、アルレーシャは鞘を納めた剣を地面に突き立てていた。
「星を照らす恵みの光、恵みを受けし大地と眷属よ、盟約に応え、厄災を却けし守護を今ここに!」
祝詞が終わりに近づき突き立てた剣へと森の木々より黄金の光が収束していき、剣の全てが黄金の光に包まれるが、アルレーシャ詠唱はそこで終わらなかった。
「水の大精霊たるローレライ。その真の名を預かりし者。アルレーシャ・カヴァリナが願い奉る。大地を潤し恵みを育む水、災禍を払わんが為。我に水の加護を与えよ!」
アルレーシャの詠唱が進むごとに淡い水色の魔力が黄金の魔力と混ざり合い輝きながらも暖かな光がやがて一つの結界へと形を成す。
「
鍵句となる言葉を紡いだ瞬間、剣を中心に黄金の光は森全体を覆うのみならず、幾十もの結界を構築した時、空より降る凶星とアルレーシャのローレライの魔力を借りて構築した結界が、ぶつかった。
その時のことを獣人達はこう語った、あれはまさに黒と黄金、二つの太陽がぶつかり合ったかのようだった、と。
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