第7話 「休息」

「いやー、それにしても申し訳ないですね。助けただけなのに宿に泊まらせていただいて。それに夕食まで頂くことになってしまい。」


俺が申し訳なくそう言うと、それを聞いたニアの父親でありこの宿、「安らぎの風」の主人でであるアルセトはとんでもないとばかりに頭を振った。


「いやいや、君が私たちを助けて助けてくれていなければ、今頃は妻と子供が売られてしまっていたかもしれないと思うと、今でも背に氷を当てられているかのように感じるので、本当感謝してます。むしろこんな宿でこんな食事しか出せませんが・・・」


どうやらニアの父親、アルセトが腰低め自分の宿を評価しているが俺はそうとは思っていなかった。俺があのバカ共を叩きのめして、ニアと一緒に【霊眼】で入る前に確認した所に作り出した分身が内部へと潜入させ、部屋の中に監禁されていたニアの両親を助け出した。

そしてその時ニアも両親と同じく両手両足を縛られており、縛っていたロープを切り裂き、縛っていたロープが無くなるとニアの母親が涙を流しながらニアと抱き合い。父親は妻と娘を抱きしめる。そこには家族と言うべきものがそこにはあった。

まぁその間、俺は入り口で突っ立っていたが。そんなことを思いながら颯天は自分目の前に出された料理を見てみる。


鶏肉の野菜の詰め物。 野菜が煮溶けるまで煮込み胡椒で味を調えたスープ。表面をパリパリに焼かれた焼き魚。新鮮野菜のサラダ。そして焼き立てのパン。


颯天の前に様々な料理がおいしそうな匂いを上げていた。そして颯天の腹は空腹を訴えてくる。そしてアクセトさんを見るとアルセトさんはどうぞとばかりに仕草で促してくれ、颯天は最初に皮がパリパリに焼かれた魚から食べることにした。ナイフとフォークで魚の身を開く、すると


(うお、なんて焼き加減だ!中のうま味となる脂が外に流れていない、そして皮はパリパリ、では早速、いただきます。)


颯天は魚の身を口に含む、すると口の中にサバに似た感じのうま味と脂ががあふれてきた。


「うまい!この焼き方はこの魚のうま味と脂を中に閉じ込めつつ、表面の皮はパリッとなっていて、そして中はホクホクジューシーな魚のうま味がいい。そして少し塩が振られていて、それも均一じゃなく不均一に振られているから、素材本来の味と塩でうま味を引き出した部分の調和が心地いい。 じゃあ次はサラダを・・・うむ!」


(なんて新鮮な野菜だ!瑞々しくそして野菜のほのかな甘み、そして下の方に隠してあったドレッシングを混ぜたものを口に含むと、新鮮な野菜が出せるシャキシャキ感、そしてドレッシングによって引き出された野菜のうま味が調和していて・・・)


「これもうまい!新鮮な野菜とドレッシングがぴったり合っている! じゃあ次は・・・」


それから颯天は鶏肉の野菜の詰め物、そしてスープとパンを食べた後は息をするの勿体無いとばかりの勢いで出されていた料理を颯天は胃袋に納めていく。




「ふぅ~、美味かった。ごちそうさまでした。」


「おそまつさまです」


俺はそれほど時間をかけることなく出されていた料理を堪能しつつ全部位の中に納めた。

おかげで先ほどまで忍術と体を動かした影響で空腹だった胃はどうやらようやく落ち着いたようだ。そして俺は食後のティータイムをしていた。


(ふう、やっと一心地つく事が出来た。それに食後のこのお茶、地球で昔ばあちゃんの家に行ったとき飲んだ甘茶、確かてん茶って言ってたっけ?漢字は分からないけどまぁいいや、そのお茶みたいに甘い香りと、口に含みそして飲み込み、息を吸うと口の中にほのかな甘みが口いっぱいに広がる、ああ、懐かしい…)


颯天が食後に休憩にお茶を楽しんでいると、身に覚えのある魔力が戻ってきた。


(もう戻ってきたか。さてさて城ではあの後何があったかな?・・・・・うへぇ、これは食後に見るものじゃないな。まぁなるほど、宴の途中あの悪魔が、いや魔族があの宴に乗り込んでいって数人の貴族とその関係者を殺した後‥‥ああ、やっぱり自爆しようとしたか。それでどうやら会場にいた衛兵たちがすぐに魔族を包囲し、後一撃で倒せるときに自爆する魔法を発動させて、頼みの綱の宮廷にいた魔術師が魔法の破壊〈ブレイク〉を試みるも失敗し、あわや城が吹き飛ぼうとした瞬間にどうやら分身の俺が相手の懐に入って解呪の札を貼り付け自爆の威力を弱めたところで、魔族が爆発、そしてあえて致命傷を受けるようにして傷を負った俺が親友二人に見守られて、そしてある言葉を残して綺麗に消滅したか)


分身から入ってくる情報を分析しながら俺は親友二人に分身が残した言葉を口にする。


「俺は生きている。そしてもしお前たちが危機に陥った時は必ず現れるっか。」


「お兄さん、どうしたんですか?」


どうやら俺が気を抜いているのに気づいて近づいたが、俺が何か口にしていたのが気になったようで、今頭の上には?と俺のことを聞きたいとばかりに俺を見てくる。


「いやなんでもない、所でニアはお父さんとお母さんと一緒に居なくていいのか?」


「うん、大丈夫。今はお兄さんと一緒に居たいと思ったんだけど、だめ…ですか?」


そう言って俺を見上げるように俺を見つめてくる。別に断る理由は無かった。


「ああ、今しばらく休憩しようとしていた所だ、よかったらお相手いただけますか、お嬢様?」


どうやら俺がいいと言っていることが分かったのかニアは俺の向かいの席に座り、颯天がポットに入っているお茶をカップに注ぎ、ニアの方へと置く。


「ありがとうございます。お兄さん」


お礼を言い、颯天が入れた甘茶(颯天が勝手に命名した)を口にし、ようやく落ち着いたのかニアの表情が穏やかになる。


(良かったの)


(ああ、良かった。助ける事が出来て。)


穏やかな表情を浮かべるニアを見ながら俺は救う事が出来てよかったと改めて感じていた。

そして俺も甘茶を口に含む。そしてその場でニアと俺、伏見は静かに甘茶を口にしながら穏やかな時を過ごした。

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