第11話「不朽宮攻略」

「さて、休憩も取ったし、最奥部目指して攻略を続けるか」


 休憩を終えた颯天が二人にそう声を掛けると伏見は頷いて、ニアもはい、と頷くと立ち上がり、二人が立ち上がったのを確認して颯天も立ち上がる。


「それで、取り敢えずこの後はどうするの?」


「そうだな…取り敢えず魔物が多い方に進もうと思う」


「それはどうして?」


 颯天の答えに伏見は不思議そうに首を傾げ、そしてそれはニアも同様だったようなので颯天はその至って単純な理由を説明する。


「まあ、こういう俺達の世界にはな、迷宮化した場合魔物が多い方に重要なものがある事が宝が多いからな。ここもそうなんじゃないかと思ったんだ」


「…ゲームの知識?」


「まあ、それもあるな。あっちの世界で迷宮は無かったからな」


「けど、ハヤテさんがそう思ったのはそれ以外にも理由があるんですか?」


「ああ。俺達の居た世界にこの世界にあるような迷宮は存在しない」


 そう、幾ら颯天のような忍や陰陽師、伏見のような妖が居たり、忍術やは存在するのファンタジーは確かに存在する。だが迷宮などのThe迷宮と呼べるものは流石に日本には存在していなかった。

 だが何事も、事だった。


「けど、何事も例外はあってな。その例外が俺の父親なんだが」


「‥もしかして、迷宮を作ったの?」


「ああ、まさにその通りだ」


 話の流れから答えを予想した伏見が颯天にそう尋ねると颯天は微かに笑みを浮かべつつ続きを話し始めた。

 宗龍が迷宮を作った元は颯天の特訓の為で、庭の地下に結界を構築、結界内部に合計五階層で構築された地下迷宮を構築し、各階層にそれぞれボスを設置したのだ。中でもきつかったのはやはり最下層の最終ボスである、蛇のような体に三つの頭が付いた三頭竜ヒュドラで、戦う中で最も厄介だったのはそれぞれ火・毒・水の吹息ブレスを吐いて来る事だった。そして颯天が魔物の多い方に行こうと思ったのは宗龍が敵が多い方にボス部屋があったりしたのでそれを参考にしたのだった。


「まあ、そんな俺の経験則もあって作り手としては進まれたくないからこそ敵を多く設置するんじゃないかと思ったんだ」


「なるほど!」


「確かに、それはあり得る」


 颯天が実際に経験した事を伝えるとニアは凄いですと言わんばかりに、一方の伏見は冷静に颯天が話した事に根拠が確かにあると思ったようだった。


「よし。取り敢えず方針は決まったな」


「待って。なにか、嫌な感じがする」


 方針が決まり取り敢えず魔物と会うために先に進もうとした時、伏見が颯天を止め、そして颯天自身もそれが何なのかを理解していた。


「分かってる。にしても何だ、この混じった魔力は…」


 漂い颯天が感じ取った魔力は明らかに何かが、少なくとも二つ以上魔力が混じっている違和感を感じさせるようなものだった。しかしそう口にしながら颯天はいつでも抜ける様に剣に手を掛け、伏見は拳に気を纏わせそして伏見と颯天の動きにニアもいつでも武器が抜ける様にと戦闘準備をする。

 そして颯天達が準備を整えて、時間にして十秒後、そいつは姿を現した。


「こいつは‥‥合成魔獣、キメラか!」


 颯天達の前に姿を現したのは、ファンタジーにあり、また過去に颯天が相手にした事のあるキメラだった。

 本来キメラは動物のあらゆる部位を使い、継いで剥いで作られる、いわゆる人為的に作られた魔獣だ。そして過去に颯天は日本に密入国した合成魔獣を作る魔術師が作り出したキメラの討伐に赴いた事があった。

 そしてその時の颯天が相手にしたキメラは豹の頭部に胴体は獅子、尻尾は蛇に、背には空の王者といわれる鷹の翼が生えており、もちろん多少の苦戦こそすれ、颯天は討伐に成功した。だが中でも厄介だったのは死角から襲いかかって来る尻尾の蛇だった。

 しかし今はそれを脇に居ておく。

 今確かなのは、この魔物は自然に発生しないという事だった。そして不朽宮の迷宮化とくれば、人為的に起こされた可能性が濃くなる。


(これは、明らかに人為的に起こされたものだな)


 そう確信をもちながらまずは目の前の敵だと頭を切り替えキメラを視る。


(なんとまあ、酷いものだな)


 キメラは獅子の体に蛇の尾、そして鷹の翼を持ち、だが

 その中で唯一変わった箇所があった。それは頭部で、その頭部はドラゴンのモノで、全五体全てのキメラの頭部がドラゴンの頭で、更に体から腐臭を放っていた。明らかに防腐処置などが施されておらず、そのまま継ぎ接ぎにしたと言う事が伺えた。


(惨いことを)


(確かにな)


 霊体化した白夜の声に内心で同意していると、五体の内の一匹のキメラが伏見へと飛び掛かった。


 だが伏見も弱い訳ではない、即座に仙術によって気を操作し体を強化させると残像が残る素早さで体を屈ませ、その上をキメラが通り過ぎ、隙だらけの腹に捻りを加えた拳を叩き込んだ。


「はあっ!」


 伏見の拳を受けたキメラはその体を天井近くまで上昇させ、翼の羽は飾りでは無く、まだ生きていたのだろう背の翼を使い空中で体勢を整えると先ほど立っていた場所に舞い戻った。


「痛みが、ないの?」


 伏見は何処か驚いたような表情で舞い戻ったキメラを見ていたが、颯天には驚きはなく、やはりか、と思う程度の事だった。何せ死体を利用している術で、死体には痛覚が無い故に痛みが存在しないのだ。だがそれでも死体を利用しているのであれば弱点も当然存在した。


(死体に痛覚は存在しない。それを操る死霊術は確かに強い。だがそれ故に弱点を抱え込む)


 そんな事を思いながら颯天は眼の前にドラゴンの頭を持つ五体の内、伏見の一撃を受けたキメラの、その腹部を見ると、その腹部からは白い煙のようなモノが噴き出していた。


(やっぱり、そうか。)


 颯天は確信を得たと同時に目の前のキメラたちは明らかに何者かによって作られ、操られているのは確定した。そしてこの世界でも死体の弱点は変わりない事も。

 まず死体を利用したキメラは理性というものが存在しない。そして理性が存在しないという事は本来、近くに居るものを問答無用で襲い掛かるもののはずなのだが、目の前のキメラは明らかに統率がとれていた事から推察が容易だ。


(死霊術で操ってという事は黒幕は別にいる)


 そして、このキメラを操っているのがこの不朽宮を迷宮化させた犯人なのではないか、と颯天は考えたがまずは目の前の問題を対処する事が最優先にする事にした。

 そもそも死霊術とは、命を終え死した肉体を操る、忌み嫌われている術の一つだった。そして操られる死霊が思考する事は無く、また死んでいるので痛覚などの神経も存在していないのでまさに操り人形であった。だが死霊術によって操られている死体を倒すのに最適な方法が颯天にはあった。その答えのヒントは伏見の気を纏った攻撃を受けたキメラの腹部に発生した白い煙だった。


「伏見、ニア。悪いが少しの足止めをお願いできるか?」


「‥分かった」


「が、頑張ります!」


 颯天には倒す為の何らかの方法があると分かったのだろう伏見とニアは疑うことなく頷く。


「…行く」


「はい!」


 まだ心なしか顔が蒼いながらも気丈にそう言ってくれたニアに颯天は思わず内心で微笑まし気な笑みを浮かべた。

 一方の伏見とニアはキメラたちの待つ場所へと一直線に突っ込んでいった。二人を見送った後、颯天は自らの内部の封印へと意識を向け、意図的に溢れ出した気と自らの魔力を混合させ気力を生み出しながら詠唱を開始する。

 使うのは、火の呪術。そして抜いていた【黒鴉】を鞘に収め、呪符の代わりに取り出したのは、ニアの持つ【莫耶】の対となる剣で、儀式剣の側面を持つ黒い剣【干将】取り出し構えると詠唱を始める。


「ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ」


 詠唱を始めた颯天に対し、二人で五体のキメラを相手に気を纏った伏見とニアはハヤテに強化してもらった名も無い短剣と【莫耶】の短剣による二刀流でキメラに対抗していた。

 また伏見の気と同じ様にニアの持つ【莫耶】は儀式剣、祭具としての側面も持っているため聖剣などの聖なる武具ほどではないが聖なる属性を宿していた。

 伏見とニア、二人は互いに連携し合いキメラからの攻撃を避け、または流しながら時に反撃を交えて行く。


「ニア、屈んで!」


「分かりました!」


 伏見の指示にニアは即座に屈みこみ、ニアの背後に迫っていたキメラを気で強化した拳で殴り飛ばし、屈んでいたニアは伏見の背後から迫って来ていた蛇の噛みつきを右の短剣で流し、左の【莫耶】で尻尾を斬り飛ばす。そうして互いにカバーし合いながら颯天の詠唱の為に時間を稼いでいく。そして時間にして凡そ十秒ほど過ぎた時、颯天は最後の詠唱を口にする。


「ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマン 伏見、ニア、離れろ!」


 颯天の声を聴いた二人は全速力でその場を離脱し、それを確認した颯天は最後の詠唱を終える。唱えていたのは火界咒。全て燃やし尽くす浄化の炎。


「焼きつくせ、急急如律令」


 颯天の詠唱が終わり、伏見とニアが颯天の元に辿り着いた瞬間、伏見たちを追い掛けようとしていたキメラたちの足元から紅蓮の炎が吹きあがり、それはまるであたかも炎による浄化となり、五体のキメラをいとも容易く呑み込んだ。

 そして炎が晴れた、キメラが居たその場所には何一つ残らず焼き尽くされ、何も残っていなかった。

 それでも颯天達は少しも油断する事なく辺りを警戒し、やがて【魔響感知】で辺りの索敵を終えた颯天が【干将】を収め、体の力を抜いた。


「敵影・気配なし。もう大丈夫だ」


 颯天がそう言うと伏見は気を操る仙術を解除すると肩の力を抜き、ニアは上がった息を整えながら力が抜けたのかその場に座り込んでしまった。


「大丈夫か?」


「あ、あはは。緊張が解けて、力が抜けちゃいました」


「ああ、良く頑張ったな」


 颯天が頭を優しく撫でるとニアの表情はヘニョと少しばかりだらしない表情になったがニアからは幸せオーラが溢れ出した。


「えへへ」


「むぅ‥」


 そしてその後、伏見からも頭を撫でてとねだられたのは、言うまでもない事だった。

 二人の頭を撫でた後、気持ちを切り替えた颯天達は少しばかりの小休憩で装備の点検をした後、魔物の多い方へと進んでいった。

その後はキメラと遭遇するような事は無く、出て来るのは精々ゴーレムか、盗みに入った盗賊の死体が魔力を吸い動くようになった死人(リビングデット)だけで、颯天達はあっという間に迷宮の深部へと到達し、事前に描いてもらっていた絵を頼りに目当ての宝玉を見つけ、ついでに浄化から魔物が湧く召喚陣に改竄されていた魔法陣を元の浄化の魔法陣を修復し、迷宮から出る頃には迷宮内の魔物達は全て浄化されて消え去っており、颯天達は戦闘もなく行きの時間の半分以上の速さで【不朽宮】を出て、その足でカヴァリナ皇国王都「ルナ」へと向かう為に歩き始めたのだった。

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