第2話 「カヴァリナ皇国への道中2」

伏見が盗賊達を殲滅し、その後、盗賊達を錬金術で強度を強化したロープで近くの木に縛り付けると、颯天達はそのままアスカロ王国とカヴァリナ皇国の中心に流れる川の上に作られた、両国を繋ぐ平和の名を冠した巨大な橋「パーシェス」その上に築かれた商人たちの街と言っても過言ではない ミールに入るためにくぐる必要のある門に常駐している兵士たちに盗賊達の捕縛を依頼し、橋を渡るのに必要な書類とレオン直々の証明書を提示するとさして時間を取られる事無く門を通過出来たが、


「済まないが、連れて来るまでここで待ってもらえないか?」


と兵士から盗賊達が来るまで待ってもらえないかと盗賊達が来るまで待たされるという事態になり、しかし兵士たちも仕事で確認しなければならないという事を颯天達は理解できていたので了承したが、時間を取られた颯天達は「ミール」にで空いていた、ミールで警備がしっかりしている宿に部屋を取って一泊し、翌日、即ち今日颯天達は宿で朝食を取った後、街の散策に乗り出したのだった。


「遠目でも視えましたけど、本当に橋の全体が街だなんて凄いですね。それに橋の上なのに道も広くて、それに活気もそうですが、何より王都以上に人がたくさんいますね」


そして、活気のある街の様子にニアは初めて見る王都以外の街に何処か興奮した表情で周りを見ており、恐らく王都を出ての初めて見る街と雰囲気に興奮しているニアを颯天は温かい目で見ていた。


「そりゃ、ここはいわゆる交通と物流の要所だろうからな。物が通ったり、集まれば当たり前に人が増えて繁栄するだろうな。それにしても、本当に橋の上に街が一つある感じだな」


「うん。これは、地球でも無い」


「確かにな。」


そう言いながら隣に来た伏見に同意をしながら楽しそうに街を見ているニアを温かい目で見つつ颯天自身も今立っている石畳が、橋の上だと改めて凄いモノだと感じていた。


「さて、時間も押しているからな。元々昨日の内に街を見るつもりだったんだが、予想以上に時間取られたから、予定を変更して昼頃からカヴァリナ皇国の王都に向かうにして散策するにしても時間は限られてるからな」


「そうね」


「そうですよ、早く行きましょうッ!」


伏見は颯天に合わせるように、ニアは初めての街に興奮しているのか、頬を赤く染めながら早く行きましょうと颯天を急かし、そんな二人に挟まれるようにして颯天達は街の散策へと移ったのだった。

全長凡そ十キロに及ぶ橋の上には幾つもの店が隙間なく並んでいた。そして颯天は橋の上に幾つもあった宿の一つに部屋を取り、宿の周辺の店を見ていたのだが……そんな中、伏見に対してニアは待ったをかけた。


「そう言えばですけど、伏見さん、さっきから颯天さんに密着しすぎじゃないですか?」


「そんな事はない」


「いえ、手を繋ぐだけなら、ならどうして体を密着させているんですか?」


ニアの言った通りで、確かに伏見は手を繋ぎ、更に颯天に体を密着させていた。その事に対して微かに刺のある言葉と視線で尋ねる。


「安全のため」


「安全の為、ですか? でも伏見さんがその姿じゃなければ問題ありませんよね、それに」


すると伏見は何を当たり前の事をとばかりの返答を返す。安全の為、そうですかとニアが小さくつぶやくとその体から魔力とは違ったなにかが溢れだして、辺りの気温が数度下がったのではないかと錯覚させるほどの威圧が放たれ、痴話喧嘩と思われたのか、心なしか颯天達の周りを通り過ぎる足が速いように颯天は感じていたが、口を出すような事はしなかった。


「伏見さんは自衛できるじゃないですか」


「自衛は出来る、けど攫おうとする人がいるかもしれない」


「そりゃ、その状態の伏見さんに対してはやらかしそうな人は居るかもですけど‥…」


ニアの声と放たれていた威圧が徐々に尻すぼみして行ったが今の伏見の状態を見ればある意味で納得できてしまうモノだった。何せ、今の伏見の頭には猫耳が、お尻からは尻尾が生えており、その姿はこの世界に居る獣人たちの中に存在している猫人族にかなり類似しているのだった。そもそも猫人族とは獣人の中でも一際穏やかな種族で、また最も奴隷にされている種族でもあった。つまり何が言いたいのかと言えば、今の伏見はその猫人族と勘違いされて攫われる可能性があったのだった。


「でも、伏見さん弱くないですよね! 寧ろこの中で弱いのは私じゃないですか!? ‥‥…うう、確かに私役に立ちませんし、伏見さんに敵わないですけど‥‥」


自分が弱いと明言してしまったニアは、現状大きく伏見にリードを許している事も合わさったダブルパンチに思わずノックアウトし、膝を付き負けを認めていると伏見が颯天の傍を離れ屈み、そっと手を差し伸べる。


「ニアは、(颯天の事を)簡単に諦められるの? 確かに今の貴方は弱い。でも貴方の思いこいごころはそんな簡単に諦められる程のものなの?」


「それは‥‥‥違います」


伏見はニアの内にある覚悟こいごころを問うかのように尋ね、ニアは否定をする。簡単に諦められるものであれば、わざわざ颯天と伏見と一緒に、それも思いが成就した伏見と颯天の旅をニアが着いて行くように決めたのは、自分の思いを諦められないからだった。なら今自分がすべきことは、例え二番目であったとしても、


「絶対に、諦めません」


颯天への恋心はニアの中の偽らざる思いだ。それが例え二番であろうと関係なく、ただ一緒に居たいという思いを改めて、自分の思いを確認するかのように口にすると伏見の手を借り、立ち上がる。そしてその眼には先ほどまでの弱気な目では無く、確かに火が灯っていた。


「それでこそ、私の恋敵。でも私も負けない」


「ええ、私も、諦めません」


まるで二人の背に浮かんだ白い猫と???が炎の背景の中でにらみ合っているような風景が颯天には見えたが、間に入るのは悪いし、何より割って入るのが難しそうだと判断し、視線を逸らした。しかしそれだけではなく、ニアの思いに気が付いているが故に、そして周囲からの生暖かい視線が気恥ずかしさを誤魔化す為でもあったのだった。


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伏見とニアの仲がさらに良くなり、颯天が生暖かい視線から逃れるように歩き始めて少し経った時、ニアの口から出たのは、ある疑問だった。


「そう言えばですけど、どうしてあんな所に名前の通った盗賊達が居たんだろう‥‥‥?」


「ああ、「」は統率なんかは程度取れていたが、伏見に簡単に殲滅されたからさして有名じゃないと思っていたが、意外と名前が通った盗賊達だったんだよな」


「うん、意外だった」


「それは颯天さんと伏見さんが強いから言える事ですよ、でもお二人の近くに居ると実際そう感じてしまったんですよね。何故でしょう?」


唐突に、伏見の口から出て来たのは、伏見が壊滅させ、今現在報告を受けた兵士が捕縛に向かっている盗賊団についてで、伏見の言葉に颯天は確かになと思いつつもおくびもなくそう言い切った事に思わず颯天は苦笑を、ニアは伏見が強く、颯天も居たお陰で盗賊達が弱く見えたが、そうでなければ、自分であれば危なかったのだと改めて理解したのか体に手を回して軽く身震いをした。


実際、伏見が壊滅させた盗賊団たちは全員緑の布やスカーフを身に着けている事から「緑風団」と呼ばれ、

主にアスカロ王国と「ミール」を行き来する商人や旅人、そして周辺にある村を標的として襲い、捕まえた男や女達を裏で奴隷商に奴隷として売りさばくなど、この「ミール」周辺では颯天がアスカロ王国の王都、ニアの両親が経営していた「安らぎの風亭」で潰した、有名な「餓狼」に並ぶ悪名であったという事、また逃げ足が速くてなかなか捕縛できていなかった事を宿の人間に聞いたのだが、その際の伏見がそうかな、とばかりに首を傾げたのが印象的で颯天が先ほどそれを思いだし苦笑を浮かべただった。そんな中、取り敢えずこの話は終わりとばかりに颯天は口を開いた。


「さて、ただ見るだけってのも味気ないからな、幾つか食うものを買うか」


「そうですね」


「はい。でも迷いますよ~」


颯天の言葉に伏見とニアは賛成し、早速街道を歩き始めた。全長十キロにわたる橋の上に、いや橋全体には幾つもの、様々なちゃんとした建物と構えに店や、直接商品を並べている露店など様々。「ミール」とは、橋自体が、一つの街のようだった。


「颯天さん、あの人、何をしているんでしょうか?」


「うん?‥…確かに、そうだな」


そして颯天も露店に眼を向けていると、ニアは颯天に声を掛け、颯天もニアが指差している方を見ると、ある露店の前に全身を灰色のローブに身を包んでいるので体の輪郭が隠れており、霊眼を使っていない今の颯天の眼であっても男とも女とも言えない人が立っていた。いや、微かに見える髪の色は黄金のような金色で、その毛先は綺麗に手入れされ整えられていた。その時、颯天に話しかけてきた者がいた。


(あれは、女じゃの)


(起きていたのか、白夜。俺はてっきりカヴァリナ皇国の王都に着くまで話しかけてこないと思ったんだが。それで、どうして女だって分かったんだ?)


颯天としてはどうして白夜が起きたのかは分からなかったが、何故白夜がローブの中の人間が女と分かったのかが不思議だった。


(まぁ、これに関しては同性で、それなりの眼を持っていなければ見分ける事が出来ぬじゃろうな。まあワシが女と分かったのは、立ち方じゃな)


(立ち方?)


颯天の問いに白夜は頷く。


(うむ。そもそも男と女の立っている時の姿勢は同じようで、似ているようで違うんじゃ。あの女は恐らく剣を握っているのじゃろうな、そして衝撃を逃が時にやっているのか、無意識の内に体に掛かる重さを足や筋肉ではなく女特有の柔らかさのある股関節で体重を支えておるのじゃ)


(そうなのか?)


颯天はやや半信半疑だったが、白夜は自信満々に頷いた。


(そうじゃ。そもそも女とは男と違い腹に子を宿す。その際、腹の子を支える為に男とは違い筋力は低いが、その代わり骨盤が開き、衝撃や重さを軽減できるようになっているのじゃ。そしてあの者は自身の体を理解し、最も自信が楽な姿勢を無意識に取っておるのじゃろう。それに恐らく、あの者の剣の腕はかなりの者じゃろうな)


(なるほど、優れた剣士である程、無意識の内に己が最も楽な姿勢を取ってしまいがちで、それを知っているお前だから分かったという事か)


(まあ、そう言う事じゃ。さてワシは引っ込むとするかの、あ、ちゃんとわしの分を買ってくれるんじゃろ?)


まさか、それが目当てだったんじゃないだろうかと颯天は思わず邪推してしまったが、白夜のお陰でローブの中の人間が女であると教えてもらったのだ。断るのは白夜にも悪いかと颯天は了承した。


(分かった。良さげなのを幾つか見繕っておくよ)


(分かったのじゃ)


颯天の返事を聞いて何処かワクワクと言った感じの声音で白夜の声音と微かにあった気配は完全に消えたのだった。だが問題は何一つ解決していない。


(さて、どうするかな‥‥)


念の為、霊眼でローブを透視して確認したが白夜の言う通り女だったが、その服装は簡素なものであったが小奇麗で、性別を隠す為なのかしたはズボンを身に着けていた。

そしてそうこうしている間、露店では魚や肉の串焼きが売られており、辺りにいい匂いを漂わせていて、通りかかった内の約半数ほどが買っていたが、ローブの女はただそれを見ているだけだった。


「あの人、お金を持っていないですかね?」


「分からないな。だが店側としては迷惑に思っているかもしれないな‥‥あ、出てきた」


ニアの疑問に答えながら見ていると、店側からエプロンを付けた串焼き屋の店員と思しき、かなりガタイが良く、日焼けしているのか褐色肌の男がローブの人間へと距離を詰めて行き、目の前に立ちふさがった。


「なあ、さっきからうちの店を見ていて商売の邪魔なんだが、あんた一体何なんだ?」


「‥‥‥‥‥…」


身長の差があるせいだろうか、男は上から覗き込むようにローブの人に、尋ねるがその声音には苛立ちの色が混じっている事に颯天は気が付いた。だがローブの女が顔を上げ、その眼には動揺した様子はなく、ただ男を見返していた。


「ちっ、おい、何か言ったらどうなんだ?」


女であろうと商売の邪魔をしている事に対して男は相手を脅して退かそうとしたが、ローブの女には効果が無かった。


「やれやれ、面倒ごとには手を出したくないんだがな、仕方がない、悪いが少し待っててくれるか?」


「「うん(はい)」」


颯天が伏見とニアに尋ねる為に二人を見ると二人はまるで颯天がこうするだろうと分かっていたかのように頷き、それを見た颯天は後で何かを奢らないといけないなと内心で思いながらローブに身を包んだ女と串焼き屋の店員の元へと足を向け、問題のローブの女と串焼き屋の店員へと声を掛けた。


「なあ、あんた、ちょっといいか?」

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