第8話 「友の思い」
「お前たち、いいか警備は厳重にして、一切気を抜くな!」
部隊長と思しき男が部下に声を張り命令をする。そして部下たちは木尾引き締め各自の持ち場へと向かっていく。だが持ち場へと向かっていく兵士の顔はあまり優れていなかった。そしてそれはこの城の警備を任されている部の隊長である男も同様であった。
「本当に勇者様たちは、立ち直られるのだろうか・・・」
部隊長の口から漏れた言葉は周りに人がいないからこそこぼせた言葉であった。
部隊長は思っていたのだ、勇者さえ召喚できれば魔族を滅ぼし平和な世界が出来るのではないかと、そして勇者はこの世界の神に祝福されたものであらゆる状況でもあきらめない、仲間のために戦うなど、小さい頃に聞かされた古の時代に召喚された勇者のお伽話を心のどこかで信じていた部分があったのだ。だがそれ故に今日の昼に起こった惨劇の時、勇者たちが動けていないのを見て失望した。
(いや、それは間違いか。俺はただ過剰な期待を勇者様に抱いていたのかもしれないな。神に祝福された勇者と言えど、最初から強いわけではない、それは心も同じ。当たり前のことを忘れていた自分が愚かだったのだ)
そう自分を戒めながら自分達が指揮を執って警護している場所より奥にある部屋では勇者たちの為に用意された個別の部屋で休息をとっているはずだった。そして部屋にいる勇者たちの心境を痛いほど理解できていた。
(なんせ、同じ時間を過ごしていた友を失ったのだからな。それに彼らはまだ幼い、肉体、精神的にも成長している途中で、とても不安定な時期でもあるだろう。だがそれでも)
部隊長は彼らならば乗り越えらえるだろうと確信していた。そして乗り越えた者には自分の今までの経験や技などを教え、魔王討伐だけではなく、ただ彼らに生きてほしいと願っているからだ。
王国宮廷騎士団長デュオス・エルメドはその思いを胸に翌朝まで警戒を続けた。
その頃、各々に与えられた部屋にて肉体というより精神を休めていた中で、一緒の部屋にて寄り添うように過ごしいている姿があった。それは颯天の幼馴染にして親友である、中矢徹理と荻瀬神流である、そして二人は恋人であるから一緒に部屋にいるのを周りからとやかくは言われず、更に気遣いもあり一緒に部屋にて何も話さずにただ一緒にいるだけであった。そして部屋には重苦しい空気が満ちていた。しかしそんな重苦しい空気を少しでも明るくしようと徹理は神流に明るく話しかける。
「いや~それにしてもまさか異世界に召喚されるなんてな。それに異世界で定番の強そうな職業を得る事が出来たし、運がよかったよな!」
「うん・・・・・そうだね・・・」
しかしベットに座っている神流の返事は何処か事務的に返事を返しているだけだった。そしてその原因はもう一人の親友であった影無颯天が自分たちを守るために自爆しようとした下級魔族に挑み自分たちを含めた周りに被害を出さないために魔族の自爆にあえて身をさらし、その被害を食い止めた。もちろんそのおかげで神流と徹理、そしてクラスメイトと王様、貴族たちは傷を負うことはなかった。
しかし爆発を直に受けた颯天は違った。周りに被害を出さないようにしたせいでその身に致命傷と生きているのが不思議と言うほどの傷を負っていた。そして宮廷の魔術師が治癒魔法で治療しようとしたのを「もう時間がないから」と颯天は自らの死を悟っているかのような顔で告げ、そして神流と徹理を自分の近くに呼んだ。そして・・・
「あんな言葉が最後なんて・・・もっと・・・別の言い方が・・・ある・・しょう・・・颯天」
神流はその時のことを思い出したのか、徹理が来てくれたおかげでおさまっていた涙が再び頬を伝う。
「颯天の・・・バカッ!私たちを守るために自分を・・ヒック・・・・犠牲に・・・するなんて」
そして颯天のもう一人の親友であり、そして神流の恋人である徹理は、神流の隣に座り静かに神流が泣き止むまで背中を優しく撫でていた。
「落ち着いたか?」
「うん、ありがと、徹理」
神流はズズッと乙女らしく無く鼻をすする。それを徹理は聞こえないふりをする。それは神流の昔からの癖だ。昔は今以上に泣き虫でしょっちゅう泣いていた。そして周りに人がいると決してしないが、安心できる人がいる時に鼻をすする癖が出るのだ。本人は治したいらしいが、長年の癖はなかなか治っていないようだ。
(相変わらず、その癖は治っていないんだな。まぁ神流らしいと言えばらしいか。)
徹理は神流の癖を見ながら内心で安心していた、そしてそのおかげで頭の中で引っ掛かっていたことが鎌首をもたげてくる。それは最後に親友である颯天が残した言葉の最後の方の言葉だった。
「確か「俺のことは気にする・・な。だい・ぶ・だ。しばらく・・・は会えない・・・だろうが、お前らはとにかく生きろ、・・・強くなれ。・・・いずれ再び必ず会う事が出来る。・・・だからとに・・かく、お前らは、まずは、、死ぬな、、、強く、なれ。」か」
「‥‥、いきなり、どうしたの?」
「いや、な。颯天が最後に言った言葉が気になってな?」
神流のおかげで徹理は落ち着きようやく言葉の意味を考える事が出来るようになった頭であの時の事を思い出す、するとそこにはいくつかの疑問が浮かんできた。まず一つ目。
「なんで颯天の体中に傷を負っていたはずなのに体からには血が出ていたけど、消えた後は何もなかったんだ?」
「え?・・・・あ、た、確かに!」
それに気が付くとさらにもう一つ気になるところがあった。
「なんで颯天はあの時「また会う時が出来る」って言ったんだろう。普通、体は一つしかないはずだし、命は一つしかないはずだけど、それって・・・どういう意味なんだ?」
「う~ん、もしかしたら、そのままの意味、じゃないかな?」
どうやら徹理の言葉を聞いて改めて疑問に感じるところに気づいた神流もいつの間にか徹理と一緒に颯天が残した言葉の意味を考えた。そして神流が適当に言った言葉は的を射ていたが二人がそれを今知るすべはなかった。
「それに」
「それに、なに?」
「なんであの時、颯天の体は俺達が目を離した一瞬の間に消えていたんだ?」
「っ、確かに」
徹理と神流はようやく颯天の肉体が消えていたことに気づいた。しかしそれは馬鹿だからではない。それほどまでに親友が死んだと思っていたのだ。そしてあの時確かに颯天の体から血の匂いがしたし、周りもそれに気づいたから颯天は死んだのだと思ったのだ。だが二人は気づいた。そしてそれと同時に希望も芽生える。
「もしかしたら、もしかしたらだけど。颯天は死んでいないのかもしれない。」
「えっ?どういうこと?」
神流はあまりよくわかっていないようだった。徹理は仕方がなく神流にもわかるように説明をする。
「まず第一に颯天の体から血の匂いはしたけど血が出ていた、そして第二に、颯天は言っていた「また会う事が出来る」って」
「あ、もしかして!」
どうやら神流にも徹理が言いたいことが分かったようだ。その顔には少しではあるが普段の明るさが戻ってきたように徹理は感じていた。
「ああ、颯天は生きている。俺はそう信じることにした。それに颯天は勝手にいなくなる奴じゃない。それに、」
「困った人がいれば周りを気にせずに助ける困った人だけど、嘘は言わなかったしね」
そう言う神流の表情は徐々に明るさを取り戻していた。それは颯天が生きていると感じだしていたからだ。
「ああ、それに、生きろ、死ぬな、強くなれ。これは俺達に向けたエールなのかもしれない。恐らく颯天は何らかの方法であの時自分そっくりの存在を作り出して、俺たちを助けるために、そして伝言を伝えるためにやってくれたのかもしれないしな、あいつは面と向かっていうやつじゃないしな。」
とある宿にて
「ハックシュン!うう、風邪でも引いたかな?」
「お兄ちゃん、風邪でも引きましたか?」
ニアと静かにお茶をしている時なぜかくしゃみが出たせいでニアに心配をさせてしまったようだ。
「いや、大丈夫だ。さて次のお茶のお代わりを最後にして今日は寝るかな。」
「じゃあ私が注ぎます!」
宿の食堂では颯天とニアの二人が穏やかな時間を過ごし、颯天も先ほどのくしゃみの原因を深く考えず、ニアとの穏やかな時間を過ごす。颯天がくしゃみをしたのはちょうど徹理が颯天の事を言っている時だった。
戻って宮殿の一室にて
「じゃあ、まず私たちはこの世界で生きるために力を付けよう!」
「ああ、だけど、それは明日からだ。今日はもう体を休めよう。いくら颯天が生きている可能性が高くても、まずは体調の管理が大切だからな。」
「うん、そうだね。徹理、ありがとね、慰めてくれて」
「お、おう、でも俺はなんもしてないよ。立ち直ったのは神流の自身の力だよ。」
徹理は神流の輝いている笑顔を見て顔が赤くなるのを感じ急いで部屋から出る。
「本当に・・・お前ってやつは・・・待ってろ。絶対に再会してやる。だから待ってろよ、颯天」
おう、先で待ってるぜ。徹理は颯天からのエールが聞こえた気がして周りを見るがそこには誰もいない。しかしその体には先ほどまでと違い力がみなぎっているのを感じる。そして徹理は誓う
「少しずつ一歩ずつでも強くなってやる」
その言葉を口にし、決意を胸に徹理は自分の部屋へと戻っていった。
その姿は鋭く固い鉄で作られた矢が目標に向かって真っ直ぐ進んで行くかのようだった。そして二人の様子を盗み聞きしていた人影があった。城に残り颯天の役に立つと言って颯天と別れた少女、伏見だった。
「良かった」
話を聞いていた伏見は立ち直った様子の二人の声音を聞いて出していた猫耳を戻し安心した表情で微笑んでいたのだった。
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