第15話「戦闘開始」
爆発が起こった原因、それは颯天が地面に火遁【爆裂】を付与した魔石を一斉に発動させたからだった。それでも削れたのは全体の凡そ四割程度だったが、そこに、最初こそ戸惑っていたカヴァリナ軍の騎士・兵士達が雄たけびを上げながら魔物の群れへと突っ込んでいき、魔法による援護も始まり、初手の先制攻撃は成功を納めたと言えるだろう。しかしその様子を颯天は確認する余裕は、無かった。
(これは、まずいな)
揺れる視界、体に襲い掛かるひどい虚脱感に苛まれ、その結果、体の力が抜けてしまい、颯天の体はそのまま後ろへと倒れかかったが、
「大丈夫?」
それを伏見が横から支えることで倒れるという事態は避けられた。
「っ、悪い」
立っているだけでも辛かった颯天は、支えてくれた伏見にお礼を言い、体を預ける、すると反対側からも支える感触があり、視線を向けるとそこには伏見と同じように支えるニアが颯天を見上げて来ていた。
「私も支えます!」
「ああ。頼む」
伏見とニア。二人の肩を借り、颯天は地面へと腰を下ろし、鉛のように重い腕を動かしてステータスプレートを取り出すと颯天はステータスプレートに魔力を通し、今の自分のステータスを確認する。
NAME 影無颯天 職業
体力 9000 (-3000)(+???)
筋力 7000 (-2000)(+???)
耐性 6500 (-1000)(+???)
魔耐 6000 (-2000)(+???)
敏捷 7500 (-2000)(+???)
魔力 800 (-15200)(+???)
【技能】【言語理解】・【錬金術】『分子固定・分解』『原子固定・分解』『錬製』『付与』『鑑定』
【火遁】『爆烈・劫火・終炎』【水遁】『蛟』【木遁】『蔦狗』【風遁】『風鼬』【土遁】『遮地天壁』【陽遁】『Unknown』【雷遁】『麒麟剛雷・伝雷波』【無系統忍術】『硬籠・金剛体・雷光・魔響感知・魔拡感知』【幻術】『朧霞』【陰遁】『Unknown』【陰陽術】『不動明王金縛り・火界咒』【結界術】『陰影』【降霊術】『Unknown』 【霊眼】『遠見・透視』
颯天の総魔力の凡そ八割がごっそりと削られ、軒並の、体力から魔力のステータス、全てが低下しており、この中でも魔力が人並み越えて減少していた。そして、その原因は颯天からしてみれば明確だった。
(まあ、それも当たり前か。【爆裂】を一斉に発動、更に威力を増す為に魔力を流したんだ、むしろ少しでも残っただけでもマシと思うべきか)
そう、あの魔石内蔵型のスイッチは、云わば地面に埋め込んだ全ての魔石に魔力を流す為の道具で、颯天の魔力がごっそりと削られたその原因は、事前に買っていた魔力の内包量の多い魔石を起爆させる為に魔力を使用した事、更に威力を上げる為に【爆裂】を付与した魔石が自壊するまで魔力を更に注ぎ込んだせいであった。そしてそんな事をして、四千程の魔物の全体の四割という事は、合計十個の魔石を使用したのだが、魔石一つの自壊によって百六十程倒せたという計算になった。
(残りの魔力は、二割か)
感覚的に、残っている魔力は恐らく二割程度だろうと颯天は感覚的に予想していたのだが、ステータスプレートに表示されたそれは正に予想通りだった。だが正直に言えば魔力が少しでも残っているのは颯天にとって僥倖でもあった。魔力が残っているか否かで戦い方も変える必要があったからだ。
そしてもう一つ、ステータスが軒並み下がってしまっていたが、そちらに関しても予想していたより軽微だった事に内心、安堵していた。この後の戦いに支障が出るレベルであれば目も当てられないところだったからだ。そしてそんな颯天を心配そうに見てくる伏見とニア。
「大丈夫?」
「ハヤテさん。大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
まだ、虚脱感は消えていないが幾分か緩和され、耐えれないほどのものではなくなってきていたので、颯天はまだ思い体を持ちあげ、途中ふらつき、二人は支えようとしたが颯天はそれを手で制し、自力で立ち上がり、一度深く息を吸い込み、呼吸を整える。
「…よし。それじゃあ事前に言っていた通り、前線には俺と伏見が。後方をニアに任せる」
「はい!」
「分かった」
颯天の言葉に、まだ何処か颯天の事を心配そうに見ていた二人の表情が、一瞬にして切り替わった。元々魔石型地雷を起爆させる前に三人で話していたのだ。幾ら騎士や兵士、魔法士たちが居たとしても、全てを倒しきれるわけではない。なのでその攻撃を潜り抜け、または耐えきり後方の本陣へと、その奥にある王都へと向かおうとする魔物を倒す、前線に出て兵士、騎士達が手に負えない可能性のある魔物を倒す、この二つに別れて行動するのだ。
「それと、無茶だけはするなよ。もし、何かあれば
「うん 「はい!」」
伏見とニアは、颯天が作りそれぞれに渡したチョーカー型の遠距離通信魔道具に触れながら颯天からの忠告に素直に頷く。それを確認した颯天はもう一度、自分の装備を確認する。
(【黒鴉】【雷切】共に異常なし。腕のプロテクターも問題はない)
錬金術の技能の内の一つ『鑑定』によって問題がないかを確認していく。腰の【黒鴉】と背の【雷切】は事前に日々手入れをしていたために問題なく。腕に装備しているプロテクターに関しても特に問題は無かった。そしてポーチの中にある幾つかの魔石が入っている事も確認し終え、伏見たちを見ると伏見たちも幾つかの回復アイテムがある事等の確認をし終える。
「よし、行くぞ!」
颯天の号令を元に、二人は頷き、颯天達は一斉に動き始めた。
「やはり、彼のお陰で幾ら削れたが、まだまだ数は多いな」
「はい。ここは一度、少しでも数を減らすために広範囲に魔法を放ってみては?」
天幕では、【槍の騎士】トラストと軍師の男、ベルティが今も入ってくる情報によって変化する
「いや、それだと無闇に魔力を消費するだけだ。一気にでは無く、確実に仕留めていくべきだろう」
「しかし、このままでは」
「分かっている。だが、それは最後に取っておきたい」
ハヤテのお陰で、魔物の群れの全体、凡そ四割ほどが先程の爆発によって消滅し、それを見て勢いに乗った兵士・騎士達が果敢に戦っているというのは報告を聞いて以降、入ってくる情報は戦況が膠着状態を伝えるものばかりだった。
(どうしたものか)
トラストとしても、そして軍全体としてもこの膠着状態はあまり嬉しい情報ではなかった。何せ、最初に四割削ってもなお、魔物の数は多く、戦いが長引けば、更に魔法による攻撃を行えば回復魔法によって傷を治せても、いずれ魔力のが尽きれば戦う事も傷を癒す事も出来なくなる。もちろんその為に回復用ポーションなども配布しているが、数に限りがあるのだ。
そして、もし広範囲に魔法を撃って魔物に傷を追わせても、それで倒せなければ意味がない。
広範囲の魔法は魔力を多く消耗し、それは回復に魔力が回せなくなり、ポーションも尽きれば負傷者が増え、防衛戦を維持する事が困難、最悪の場合は後退することも視野に入れて考えなければなら無くなってしまい、難しい状態に陥っていた。
(さて、どうする?)
再び地図を睨み始めたトラストに情報を伝える一人の兵士が近づいてきて、トラストに礼を取る。
「トラスト様。報告があります」
「なんだ?」
「前線にハヤテ殿、伏見殿が、後方にはニア殿が戦線に加わられ、既に二桁程の魔物を倒したとの報告が」
「なに!?」
兵士からの報告にトラストは思わず声を出してしまった。本来の作戦であれば、颯天達は一旦魔力回復を図るために休息を挟んだ後に戦闘状況に合わせて参加するという流れだったのだか、兵士からの報告を聞く限り、ハヤテ達は魔力を回復するための休息をすること無く戦闘に加わったとトラストは即座に理解した、それ故に思わず声が出てしまったのだった。
トラストの元へ報告が届いているその頃、颯天は三つの頭を持つ犬型の魔物、ケルベロスと戦っていた。ケルベロスは犬や狼の魔物が変異した存在で、その強さは一段、いや二段ほど上の強さを誇っていた。
そして、何より厄介なのは吐き出してくる火の塊だ。
「「「ガアアアッ!」」」
三つある頭の一つが吐き出しら火の塊を、居合いによって両断、颯天はそのまま切り裂いた火の塊の中を突っ切る様にして【抜き足】で一息に距離を詰めようとする。
だが、そこに他の頭の内一つが噛みをしてきて、颯天は横に飛ぶことで噛みつきを回避、納刀していた【黒鴉】を噛みついてきたケルベロスの頭の一つへと抜刀する。居合は、あらゆる『魔』を裂く破魔の一閃。
「【断魔の太刀・双翼】」
颯天の放った二撃の居合はまるで二つの翼の様に、意図も容易くケルベロスの首を斬り飛ばし、斬り飛ばした首から血しぶきが吹きあがり、痛みによってケルベロスは暴れる。
「グギャアア!」
その痛みにケルベロスが少しのあいだ暴れたのを最後にその体は動きを止めた。確実に仕留めた事を確認し、周囲に気を配りながら体を軽くほぐす。
「ふう。流石に重い、か」
戦い始めて20分が経過し、颯天が倒した魔物の数は三桁に届こうとしていた。そして倒した魔物その全てに、颯天は一切の魔力は使わずに、肉体と技術だけで戦っていた。それは一重に魔力は最後まで、不測の事態に備えてとっておくためだった。そして体を休めるために少しばかり、息を吐く。
「全く、休む暇すらないな」
颯天の目の前には姿を現したのは虫型の、蟷螂を黒く染め、大きくしたかのようなシュネルマンティスだった。
「シャアアア!」
そしてその鎌の様な爪には血が付いていた。恐らくここに来るまでに何人かの兵士や騎士の命を刈り取ったのであろう鎌を颯天に向かって振り抜いてきたが、颯天は【黒鴉】で受け止め、横に流しながら、颯天は左肩に掛けていた【雷切】を左手で抜き放ちなから同時に一歩踏み込み、その胴体を斬ろうとしたが、シュネルマンティスはもう片方の爪の半分まで斬られながらも受け止められた。
(かなりの硬さだ。それにめり込んだせいで【黒鴉】が抜けないか。なら)
半分以上入った状態で止められた影響で抜くことが出来ず、僅かに動きが止められた颯天にシュネルマンティスの複足が襲い掛かるが、颯天は更に一足踏み込み背中に背負うもう一つの刀、【雷切】で複足を斬り飛ばし、更に胴体を絶ち切り、断ち切ると同時に力が抜けた爪から【黒鴉】を引き抜き、吹き出してきた紫色の血に触れないように即座に距離を取り、シュネルマンティスと戦っている間に近づいて来ていたロートウルフが三体飛び掛かって来たので【黒鴉】と【雷切】で斬り倒し、刀を納め、移動を開始した。
次の移動先も魔物が多い場所だ。そして、移動している間に仲間の状況を確認する。
(伏見、ニア。そっちはどうだ?)
(私の方は大丈夫。後一体倒せば移動を始める)
(わ、私の方、魔物が来過ぎですよ~!)
どうやら、ニアは討ち洩らした魔物を相手にする事で忙しいようだった。
(流石に、ニア一人で多数の魔物を相手にするのは厳しいか)
本来であれば、颯天はこのまま前線で魔物達が集まっている場所に向かおうと思っていたのだが、颯天は少しばかり予定を変更することにした。
(伏見はそのまま前線で魔物を倒してくれ。俺はニアの援護の為に後方に下がる)
(分かった)
(ごめんなさい、お願いします! うひゃぁ!)
最後の声に関しては聞かなかった事にして、颯天はニアの居る後方へと足を向けたのだった。
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