第10話「不朽宮」

古賀大雅達、勇者がアスカロ王国を出立するその頃、颯天達は大臣に言った通りに、依頼された翌日にカヴァリナ皇国王都「ルナ」を出立し、王都「ルナ」の南西にある、歴代の王の武具などを収めた宝物庫、決して朽ちない不朽宮へ潜り深部を目指して探索をしていた。


 不朽内部で出現する魔物は生物は多くなく代わりに命を持った無機物が多く、その中でも一番多いのが魔力を吸収し、変化した石、【魔石】を核とする魔石人形【ゴーレム】で、颯天達は今まさに魔石人形とたたかっていた。魔石人形の数もまた十は下らないものだったが、それで颯天と伏見にとってはまだ、苦戦するほどでは無かった。


「はっ!」


 接近してくる二体のゴーレムに伏見はそれぞれ気を纏わせた拳を撃ち込み、核となっていた魔石を破壊する。そんな伏見の背に残った魔石人形ゴーレムは三メートル程の巨石を投擲してきた。

 だが伏見は焦る事無く近くに居る魔石人形ゴーレムを破壊し、颯天は焦る事無く飛んで来る岩の前に立つと【黒鴉】を抜刀した状態で体の前で構え、その状態で眼を閉じ、感覚を研ぎ澄ませながら体を極限まで脱力させる。無駄な力みがあれば最悪体が爆散する可能性があるのだ。


(すぅ‥…よし)


 極限まで体の力みをなくし。息を整えた颯天がしようとしているのは厳密には抜刀なのだが、その内容は違った。颯天が行おうとしているのは、一瞬だけ剣の切っ先で受け止める様にして衝撃を受け、しかしその衝撃を地面に流すのではなく、体で循環、受けたその全ての衝撃を返す。

 それはまるで燕の様に一度は飛び立ち、成長し再び元の場所に返る循環のようであるが故に冠された技。


燕環えんかん


 颯天の持つ【黒鴉】と大きさ三メートル、重量は百キロに迫るであろう巨石が僅か一瞬拮抗し、次の瞬間には三メートルの石は、颯天の中で循環、増幅された自らの衝撃によって跡形もなく砕け散り、僅かに時間を置いて、更に三つの巨石が投擲されたが颯天はその全てを燕環によって破壊する。


 そしてそんな中、颯天の声を受けて魔石人形ゴーレム》へと距離を詰める少女、ニアの姿があり、その両手には颯天の錬金術によって鍛えられた、片方がありがちな直剣タイプの短剣だったが、もう片方の一振りはまるで初雪の様に深い様に白で40センチに迫るほどの刀身、日本では脇差、中世の欧州などではナイフ、ダガーとも言われた短剣が握られていた。

 その白い剣の形状は刀の様に僅かに湾曲しており、峰の部分に小さく櫛状の凹凸があり、それは剣を受け、てこの原理で破壊できることからソードブレイカーと呼ばれる短剣の峰の部分に似ていた。


「行け、ニア!」


「はいっ!」


 颯天にその答えに答え、ニアは距離を詰めその手に握った右の短剣を左斜め下へと切り下げると同時に体を回転させ、逆手に持っていたもう片方の白い短剣を今度は右下から左斜め上へと振り切る。ニアが両の短剣を振り切った後には、綺麗に両断された魔石人形ゴーレムが音を立てて崩れ去り、しかしそれ以上にニアは自身が振るった短剣から帰ってきた感触に驚いていた。


「凄い…」


 ニアの持つ二振りの短剣は、昨日颯天が錬金術、【練製】によって作り出し、ある機能を籠められた二振りの短剣で、その機能とは刀身と握り手の中間地点にある鍔に当たる部分に埋め込まれた、魔力を含んだ石、魔石で、更に魔力を注ぐことで再度の利用が可能である魔石に僅かに自身の魔力を流し込むと、現在の様に刀身の周りの空間が揺らめているかのように震えているのを見ながらニアは白い短剣と以前まで持っていて昨夜颯天の手によって改造された短剣を含めた二つの短剣を渡された、不朽宮に潜る前日の夜のことを思い出した。


「う‥‥んんっ‥…あれ…?」


 不朽宮に向かうのを翌日に控えた夜、潜る為に早めに眠っていたニアだったが、ふと何か小さな音と更に何となく月の光以外の明かりを感じ取り、眼を開けると目を閉じた状態で、右手を伸ばし掌を天井に向けたまま微動だにしていない颯天の姿が目に入った。


「ハヤテさん…?」


「‥‥…」


 声を掛けたがしかし余程集中をしているのか、それとも届いていなかったのか颯天がニアの方を向く事は無く、ニアを視線を颯天の前のテーブルの上にはニアは知らない幾つもの鉱石や紙に包まれた何かの粉が目に映り、なんだろう? ニアが不思議そうにと見ているとテーブルの上に置かれていた鉱石や粉末がまるで、颯天の手元へと吸い寄せられるようにして飛んで行き、形あった鉱物達は溶けあい、そこに粉末が混じっていき、やがてそれは二振りの剣へと姿を変わりつつあり、その光景にニアは眼を奪われた。


「綺麗…」


 その様子を見ていたニアは無意識に口から言葉がこぼれ、やがて剣の形を成した二振りの剣がテーブルの上で形作られ、一息をついた後、ニアが起きた事に気が付いたのか眼を開けた颯天が申し訳なさそうな表情を浮かべ体ごとニアの方へと向いた。


「悪い、起こしたか?」


「あ、いえ。何となく目が覚めたので、えっとそれで‥‥その剣は…?」


 颯天からの謝罪にそう答えながら、ニアの眼は颯天が作り出した二振りの短剣へと向いており、それでニアが短剣を見ていると気が付いた颯天は二振りの短剣を手に取り、ニアにもよく見える様に差し出した。


「ああ、これか?」


 ニアの前に全貌を現したのは混じりけの無い白雪の様に真っ白な刀身の短剣で、もう一振りは反対に漆黒である、二振りの短剣で、ニアに二振りの短剣を見せながら颯天は作り出した剣について語り始めた。


「こいつは俺の世界のある国の名剣で、この剣にはある特徴があると知ってな、それもあってニアに合うかもと思って作ったんだ」


「へえ、何かこの剣には意味があるんですか?」


「ああ、この二振りの剣は夫婦剣とも呼ばれているんだ。で、夫婦剣と呼ばれる決して切れない絆で繋がっている逸話があるからな、それと作ったのはニアには明確に俺の意思を伝えていなかったからだな。」


「ハヤテさん…?」


 そう言うと颯天は手にしていた剣の内の一振り、白い刀身の短剣をニアへと差し出しながら颯天は口を開く。


「ニア、この剣を受け取り、俺に付いて来てくれるか?」


 それは、一種の告白でもあり、それはニアにも颯天が言いたい事は確かに伝わっていて、ニアのその答えは既に決まっていた。


「当たり前じゃないですか。ハヤテさんは私の命の恩人で、私が好きになった人ですよ?」


 そう笑顔で答えながらベットから起き上がり、颯天の手から受け取ると同時に、内に秘めていた思いをぶつけるかのようにハヤテへと抱き着き、それが颯天とニアとの関係を深くし、ニアへと莫耶が渡された瞬間だった。

 そしてしばらくの間抱き着いていると颯天はある事を思いだし、抱き着いた状態でニアへと話しかけた。


「あ、そう言えば前俺が作って渡した短剣を持っているか?」


「はい、持ってますけど、どうするんですか?」


 持っていた名前を付けていない短剣を取り出し、颯天に渡しながらニアは不思議そうに首を傾げた。


「いや、ちょっとばかり、改造を施そうと思ってな。ニアは寝てていいぞ? 俺もこれが終われば寝るからな」


 そう言うと颯天が立ち上がろうとした時、颯天は引っ張られるような感じがし、見てみるとニアが颯天の服の袖をつかんでいたので、颯天は不思議そうにニアへと尋ねた。


「どうしたんだ?」


「あ、あの。まだ眠気がないので、迷惑じゃなければハヤテさんの作業を見ていてもいいですか?」


「…別に構わないが」


 面白くもないぞ? とニアに言うとニアは良いんですとばかりに首を横に振った。


「私は作業をするハヤテさんを見たいだけですから」


「分かった。だが眠くなったらちゃんと寝るんだぞ?」


 そう言って颯天は再び椅子に座るとニアから受け取った短剣を改造する作業に入り、ニアはその様子を見ていて、いつの間にか眠ってしまい、翌朝ハヤテから改造を終えた短剣が手渡されたのだった。

 それこそ颯天が短剣に施した改造。それは刀身自体を震わせたことによって発生させた高周波によって石だけではなく、鉱物も容易く切断する、ニアが扱い易いように改造し、颯天が今朝ニアに送った武器だった。因みにこの時、颯天とニアが話している間に伏見、白夜ともに起きていたが二人とも寝たふりなどをしていたのをこの時の颯天とニアは知る由も無かった。


 閑話休題


 ニアの短剣に施した刀身が高速で振動させ驚異的な切れ味を誇る振動剣、この仕組みは地球でも高周波を発生させて物などを切るのは地球では医療などにも使用されており、その驚異的な切れ味を誇るようにした短剣が、中国の名剣、陰剣、莫耶の姿を模倣し作り出した振動剣だった。

 そしてそんな二振りの短剣の切れ味に驚いていたニアに影が差し込み、ニアは意識せずともそれが魔石人形ゴーレムによるものだと理解し、顔を出した恐怖によって無意識に目を閉じた次の瞬間、ニアの目の前で硬い物同士がぶつかった鈍い音と火花、そして颯天の声が飛んだ。


「ニア、まだ敵はいる、気を抜くな!」


「ハヤテ、さん…」


 ニアが目を開けるとそこには手に持っている【黒鴉】で人であれば簡単に潰せるであろう石で出来た巨腕を受けており、時折魔石人形ゴーレムと石の腕と颯天の【黒鴉】の間に火花が起こっていた。


「俺がこいつの体勢を崩す、だからニアはそいつ短剣で斬り倒せ!」


「分かりました!」


 颯天の声によってニアが返事をした瞬間、「燕環」によって颯天の体に押しとどめられ、増幅されていた衝撃を受けた影響だろう、自身以上の力を受けた事によって魔石人形ゴーレムが体勢を崩した瞬間、颯天は後ろにニアは前にと即座に互いに視線を合わせるまでもなく動き、


「やあああっ!」


 ニアの二振りの短剣の剣閃が閃き、魔石人形ゴーレムは斬り倒され、こうして【不朽宮】内部の初戦闘は終わりを告げたのだった。


 戦闘を終えた颯天達は倒した魔石人形ゴーレム》から核である魔石を抜き取る作業へと移っていた。魔石は魔力を注ぐこと以外にも大気の魔力を少しづつ吸収するという性質を持ち、ここで放置すると再び魔石人形が復活してしまう可能性もあったので颯天達は手分けして一体一体の魔石を回収していったのである。因みに魔石は希少性が高いために高く売れたりもするが、現状金に困っていない颯天は魔石は売らずいずれ武器の作成時などに使おうと考えていた。


 そして伏見が核である魔石ごと破壊した魔石人形以外の魔石を颯天とニアが回収して回っている間もその間も伏見が警戒は続けており、猫又の血を引き、視覚と聴覚に優れた伏見発見と同時に伏見が辺りを索敵をしていたのだった。


「索敵ありがとうな、伏見。それでどうだ?」


「うん、取り敢えずは、近くに魔物はいない」


 そんな伏見の後ろに回収を終えたと颯天がを歩いてきたので、振り返って伏見は現状を伝える。


「ああ、助かった、ありがとう伏見」


「颯天の役に立てたのなら、いい」


 颯天からのお礼に伏見は嬉しそうな表情を浮かべ、更に尻尾は素直にユラユラと機嫌よさげに揺れていた。だがその中でも不朽宮に入って凡そ二時間ほどが経過しており、その影響で伏見とニアに僅かな疲労の色が見えたのを颯天は見逃さなかった。


「よし、それじゃあ少しだけ休憩するか」


「…そうだね」


「‥‥そうですね。私も少し疲れましたから」


「よし、それじゃあ少し休憩をした後、出発するぞ」


 そう言って体を休める為に颯天が腰を下ろすと、伏見とニアが颯天の両隣に来て休憩を始め、しかし二人が颯天の隣に来ると必然的に彼女が出て来るという事ではと颯天が思っていると颯天の目の前にポンッと白夜が颯天の腕の中にスッポリと納まる様にして姿を現した。


「白夜?」


「お主らばかりでは、ズルいからの?」


 颯天は白夜に尋ねるもそ白夜は颯天の問いに答える事無くそのままくつろぎ始め、一体どう言う事なんだ? と颯天は疑問に思い伏見とニアを見るも二人は特に気にした様子もなく体を休めていたので颯天は気にするだけ疲れると先送りにしつつ、体を休める事に手中するのだった。

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