第15話 「修羅場と休息」
町へと戻り、街門で城へと戻るデュオスと
「じゃあ、やっぱりさっきまでの記憶がない訳か」
「うん、最後に覚えているのは、王宮で神流達の話を盗み聞きして、自分の部屋に戻ったまでは覚えているんだけど…」
そして、現在颯天は食堂で料理を待ちながら伏見に幾つか確かめたいこと、そして説明を聞いていた。
「まあ、記憶が無いのは体を操られていたんだ、仕方がないだろう。それに俺が渡した御守りを持っていたお陰で、大分取り付いていた【魔】を斬るのが楽なったしな」
「でも、颯天にまた迷惑を掛けた」
どうやら伏見は意識なく操られていたとはいえ、颯天と直にではないにしろ戦った事に対して落ち込んでいる様子だった。
「気にするな。っと言っても気休めにならないだろうからな‥…どうしたものか‥‥」
颯天が小さくぼやいきながら頭を掻いていると、やや大盛り気味な料理を運んでくる一人の少女がいた。ニアだった。
「お待たせしました~!って、お二人ともどうかしたんですか?」
持ってきた料理をテーブルに置きながら、ニアは首を傾げる。ハヤテは悩み、一方の伏見は消沈しているのだ。気になるのは仕方がなかった。
「ああ、伏見がちょっと気にしている事があってな。どうすればいいのか悩んでいたんだが、ニアはそう思う?」
颯天は自分の考えより、同性であるニアの方がいいアドバイスをしてくれるだろうと、内容をボカしてニアへと相談をした。因みに戦った事に関してはボカさずにそのまま伝えた。
「‥…つまり、伏見さんが、覚えていないとはいえハヤテさんと戦って、伏見さんが記憶が無いとはいえを後悔している、と言う事ですね」
かいつまんだ話の内容を正確に理解したニアに颯天は首肯を返した。
「何かいい案はないか?」
「う~ん、‥…敵に塩を送るのは本意ではないんですが、仕方がありませんね」
ニアが伏見を見ながら口にした敵という不穏なワードは気になったが、取り敢えずニアに任せても大丈夫な様子だったので、颯天はニアが運んできてくれた料理を食べ始めることにしたが、耳は二人の会話へと向いていた。
「伏見さん。貴方はハヤテさんと付き合いは長いんですよね?」
「うん。出会いは暗い檻の中。まだ小さい頃、闇のマーケットで競りに賭ける為に私は捕まえられた。その理由は、私が希少なある種族の血を引いていたからだった」
「‥‥そうですか」
ニアの問いに答える様に伏見はまるで昔の出来事を語る様に、何処か淡々と口にする。そんな伏見を見てニアは何も言わずに続きを促した。
「時間が経って、次は私の番だって時、その建物の照明が一斉に落ちた。私は、恐怖心と両親を亡くした事への虚脱感でただ時間が過ぎるのを、私が売り出される時間を待った。」
伏見の言葉には、まるで鉛、いや、それ以上の重さが宿っており、話を聞いているニアも、耳を澄ませて盗み聞きしている颯天の気持ちもやや暗くなった。だがそれを振り払うように伏見は口を開く。まだ続きがあると、
「でも、幾ら待っても、五分経っても、十分経っても、三十分経っても、誰も私の居る場所に来る人は居なかった。でも私にとっては、もうどうでも良かった。誰も来ないのなら、人知れずに死ぬだけだと。でも、その時、彼が来た。闇に紛れるかのような真っ黒な装束を身に纏った、私とさほど年齢が変わらない少年が」
「もしかして‥‥」
ニアは何か察するモノがあったのか、口を開きかけたがまだ、伏見の話には続きがある事を察して口を閉じる。
「彼は、私を売り出そうとしていた闇の組織を、主催していたマーケットを壊滅させる為に来ていた。そして彼は私を助け出してくれたけど、私は空っぽだった」
「‥‥‥…」
ニアは思わず目を下に向ける。恐らく当時の
「でも、そんな私に、彼は思いをくれた。何一つ持っていなかった私に、生きる
そっと、伏見はそっと胸に手を当てる。そこに宿るそれは、伏見にとって、かけがえのない
「それからの私は、もう一度、彼に会うために、そして彼がくれた思いを言葉で伝える為に、今まで生きてきた。でも、知らないとしても私は‥‥」
そう言いながら伏見は顔を下げる伏見に、
「それ以上、彼の悪口を言わないで下さいっ!」
ニアの声は、小さいながらも、お昼でにぎわっている空間でも確かに響き、伏見へと届いた。
「そんな事で、貴女は諦めれるんですか?それなら、その彼を、私が取ってしまってもいいんですか!?」
「それは―――――――――」
ニアの問いに思わず伏見は顔を上げてしまった。それは伏見自身も知らない、無意識の行動で、しかし、ニアだけは何処か確信を持った優しい笑みを浮かべていた。
「それが、貴女の答えですよ、伏見さん。例え、自分自身を責めても、内に灯る
「でも、どうすればいいのか、それにやっぱり私には―――――――」
まるで、資格が無いと言おうとした、その時、そっとニアが伏見を抱きしめた。それはまるで、初めての事に怯える、母親の抱擁のようだった。
「大丈夫です。伏見さん貴女は強い人です。それに、彼は、貴方をそれ位の事で、嫌いになる人だと思いますか?」
「それは‥…ない」
「そうですね。彼は優しいですから。だから私も貴女の気持ちは痛い程に理解できますし、本当は、敵になりそうな人に塩を送るのは嫌ですけど、私より長い間、その思いを秘めてきた貴女なら、悔しいですけど、一番を譲ります」
「貴女――――――――」
伏見が何かを言おうとしたが、ニアはそれを止めた。
「大丈夫です。それに、貴女が今日、しないのであれば‥…私が先にしちゃいますよ?」
ニアは何処か蠱惑的な、男を誘惑する笑みを浮かべ、伏見を挑発する。
「それは、絶対に譲らない」
そう言い、伏見は自分が何を言ったのか、理解できていない表情だった。それは恐らく、伏見が初めて自分の思いに正直になった証で、
「ほら、やっぱりね。そう簡単には思いは偽るなんて事、出来る訳ないですよ?」
「むぅ、何か負けた気がする」
そう言いながらも、伏見の顔は傍から見ても、先程の顔を知っていると別人かの様に明るくなっていた。だが、その中でただ一人、居心地が悪く、食べる事で気を紛らわせていた人間が一人。
(‥‥‥‥‥‥…居心地が悪い)
颯天は、まるで互いをまるでライバルと書いて友と読むような雰囲気の二人からすれば分からないだろうが、先程から視線が集まっていると、一部の男性客からは二人とも美少女で、一人はこの宿の看板娘の様な存在のニアで、もう一人はこの世界であまりいない黒髪の美少女、傍から見れば、見せびらかしてる様に見えるのだろう、
(視線が‥‥痛い)
颯天が視線に耐える中、二人は互いに笑いあった。それは知らないものから見れば笑っているように見えたが、
(‥‥‥白い猫と紅蓮の乙女が居る)
颯天には、二人の背後に、本来見えない何かが見えていたのだった。そして、早く終わってくれと、気を紛らわす為に、料理を完食する事に意識を傾けたのだった。
因みに、颯天にとって辛い状況は、颯天がニアが運んできた料理を完食するまで続いたのだった‥‥。
「あ~‥…」
「大丈夫?」
部屋に戻った颯天はダル気な声を上げていた。
あの後、伏見のを含めた昼食を気を紛らわす為に全部を完食した後、流石に限界だった颯天は伏見に手を貸してもらいながら部屋へと戻って来て、ベットに寝かされ、伏見は濡れタオルを颯天の頭に乗せてくれていたのだった。
「すまん、少しばかり、食い過ぎた‥…げふっ」
もう、何も入らないとはこの事か、今、颯天の胃袋には、恐らく四人前に匹敵する量の料理が納まっており、もはやしばらくは一歩も動けない状態だった。
「流石にあれだけの量を摂取すれば、満腹になってもおかしくない、ごめん」
「どうして、お前が謝るんだ?」
「だって、颯天がこうなったのは、私とニアのせいだから」
「あ~、気にしないでいいぞ?それより、少しの間、寝かせてくれ。腹も膨れて、疲れたのか少々眠くなってきた」
颯天が使用した呪術「
「分かった。少しでも体を休めて」
「ああ、そうさせてもらうよ‥‥」
そう言うと颯天は寝息をたて始めた。久々の呪術の行使で思っていいた以上の疲労感がだったのか、颯天の枕元に伏見が座っても目を覚ますことは無かった。そんな颯天を見ながら伏見は颯天の体を何か所か触ると、知らず知らずに疲れが溜まっているのか、硬い箇所が幾つかあった。現状でさして影響はないが、積み重なれば体への負担となる。そう判断した伏見は猫耳と尻尾を生やしたもう一つ姿、猫又となると颯天の胸、心臓の上に手を添える。
「少しでも、助けになれば」
そう言うと伏見の全身から温かいオーラが溢れ、そのオーラを伏見は颯天の胸に添えた場所を中心にゆっくりと注ぎ込み、颯天の体が温かいオーラに包まれ、微かに輝く。
伏見が颯天へと流しているオーラは、生命の光。
体内の新陳代謝を活性化させ、体を温め、また何より凄いのは、自然治癒力を高める事により、体の疲れを取る、事にあった。
伏見が颯天の体にオーラを流す事、凡そ三十分後、一旦オーラを流すのを止めて、再度確認をした時、颯天の体の疲れやコリはすっかりなくなっていたのだった。
疲れが抜けたお陰か、それとも消化が進んだお陰か颯天の寝息は穏やかなものだった。そんな颯天の頭を優しく撫でながら、伏見は独り言の様に語り始めた。
「貴方は、もしかしたら、忘れているのかもしれない。九年前の出来事を。貴方は私を助けただけだと思っているかもしれないけど、私にとっては違う。私にとってのあの出来事は今でも忘れない、貴方と会えた大切な思い出だよ。それにあの出会いがあったから、私は君に会えたんだ‥…」
独白をしながらも、颯天の頭を撫で続ける伏見の顔は、恋する乙女の表情になっていた。
「大好きだよ。颯天」
そう言うと伏見は寝ている颯天に、微かに唇が触れる程度のキスをし、その後は何も無かったかのように、頬が少し赤くなっていたがそれ以外は普通で、颯天が目覚めるまで優しく頭を撫で続けたのだった。
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