第13話 「道中の情報交換」
「それでは、我々は遠巻きから戦いを見させてもらいます」
「ああ、出来る限りそっちに被害が行かない様に気を付けよう」
「‥‥‥彼女の事を、よろしくお願いします。ご武運を」
そう言いながらデュオスは頭を下げてきた。そして少し離れた所に居た団員と異世界より召喚された勇者の元へと向かい、颯天から距離を取る。そしてデュオスの背を見ている颯天に白夜の方から話しかけてきた。
(なかなか、良い
「ああ、ああいう責任感ある人間はあまりいないからな。安心して
そう言いながら颯天は数百メートルほどの距離が離れているのに感じる二つの気配があり、近づいて行く。そもそも何故今の様になったのか、それは数十分前の道すがらのデュオスとの話に遡る。
ミュールの森があるのは颯天達の居た街より南に二時間程の場所にある巨大な森の総称だ。森の中では野獣や猛獣が跋扈していた。
「龍の近くに人の気配、ですか?」
颯天は、先程白夜にも確認してもらった情報をデュオスへと伝えていた。
「ああ、それも龍のほぼ近く、いや至近距離と言うべきだろうか、見えたのは俺だけだからあんたには信じてもらうしかないが、この龍の近くにいる人間は、どうしたらいいのか、俺は依頼者の意見を聞きたいんだが、どうする?」
颯天はデュオスに意見を求めた。そして颯天の言葉の内容を半信半疑だった。
「そうですか‥…しかし、竜を操るですか、もしそれが真実であるなら…」
「真実だ。それに龍の近くに人の気配もあった。恐らく何らかの術か能力で龍を操っているんだろう」
颯天の話を聞き、デュオスはその場で思い当たる何かがあったのか顎に手を当て、ぶつぶつと考え事を始め、颯天はその間に白夜と話をすることにし、念話を開いた。
(やれやれ、そこまで考える事態なのか?普通に龍くらい討伐できるだろ?)
(いや、それは主殿と、主殿のお父君と母君だけだと思うぞ?単身で龍を、歴史上でも厄災と言われ、霊的、生物の頂点の存在であり、神の使いと言われている所もある程じゃ。それに儂でも霊力の半分は消費しないと全てを滅することはできぬ。主殿と主殿の御両親が異常なのじゃ)
颯天の頭の中に何やら白夜の声が聞こえていたが、今はそれは無視をする。
(なぜ無視するのじゃ!明らかに、いや絶対確実、明確に儂の声が聞こえておったじゃろうが!)
(いや、何となくな?それよりさっきみたいに甘えないのか?)
(さ、先程のは、い、一時期の気の迷いじゃ、そうじゃ、そうに決まっとる。)
何やら白夜は自分自身へと言い聞かせている様子だったので、少し時間を置くことにした。それにどうやらデュオスこちらに近づいて来ている事に気が付いていた。
(そうか、なら一端、念話を切るからな?)
(分かったのじゃ)
颯天は白夜との念話を切ったタイミングでこちらにデュオスが歩み寄ってきたのを確認していた。
そしてデュオスが近づいてくるが、その顔には何処か気になる事があると思っているようなの顔だった。
「‥‥申し訳ないが、ハヤテ殿、先程見つけられたという人について教えて貰えないだろうか?」
「ああ、別に構わない。」
そして颯天は白夜が見て、教えてもらった人物の特徴を伝えていく。
髪の色、眼の色、肌の色、服装に関してなど、事細かに聞いてくるデュオスに颯天は聞かれた内容の答えを返していく。
「間違いは・・・ないのか・・・」
「ああ、間違いないはずだ」
颯天は肯定を示した。そして、質問を終えたデュオスの顔にはどこか後悔と何処か悲し気な表情を浮かべていた。
「申し訳ない」
「おいおい、いきなり何の真似だ?」
突然の事に颯天はさすがに戸惑った。誰でもいきなり頭を下げられると戸惑うだろう。さすがに颯天もその例の例外ではなかった。
「いや、情報を提供してくれたのだ、それもこれ程の詳細な情報を感謝してもしきれない」
「いやいいから、早く頭を上げてくれ、俺はそういうのは苦手なんだよ。」
「申し訳ない」
颯天が早く頭を上げてくれと頼むとどうにか頭を上げてくれたデュオスだが、その顔にはどこか、伝え辛いことを口にするのを迷っているかのようであった。
「だが、いったいどうしたんだ?俺が言った女に見覚えがあるのか?」
颯天はその女について既に知っていたが、敢えて知らないフリをして尋ねる。
「いや、これは国家機密情報なのだが‥‥‥依頼を受けてもらった貴公には、言うべきなのかもしれんな・・・」
意外や意外、てっきり国家機密と言って言わないとばかり思っていた情報を開示するとデュオスは言って来たのだった。
「‥‥いいのか?」
「ああ、後に公開されるのだ。責任を問われる事は無かろう。それに貴方がこの依頼さえ達成してもらえるなら、貴族共も口を挟むまい」
「へえ、要するにこれを達成しないと俺も危ないって事か。それに貴族共の口も塞げると。まあ、いいぜ」
「感謝する。‥‥それで、私が先ほど聞いた人物の正体なのだが、それは・・・この世界に召喚された勇者方のお仲間の一人であるのだ。」
知ってる、と颯天は内心で思いながらも敢えて知らないふりで答えることにした。
「・・・へぇ、そうだったのか」
「驚かないんですね?」
「まあな、女の気配があんたと一緒にいた奴らと似たような気配を纏っていたからな」
「そう、なんですか‥‥」
「続きは?」
「ああ、そうだったな」
颯天が先を促すとデュオスから王宮であったことをかいつまんでではあるが教えてもらった。最初の召喚された処から宴の最中までの事態は把握していたのだが、その時、一つの事件があった。それは魔族による襲撃だった。そして魔族を撃退した後、勇者達をそれぞれ部屋へ送り周囲を警戒していたのだが、その中で、ただ一人、姿を消した勇者がいた。そして騎士団がその事に気が付いたのは翌日の朝だった。
「なるほど、混乱に乗じて人を攫う。古典的によくある方法だ。恐らく魔族は二人いて、一人が宴を襲撃して場を混乱させ、そして部屋へと戻らせた所で攫った、っとまあこんな感じか」
「良く分かるモノだな」
「まあ、この程度は誰にでも分かるものさ」
颯天がデュオスからの情報を元に、というよりは最初の宴の事件に関しては知っていたが、まさかその後に誘拐があったことまでは知り得なかった。何せ颯天の分身は既に消えていたのだから。
「続きを頼む」
「ああ、まず最初に誘拐された勇者の名前は
「【魔獣使い】か、なかなかのチートぷりな
「恐らく警備の僅かな隙を付かれたのだろう。何故その部屋の前の守兵が倒れていたと報告があった。恐らく背後からの何かしらも攻撃によるものだろう。そしてその隙に誘拐されたと我々は考えている」
デュオスの話を聞きながら颯天はなるほど、と思いながらこの事態を招いた原因の一端は、自分だと颯天は反省をしていた。恐らく王宮の混乱は魔族の自爆を防ぐために俺の分身が死んだ事が混乱を助長させた原因だろう。そしておそらく魔族もその好機を突いて伏見を攫ったのだろう。しかし。
「あの時、【霊眼】で見た限り、あの下級レベルの存在悪魔一体だけだったはず。だが実際には二体だとすれば…」
もう一体は高位の魔族である可能性が高く、そうであれば伏見に何かしらの術を掛けている可能性もあると颯天はデュオスの話を聞きながら頭の中で情報を纏めた。だが、気になるのは如何にして侵入したかだ。
(なあ、白夜。あの時お前も視ていたか?)
(うむ、念の為にとワシ自身もあの辺りをざっと見たが、反応は無かったぞ?)
(そうか、すまないな)
そうか、と颯天はお礼を言いながら念話を切った。白夜の眼でも捉えれない、それは本来あり得ない事だ。
何故なら白夜の眼は森羅万象を見抜く事が出来る眼だ。それを抜けるのは颯天であっても至難の業だ。とするならば、単純な答えに行き当たる。
(恐らく、招待された貴族の中に化けた魔族が居たんだろうな)
恐らく、この世界のセキュリティーはあちら《地球》と比べると圧倒的に低い。恐らく城に入る時に魔族を阻む障壁などが無いのだろう。如何せんあったとしてもその魔族が突破する程の力を持っていれば意味は無い。
「なあ、その中に一人、翌日に姿を消していた貴族が居たんじゃないのか?」
「ああ、一人程いた」
「という事は、そういう事なのか?」
「‥…ああ。こちらの落ち度だ」
「という事はだ。今回の依頼、勇者を騎士団が鍛えて信頼回復をさせたいという狙いもあるんじゃないのか?」
「恐らくは、あるのだろう」
デュオスは何処か苦虫を嚙み潰したような苦い表情と怒りが浮かんでいた。恐らく、普段は何もしない貴族がここぞとばかりに罵詈雑言を浴びせたのだろう。そして国王はそんな騎士団に勇者を鍛えたという実績を持って貴族を抑え、更に信頼回復をするつもりなのだろう。
「まあ、俺にとってはどうでもいい事だ。とりあえず、待ち構えている奴らの所に行こう。それと、相談なんだが、出来れば戦闘は俺一人に任せてもらえないか?」
「何故にだ、確かに私たちの力は貴方には及ばないが、これでも最低限自衛も魔物の相手も出来るぞ?」
「それは知ってる。だが今のあんたらには、世話を焼くべき勇者がいるだろ。それに勇者達は戦闘に不慣れだ。恐怖ゆえに動けなくなる奴も居るだろう。もしその場面で魔物が襲えば、どうなる」
「それは‥‥」
あくまで可能性の話だが、それは絶対ないと言える根拠もない。
「それに、もしもの場合、近くに居られると全力で戦えない」
畳みかける様に颯天はカードを切った。そしてデュオスは言葉に詰まる。確かに颯天が言ってる事はあり得る事だった。そして颯天が負ければ勇者に危険が迫るという事も理解した。
「‥‥…分かりました。それでは、我々は少し離れた場所より見させてもらいます」
「ああ、そうしてくれると俺としても助かる」
そして、場面は現在へと至る。
森の開けた場所で、一人の少女、白かった耳と尻尾が黒く染まった伏見とその隣のドラゴンが敵意をむき出しでこちらを睨んでいた。
「アハハハッようやく来てくれましたね。」
「白から黒に染まっているか」
今の伏見は【魔墜ち】と呼ばれる自分の力に呑まれている様子だった。そして颯天だけしか見えていないのか。黒伏見は離れた所から見ているクラスメイトがいるのに気づいた様子はない。いやそもそもクラスメイト達が伏見だと気づくことは無い。何故なら颯天の幻術によって彼方から見えているのは恐らく褐色肌の女魔族に見えているだろう。
「やれやれ、これはめんどくさい事になりそうだな・・・」
颯天は気だるげに面倒臭そうにため息を吐いた。颯天は別に正義の味方でも無ければ、悪人でもない。ただ自分が助けたいから助ける。それだけだった。
(取り敢えず、伏見に纏わり着いている魔との繋がりを斬るところから始めるか。にしてもまさか異世界でもあっちでしたような仕事をすることになるなんてな・・・どうしてこうなったんだろうか?)
そんなことを思いながら颯天は腰と背に装備した【雷切】と【黒鴉】の柄に手を当て、腰を落とす、そしてその態勢のまま、体には力が入りすぎないようにし、いつでも動けるようにに意識を臨戦態勢へと変えて行く。そして伏見・ドラゴン側もこちらの雰囲気が変わったと感じ取ったのか、伏見は徒手空拳の構えを、ドラゴンは四肢に力を込める。
「さあ、俺と一緒に踊ろうぜ?」
颯天は瞬間的に加速し、伏見も猫化した影響で強化された脚力で、ドラゴンは込めた力をスピードへと変える。その瞬間。戦いの火ぶたは落とされた。
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