第16話「VS マザー2」

 所変わり水精霊の森にて、アルレーシャは付いてきた来た一同に今更な問いを投げかける。


「もはや言っても遅いけどあなた達、本当に城で待っていないで良かったのかな?」


「それは今更というものじゃよ、アルレーシャよ。既にここに来てしまったのじゃ。ならば潔く諦める他なかろう? 寧ろわしとしてはあの小娘伏見が颯天の所に行かなかっただけ良しとすべきじゃと思うぞ?」


「それは、そうかもですね」


 そう、現在アルレーシャ達がいる場所はイルミナス城ではなく。現地に戻るアルレーシャに同行する形で伏見、ニア、そして白夜は「水精霊の森」に居た。

 事の発端はイルミナス城にて、颯天が帝国に住民を助ける為に潜入した。その情報を聞いた伏見は無言で颯天の元へと向かおうとしたが。


「これ! こっそりと行こうとするでないわ!」


「うぎゅう」


 猫のようにこの場を離れようとしていた伏見。それを先読みしていた白夜に頭をチョップされてしまった事で使おうとしていた仙術が乱され、更に狐火で作られた縄による拘束によって伏見は動けなくなり、出ていた猫耳も引っ込んだ。


「え、え?」


 そして、それを見ていたニアはむしろ何が起こっていたのかが理解できずにただ困惑していた。


「お主は…。颯天の事が心配なのは分かるが、お主一人が行った所で今回は颯天の邪魔になるのは目に見えるぞ?」


「それでも、行かないと駄目な気がする」


 本能的に予感のようなものを感じているのか、伏見は諦めずに火の縄を抜け出そうと仙術を使おうとするが。


「その火縄で仙術の制御を奪っておるから使えぬぞ。もし使いたいのであれば、ワシ以上に仙術を使いこなさなくてはな?」


「…流石は仙狐とも言われる存在」


 悔しそうにそれから少しの間、白夜から仙術の制御を奪い返そうと頑張っていた伏見だったが、流石に力量の差を自覚していたようでやがて抵抗を止めた。


「…諦めた。だから、これを解いて」


「いや、駄目じゃな。抜け駆けしようとした罰として反省の為に今しばらくそのままで居るのじゃ!」


 と、そんな事があり。場を納める提案として、アルレーシャが今一度現場である水精霊の森へと戻るのに同行するかと尋ねて三人が了承し、現在へと至るのだが。今現在、水精霊の森は慌ただしいものへと変わっており、その中には伏見とニアの姿もあった。


「…それにしても、颯天はとんでもないですね…」


「まあ、わしも認めた男じゃからな!」


「あはは、そうですね」


 そう話している二人の前を、兵士や獣人、そしてエルフ達が忙しく動いていく。その原因は少し前。アルレーシャ達が町へ到着して少しの時に起こった。



「なんだ、あの光は!?」


「まさか、帝国からの侵略か!?」


 夜の帳が降りたなか、突如として闇夜を照らすように出現した謎の光。離れていても感じる圧倒的なまでの魔力に町の住人達は帝国からの大規模侵攻だと思い恐怖による混乱が。兵士たちは帝国が再び国民を襲おうために仕掛けてきたと怒り交じりの臨戦態勢へと移行し緊張が高まろうとした時だった。


「落ち着けっっ!!!」


「「「「「!!!????」」」」」


「今、この場には私が居る!故に怯えることはない!そして国を守る精強なる兵達である騎士よ、怒りに呑まれるな!」


 ただの一声。だがその声に籠った威圧によって恐慌状態に陥りかけた住人達、そして兵士達の怒りと緊張を吹き飛ばした。


「騎士は三人一組となり先程の光の場所へ向かえ!戦闘になる可能性も考慮し、戦闘となった場合は私が到着するまで持ちこたえよ、よいか!」


「「「「「「「はっ!!」」」」」」


 アルレーシャの強さを知っている兵士達はアルレーシャの言葉に敬礼をすることで答え、慌ただしさがありながらもそこに怒りや緊張などは無くなっていた。


「良い号令じゃな」


「皆、アルレーシャを信じてる」


「凄いですぅ!」


 白夜を皮切りに伏見、ニアがそれぞれアルレーシャの事を褒め、褒められたアルレーシャは何処か恥ずかしげに頬を掻いた後、気持ちを切り替える為に咳払いをすることで誤魔化し、白夜達を見ながら本題を告げる。


「え~…こほんっ! その、申し訳ないんだけど。伏見、白夜、一緒にきてもらえないだろうか」


「うん」


「よいぞ」


「‥‥あれ、私は?」


「ええっと、その…」


 てっきり自分も呼ばれると思っていたニアはきょとんとした表情でアルレーシャに問い。問われたアルレーシャは奥歯に何かが挟まった、そんな困った表情を浮かべてる。

 この中で、最も戦闘に向いていないのは間違いなくニアだ。それ故に危険があるかもしれない場所へ一緒に行くのは避けるべきだとアルレーシャは判断したのだが、本人にどう切り出せばいいのか、そんな迷っている時だっ


「…ふむ、アルレーシャよ。今回はニアも連れて行ってみても良いと思うぞ?」


「え、しかし…」


「なに、危険があるとは限らん。それに戦いの中で目覚めるものもあるのじゃよ」


 実際、アルレーシャ自身も戦いの中で現在は光り輝く黄金の聖剣エクスカリバー光の加護を受けし鞘アヴァロン。この二つの枷を解き放ち、真の姿である明日を照らす絶剣デュランダルを振るうことができ、その言葉の信憑性を知っていた。故にアルレーシャは折れた。


「‥‥‥‥分かりました。ですが、二人もお願いね?」


「分かってる」


「おうとも!」


 そうして、話は纏まり。アルレーシャ達は既に騎士たちが向かった光のあった場所。湖の畔へと向かった。そして向かった先で観たのは騎士たちと、光が気になってきた住人達。そしてその向かいには、帝国の兵士達によって連れ去られたエルフや獣人この森の住人の姿があり。


「…キィ、ちゃん?」


「あ、おばさん!」


 その内の一人の熊耳少女が兎耳の女性に気付いて駆け寄り、それによって幻ではない分かると皮切りに村人達が一人、二人と駆け寄り抱き合い、そうでない者は村に居る人に伝えるために走る。

 そして、村にもたらされたその情報はすぐさま広がり喜びの声が上がり、冒頭へと回帰する。


「はぁ。颯天、君は本当に凄いよ」


「……」


 そして、忙しなくだが、嬉しそうに動く村人達を見ながらのアルレーシャの呟きは歓喜の声と空気が広がる村へと消え、それを隣で聞いていた白夜も村の様子を目を細めながら眺めていたのだった。







(いっつつ…。これは、思っていた以上だな…)


 マザーに蹴り飛ばされる直前。電流は空気を纏いそれを絶縁体とすることで大気へと放出する事で防いだが、流石に蹴りの勢いは殺すことが出来ず。結果、颯天は蹴り飛ばされた。だが、派手に壁に激突したお陰で体への衝撃は全ては壁に肩代わりしてもらい、怪我を負う事もなかった。


(さて、取り敢えず戻るか)


 故に、颯天はごく自然に背中を預けていた壁から抜け出すと歩き舞い上がった煙を抜け、再びマザーの前に姿を現す。


「あら? もしかして効いてないのかしら?」


「い~や?しっかり効いてるよ。まあ、腕は多少しびれたくらいだがな?」


「あら、一撃で終わらせるのは勿体ないと思って手を抜いたのは、失敗だったかしら?」


 文字通り、大した怪我すらも負っていない颯天に対して、マザーはそう憎まれ口を口にするがその表情は笑っていた。


「けど、それならまだ私も楽しめそうね」


「まあ、楽しめるかは‥‥お前次第だな」


 一瞬にして、颯天の表情は本気の顔へと切り替わり、それによって空気が張り詰める。


「ええ、そうでしょうね!」


 空気が変わった。故に、先手を取る為にマザーは腕に電流が走り、その指先の照準を颯天へと狙い定めると、発砲音と共に幾筋ものオレンジ色の閃光が空を疾るが、その軌跡は颯天の少し前でオレンジの火花となって散る。


「超電磁砲(レールガン)か」


 超電磁砲。それは磁場を形成して、そこに電気を流す事で物体を撃ち出す技術で颯天たちの世界にあるリニアモーターカーを思い浮かべれば最も簡単だろう。

 マザーは腕に電流を流し磁気が働く空間‶磁場〟を作り出し弾丸を発射した。そして弾丸(物体)の加速によって断熱圧縮という現象が起こり空気を圧縮、加熱することを空力加熱によって弾丸が燃えオレンジ色の軌跡を描いた弾丸の正体だった。


「…正解。まあ、弾丸の表面は柔らかい鉄だけど、芯には超硬複合金属アダマンタイトを使っていたんだけど。まさか初見で防がれるなんてね。というか電磁加速された超硬複合金属アダマンタイトを剣で砕くって、それに耐える剣もだけど、アナタ、本当に化物ね?」


「まあ、この程度できなきゃ死んでいたから、なっ!」


 一歩、踏み込んだと同時に人であれば認識が追い付かないほどの速さで、更にジグザグその距離を詰める。その颯天の挙動をマザーは認識し超電磁砲を放つが回避される。


「アナタなら躱せるわよね。けど、これならどう!?」


 颯天の回避に合わせるように響く二度の発砲音の後、放たれた弾丸は颯天にではなく颯天が回避した弾丸へと命中し、その軌道を変え残るもう一発に当たりもう一度軌道を変え背後より凶弾が颯天へと迫るが。


「ふっ!」


 背後に目が付いているかのように、何とでもないように倒れ込むのではないかと思うほどの前傾姿勢を取ることで弾丸は颯天の背の上を通過し壁を抉り火花を散らし。


「はぁっ!」


 距離を詰め、黒鴉(こくう)を首を狙い振うが、マザーは咄嗟にその軌道上に左手を滑り込ませ、刃を防ごうとする。


「くぅぅっ!?」


 がしかし、滑り込ませる事の出来た左腕は、黒鴉(こくう)の刃は左腕の中ほどまで切り裂かれる。だが、マザーは笑っていた。


「遠距離も跳弾も駄目。でも、ゼロ距離ならどうかしら!?」


 右腕に走る電流。それは先ほどの超電磁砲(レールガン)を放った時と同じもので。発砲音が響き、誰しもが当たると思っていたが。


「うそ、でしょ…?」


 雷を扱えるのは、お前だけじゃないぞ?」


 マザーは目の前の出来事にそう驚愕の声を上げるしかなかった。何故なら颯天の全身に流れる雷によって放たれた弾丸が一瞬にして融解し、プラズマ化して消え去ったそれ以上の変化。それは颯天の全身に青白い稲妻が走り、更に額には青白い水晶のような角まで生えていた。


「そうだとしてもっ。それは、反則ってものよ!」

 

【黒鴉(こくう)】によって中ほどで断ち斬られていた左腕を再生させることで刃を押し返し、剣を呑み込まれないために颯天はそのまま後ろへと下がる。


「反則もなにも、使えるのはつかうものだろ?」


「…アナタ、雷以外にも使えるでしょ?」


「お、ご明察」


 マザーの言葉に颯天は余裕のある声音で答え、マザーはそれに対して最早、何とも言えない表情になるがそれも致し方なかった。

 何せ、目の前の相手はまだ本当の意味での本気をですらいないのだと。だが、そんな相手に一矢報いる手段はあった。


「はぁ、これはなりふり構ってられないか」


 カチッ。内部に仕込まれたある機構が作動したと同時に、マザーの全身に異常とも言えるほどのプラズマが疾る。


「まあ、でもこれで最後にしましょう!」


 そう言うとマザーは先程の颯天の挙動を真似るように、宙にジグザクの電光を軌跡を残し駆ける。それはまるで、いまにも燃え尽きる寸前の流星が魅せる最後の煌めきのようで。

 それを見た颯天はマザーが何をしようとしているかを理解した。


(なるほど、自爆か)


 確かに、現状のマザーの攻撃で颯天に有効打は期待できない。ならば、潔く捨て身の戦法に活路を見出だすのもまた


「なら、正面から受けてやるさ」


 距離を詰めてくるマザーに対し、颯天は両手で剣を持つとそのまま正眼に剣を構える。

 そして、交差しその勝負は一瞬で決着した。


「これで、お前の目的も終わったか?」


 颯天は剣を振った態勢で、マザーはその体に傷はないだが、両者だけは分かっていた。


「…最後の足掻きも駄目だった、か。ふふふっ、ええ、ええ。そうね。貴方なら、とても楽し、めそう…ね」


 その言葉を最後にマザーの体は腰を境に両断され、やがて力なく鋼鉄の床の上に倒れ込むその体は、最早動く事はなく、颯天は鞘へと『黒鴉(こくう)』を納めると、そのままフェンの傍へと歩み寄り、手を差し出す。


「立てるか?」


「‥‥大丈夫」


 差し出された手を取り、フェンは立ち上がるとその眼で颯天を見た。


「やっぱり、強いね?」


「まあ、色々と経験したからなぁ。それより戻るぞ」


 賞賛が籠ったフェンからの眼差しに颯天は視線を逸らすことで誤魔化しながらファザーの歩きだし。


「…何時か、私も…」


 颯天の背中を追うようにフェンも歩きながら漏れた言葉は颯天が気が付くことなく空へと解け消え、二人はファザーと合流する。


「これで、良かったのか?」


『ああ。壊れてしまった彼女を止めるには、これしかなかった。ありがとう』


 颯天からの問いにファザーは頭を下げて礼を言うと、そのまま颯天たちを先導するように前へと出る。


『案内しよう。君に託す私たちの『娘』の所へ』

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