第5話 「王都」

「わあっ!凄いですね~!」


ニアが思わずといった、上気した頬と興奮した声を上げるのには、目の前に移るのはアスカロ王国のような赤いレンガや黄色のレンガとは違った真っ白な石で作り上げられ、その周囲も城と同じく白い高さ十メートルはあろう壁で囲まれていた。その様は、まるで物語に出て来るかのような白亜の城という言葉がふさわしい城があったからであり、颯天と伏見も感嘆の表情で白亜の城、とその周囲を巨大な城壁に囲んだイルミナス城を見ていた。


「確かにな」


「うん、白くて綺麗」


「ふふふっ、そうだろ?」


そして壁もさることながら、その中でやはり一際目につく、白亜の城があり、その外観を見て興奮している中、その中でただ一人、いや二人ほど何処か微笑ましく、そして自らの国を褒められている事に笑みを浮かべている人間がいた。それはカヴァリナ皇国の騎士王、女王であり、現在ローブを纏いフードを目深にしているアルレーシャと、アルレーシャに仕えるロイ(こちらはローブで鎧を隠す程度)だった。そんな時、ようやく興奮した状態から落ち着いたニアはある重要な事に気が付いた。


「あれ、でも城下町は一体何処に‥‥…もしかして、あの壁の中に街があるんですか?」


そう、見た限りではアスカロ王国のように城の下に街は存在していなかった。だがニアもすぐにその答えにたどり着き、確認するかのようにアルレーシャとロイを方を向くと二人はニアの予想通りだと揃って頷いた。


「ええ、我が王都「ルナ」はあの白い壁の中にあるのです。因みにですが、あの街壁は作られて百年以上経っていますよ?」


「ええっ! そんなに経っているんですか! ‥‥‥崩れたりはしないんですか?」


何処か不安げな表情を浮かべたニアに颯天は苦笑を浮かべ大丈夫だと言い聞かせるようにニアの頭を軽く撫でながら口を開く。


「まあ、そのへんの心配は無いだろうな」


「どうして、そのように思われるのです?」


「流石に整備や点検くらいはしているだろうが、まあ必要ないだろうな」


ニアの問いに颯天が答えるとアルレーシャは興味が惹かれた様に、驚いた様子でロイが、一方のアルレーシャは驚きもあるが興味が惹かれたという感じで颯天に尋ねた。


「へぇ、何故そう思われるのです?」


「何故って、巧妙に石で作ったかのように繋ぎ目もあるかのように偽装しているが、それは魔法によるまやかしだ。あの壁は石じゃなく、全部鉱物で作られているだろ?」


「え、そうなんですか!?」


まるで、寝耳に水とばかりに驚くニアに、この場の全員が何処か微笑ましい視線を向ける。ニアが居るだけで、その場の雰囲気は自然と温かくなる。それは ニアの人柄によるものが強いだろう。そんな中同じく微笑ましく見ていた颯天は再び口を開いた。


「ああ、城と街を囲んでいる壁、あれは恐らく錬金術で作り出した、金属の壁だ。壁を構成している金属までは分からないが、何種類もの金属が混ざり合って、粘り強く、衝撃に柔らかく、それでいながら硬さを維持している、正に柔と剛を備えている。並大抵の攻撃じゃなければ壊れることの無い強固な壁となっているって思うんだが」


どうだ? と驚きながら尋ねてきたニアの質問にも答え、そして颯天の説明を口を開く事無く聞いていたアルレーシャとロイに尋ねるとアルレーシャは本当に面白い人ですねと笑い、ロイも同調するかのように頷いていた。


「ふ、ふふふっ、本当にあなたは凄いですね?」


「まあ、錬金術師だからな。何となく分かっただけだ。」


「あら、あれだけの腕を持っておられるのに、戦士職ではないのですか?」


ニアと伏見はただの石で作られた様に見える城壁いや外壁を見つめている中で、颯天の職業が戦闘職ではなく、生産職であるという事に驚きの表情を浮かべ、その後何処か疑うかのような視線を向けて来たが、それに対して颯天は苦笑するしかなかった。


「ああ、こればっかりは変えれない事実なんだよ。まあ使い勝手はかなりいい職業だがな、っと」


そう言いながら颯天はポケットに突っ込んでいたステータスプレートに魔力を流し、アルレーシャとロイに見えるように提示する。


NAME 影無颯天かげなしはやて  職業クラス 錬金術師アルケミスト

レベル???  男 年齢 17歳   ランク 銀


体力 12000 (+???)

筋力 9300  (+???)

耐性 7500  (+???)

魔耐 8000  (+???)

敏捷 9500  (+???)

魔力 16000 (+???)



【技能】『言語理解』・『錬金術』(分子固定・分解 原子固定・分解 精密操作 錬製)『火遁』(爆烈・劫火・終炎)『水遁』(蛟)・『木遁』(蔦狗)『風遁』(風鼬)『土遁』(遮地天壁)『陽遁』( )

『雷遁』(麒麟剛雷・伝雷波)『無系統忍術』(硬籠・金剛体・雷光・魔響感知・魔拡感知・『幻術』朧霞)『陰遁』・『呪術』(不動明王金縛り・火界咒)・『結界術』(陰影)・『降霊術』 『霊眼』(遠見・透視)


提示したステータスプレートに書かれていたのは、アスカロ王国では 『言語理解』・『錬金術』だけだったのだが今はそれだけでは無く、現在使用した、または過去に使用した術が一通り表示されていた。これに気が付いたのはミールを出て最初の野営の時に気が付いたのだ。だが流石にこれだけの【技能】を持っているのは異常で、召喚された勇者達で無ければあり得ないという事をミールに居た時に聞いたので、現在アルレーシャとロイに見えているのは『言語理解』と『錬金術』だけだった。だがそれ以上に颯天が気になったのは、『錬金術』の中に新たに出現した「精密操作」と「錬製」だった。


「確かに職業は錬金術師のようですね」


「確かに、ステータスプレートを偽る意味はありませんからね。それにしても」


銀ランクですか、とアルレーシャが言い、ロイもステータスプレートに表示されていた銀ランクという文字に釘付けだった。そして嘘じゃないでしょうねとばかりにアルレーシャは疑うかのような視線を向けて来たがそんなわけあるか、と苦笑いを浮かべながら颯天はレオンに貰った銀色の指輪を取り出して見せると何か納得したようで、ロイもなるほどと頷いていた。


「生産職、戦闘向きで無い職業でありながらも銀ランク。そうであるならば、あれだけの腕を持っている事に納得です。しかし、何故レベルが表示されていないのでしょうか、それにこの???表示は何でしょうか?」


「さあな、初めて表示された時からこんな感じだからな」


さっぱり分からんと首を振る颯天とロイだったが、何らかの不具合、もしくは何かしらの力が影響しているのかとロイと颯天の話を盗み聞きして何かを考え始めていたアルレーシャだったが、


「早く行きましょう!」


「ちょ、おい!?」


取り敢えずその問題は先送りにすることにしたのか再び顔を上げると颯天の手を掴むと、まるで見せたい物へと早く連れて行きたくて急かす子供のようで、颯天は引っ張られるようにして走り出し、その様子をロイは困ったそれでいながら微笑ましく見ていたが、一方の城壁へと眼を向けていたのだがアルレーシャの声が聞こえ振り向くと颯天を引っ張る様にして走り出している光景を見てニアと伏見は、またか! とばかりに王都ルナ走り始めていたアルレーシャと颯天を追い掛け始めていた。


「あの者達ならば‥…」


その後ろをロイが何処か眩しい光景を見ているかのように目を細めながら、先を歩いて行く少年少女達を追い掛けるように歩き始めた。



カヴァリナ皇国の王都「ルナ」、そして王城である「イルミナス」を囲う外壁の大きさは近づいて行く事によってよりはっきりと分かり、颯天は感嘆したように口を開いた。


「遠くから見て思ったが、近づくと大きさが更に分かるな」


「そうですね‥‥‥」


一方のニアは遠目から見ても大きかったのだが、近づくにつれて存在感と歴史の重みをもった街壁に何処か緊張しているだった。そんな中、街壁を見ていた伏見があるものを城壁に見つけていた。


「それにただ綺麗なだけじゃなくて、ちゃんと戦闘を想定した作りになってる。それによく見ればあそこにへこみがある穴。それとあの出っ張り」


伏見が指さした城壁の先には幾つかの穴が、そしてその穴がある場所より少し下には出っ張りが存在していた。そしてその事に颯天も気が付いていた。よく見なければ気が付かない小さな違和感。その正体は穴を塞いでいるからだろう。漢字としての大きさは縦横十センチ程で、出っ張りに関しては五センチほどの小さな物だった。


「ああ、恐らく有事の際は、あそこから魔法や弓なんかを撃ったりする穴があるんだろうな」


「なんだか、地球にあるお城の城壁と同じだね?」


「ああ、そうだな」


そう、伏見の言う通りで、城壁のちょうど中間部分に小さいが幾つかの(今は塞がれている)穴が綺麗に横一列にあると確認できた。その作りとして想起しやすいのは日本の城にある狭間(さま)とも呼ばれるものと同じ機能を持つもので、更に出っ張りに関しては恐らく壁に梯子を掛けられるのを難しくするための工夫だと颯天には思えた。


「本当に、よく見つけれるものですね‥…」


「ですね‥‥」


一方颯天と伏見が外壁に仕込まれている事に気が付いてアルレーシャはもはや何処か呆れたかのように見ていた。そしてそれはロイも同じだった。


「そうか?」


しかし、そんなものかと首を傾げる颯天としては些細な違和感や情報でさえも時には命を救う事に繋がるという事を実体験しているので特におかしいとは思えなかったのだった。そんなこんなを話しながら颯天達は街門へと着いていたのだが、門から目の前にまで続いている長蛇の列があった。


「それにしても、凄い行列だな‥…」


「「そうでしょうか(だろうか)?」」


「‥…そう言えば、こいつらにとってはこれが普通か」


まるで先ほどの意趣返しのように首を傾げてきた主従に対して思わず颯天は溜息を吐きたくなったが、彼らにとってはこれが普通なのだと言い聞かせて堪えた。颯天がため息を堪えた。一方は、ニアは物珍し気に行列を見ていた。


「それにしても、凄い行列ですね‥‥‥」


「恐らく検問があるから」


「検問、ですか?」


ニアは良く分かっていなかった様子だったが、伏見が確認するかのようにアルレーシャに尋ねるとアルレーシャは正解と頷いた。


「ええ、外壁内に街と城がありますので、必然的に内部に入る前に、何の目的があってこの王都に来たのか、商人であれば危険な物を所持していないか等を確認しているのです」


いわば、王都を守る最後の城壁ですね、と職務に勤しむ兵士達をどこか誇らしげに見る騎士(女)王陛下だったが、行列に並び始めて適当な話をしての凡そ十分程経過しただが、まったく進む気配が無かった。

いや、見た感じで大した変化は無かったが、一人二人分は前に進んではいた。


「このままだと、城に着くころには日が暮れてしまいますね。仕方がないですね」


皆様はここでお待ちください、ロイはそう言い、アルレーシャに騎士の礼を取った後、長蛇の列の先へと、即ち街門へと向かって行ってしまった。ロイの後ろ姿を見ながら颯天はいいのか、と視線でアルレーシャに尋ねても大丈夫だ、とアルレーシャの眼は言っていた。ので颯天は気長に待つことにした。まあ何故ロイがアルレーシャを置いて街門の方へと駆けて行ったのか、その理由は容易く予想できたからだった。

そしてロイが街門へと向かって数分後、ロイは戻ってきた。数人の兵士たちを連れて。そしてどうやら颯天達の事も伝えていたのだろう、先程までの待ち時間は何だったのだろうと思うほどにあっさりと颯天達は街門を通り抜ける事が出来たのだった。そして目の前に広がる様子を表すのであれば、正に「喧騒」という言葉がピッタリなほどの賑わいだった。


「わあ、凄い活気ですね!」


「凄い熱気」


ニアはアスカロ王国を越えるであろう程の活気に、伏見はその熱気に思わず圧倒されていた。

王都に入るまでに大分時間が経っており、今は日が傾きつつあり、辺りには夕飯の物だろうか、何処か家庭的な優しい匂いと、出店で焼かれている焼き魚や串焼き、幾つもの香辛料で麺を炒めたもなんかの匂いで颯天達が空腹である事を思い出させる中、アルレーシャは颯天達の前に立つとくるりとこちらを向き、丁度沈みゆく太陽を、そして王城を背に従えるようにしてフードを脱ぐと同時に金色の髪が躍る。そしてアルレーシャは満面の笑みを持って言った。


「ようこそ、騎士王わたしが納める国、カヴァリナ皇国、その王都ルナへ!」


こうして、颯天達はカヴァリナ皇国の王都であるルナへと入ることが出来たのだった。

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