第6話 「町での一幕」

今、颯天は霊体化した白夜を連れて城下町に足を踏み入れていた。


城下町ではどうやら勇者が召喚され、勇者が戦うことを表明したことが伝えられたのか、時刻は夕方になる少し前頃なのに酒を飲む男、店の中で騒ぐやつなどいろんな人間がいた。そんな中俺は一旦体に掛けていた幻術を解除し、その後再び幻術で目立たない髪の色に変化させ、鞄の中に入れていた黒い装束に着替えて街に入っていた。


そして表面上、相手から見たうえでは念のため街に入る前に街と城の中間地点の木の上から遠見の忍術で確認した服装を基に幻術で見た目を変化させていた。何故、服装と髪などを偽装しているのか、それは無駄に目立たないようにするためだった。


それに周りの会話を聞いた限りではこの街や他の町にも冒険者はいるようで、面倒ごとに巻き込まれた時に対応できるようにしやすくするためだった。


(そろそろ、あいつらの方ではパーティーが始まる時間か。まぁ俺には関係ないが、この後、宿とかはどうしようか?)


(のう、主殿、今更なんじゃが、この世界の金、持っておるのかの?)


「あ」


この世界の金、持ってないんだった・・・この世界の金を一切持たずに街に来てしまった颯天は白夜の言葉にどうしたものか、と考え込んでいるとそんな颯天を見かねたのかは知らないが一人の少女が声を掛けてきた。


「あ、あの・・・どうしたんですか?」


声のした方を見ると十歳ほどの少女が颯天達に話しかけてきていた。


「うん?ああ、いや。どうやら金が底をついてどうしようか迷ってたんだよ。」


(まあ、嘘は言っておらんの)


颯天は念話で白夜に黙ってろと言いながら、どうにかこの場を切り抜けるために嘘を付いた。しかし、厳密には別に颯天は嘘をついてはいない。ただ本当に金を持っていないのだから。


「それなら、私の家がやってる宿に来て」


「え、ちょっ」


いや、金もないし泊めてもらうわけには、と颯天が少女に言うが少女は颯天の話を聞かずにそのまま宿がある場所へと颯天の手を引っ張っていく。そして少女の手は颯天が力を入れれば離せる程度の力だったが、どうしてもこの年頃の少女の手を振り払うのは颯天はできなかった。


そしてそれから少女に引っ張られる事五分、中心街から少し離れた場所に少し年季が入っているが趣のある、まだまだ現役で使う事が出来るき綺麗な二階建ての宿があった。


「お父さんたちに説明してくるから、少し待ってて」


颯天にそう言うと少女は宿の中に入ってしまった。


(どうするのじゃ?)


「あ~どうしたもんか」


颯天は悩んだ。


(さて、本当にどうするか、確かに知らないふりをしてこの場を去ることはできる。だがそれだとあの子がかわいそうだ・・・仕方がないか)


颯天は少女の心使いに甘えることにした。少女が宿の中に入って数分後、少女と父親と思われる男が出てきた。だが颯天にはこの少女と男が家族であるとは思えなかった。なぜならその男の眼には娘を大切にしている温かみのある色が無かった。そして何より颯天の持つ特殊な眼【霊眼】では無意識に漏れだす魔力の色と波長をを見る事が出来る。まあそれが出来るお陰で【魔拡感知】や【魔響感知】が容易なのだが、これは一旦脇に置いておく。


さて親と子の魔力の色は違うが、波長は限りなく似て近いものだ。だが颯天を案内してきた目の前の少女と宿から出てきた男の魔力の波長は全く違っていた。少女は穏やかな感じの波長に対し、男はの魔力の波長は荒々しく暴力的だった。


(ここまで違うという事は、…何かあるな。ここまで魔力の色が違う事はままあるが、波長がここまで違うのは明らかに、この男は少女の親ではないということになる。)


内心で颯天は早くも厄介ごとの匂いをかぎ取っていた。しかし颯天は表情にそんなことをおくびにも出すことなく男が話かけてくるのを待った。


「やあどうも、あなたですか。ニアがどうしてもというのでどういう方なのかと思っていましたが、いやいやお若いですね」


どうやら、颯天達を連れてきた少女、ニアと言うらしい少女の父であるということにしているのだろうなと思い、またこれは普通の人間はまず気づかないだろうなと思いながら颯天は冷静に観察していた。


そして颯天は今後術に触れるうえで必要だとあの人から言われ白夜との契約を引き継いだお蔭だなと感謝していた。そして、白夜との契約によって得た恩恵の一つ、それが【霊眼】だった。そして颯天が魔力の色と波長を視る事が出来るのは【霊眼】のおかげであった。


そもそも【霊眼】は東洋の言い方で、魔術が盛んである西洋では【魔眼】とも呼ばれる特殊な眼で、それは西洋では精霊、東洋では守護者と呼ばれる力ある存在と契約した者のみが与れる恩恵、その一つだ。その効果は様々で、視た色によって血縁かどうかを判別する、視た相手の体の一部を石にする等契約した存在によって変化するのだ。そして何よりこの眼は魔力などを一切必要としない。


そして【霊眼】は魔力を視る。故に発動した忍術を魔力に宿る属性を見極める事が出来るものだ。なぜ颯天が城の時、悪魔を探す時に【霊眼】を使わなかったのか。それはただ単に忘れていただけだ。


さてそんな確信をもって疑われている、そんな事を思っているとは露ほども知らないニアの偽父親は自己紹介を始めていた。


「あ、まだ名乗っていなかったですね。私はこの子、ニアの父親のアベルです。えっとあなたは」


「ハヤテ・カゲナシだ」


颯天はこの世界ふうに名を告げる。この世界に来てまだ恐らく五時間もたっていないが颯天は早くもこの世界に順応し始めていた。名を苗字と名を逆にしたのはこの世界の人間の名がおそらく欧米と同じだろうと半ば確信していたがその確信へを確実にしたのが最初にあった王女の名乗りだった。


「ハヤテ様、ですか。今日は当宿に泊まられますので?」


アベルの眼に一瞬獲物を見定めるかのような眼を颯天はもちろん気が付いていたが、颯天はあえて気が付かないふりをした。そしてあまり間が空いてしまうと相手に不信感を持たせる可能性があったので颯天が返事を返した。


「ええ、さすがにここまで少し長い旅をしてきたので。ここらで一泊するかなと話していた所にそちらの娘さんが家うちの宿はどうですかと声を掛けてくれたので」


「おお、そうだったのですか」


颯天は当たり障りのない事実を言葉にして紡いでいき、その内容は省いた部分はあれど決して間違った事は一切言っていない。確かに颯天は長い旅をしているのだ。現在進行形で。そして目下の問題を解決をしたら一泊したいと思っていたのだ。


そしてそんなことも知らない、鴨が葱を背負って来たと思っているアベルと名乗る男は獲物がかかったとばかりの見えないように下卑た笑みを歓迎しますという笑顔の下で笑っているのだろうと、颯天は思ていたが、表情に出す愚は犯さなかった。


「では、当宿にご案内させていただきますが、一つお尋ねしたいのですが、ハヤテ様方は冒険者の方ですか?」


「いえ、違います。ですがこの(問題を解決した)後に登録に行くつもりです。」


それを聞き男は一瞬何かを考えているかのような表情を見せるがすぐにその表情を笑顔の下に隠し、また元に戻った。 もちろんその変化に颯天は気づいていたが。


さて、なぜアベルと言う名をこの男にあるのに名前を颯天は呼ばないのかって?それはただ単に覚える必要がないし、これから消す男を、いや男の名前に興味がなかったというのが正しいだろう。


「分かりました。では、今日はめでたい日なので中に入っていただき、寛がれながらお話をしましょう」


そう言うと男はニアを伴い宿の中へと消えていった。そして観察を続けていた颯天は見逃さなかった。建物の中に入る際、一瞬こちらを見たニアの表情が助けを求めていたことを。


そしてニアと男が完全に建物の中に姿を消したのを確認し、颯天は戦闘態勢へと頭を切り替え、まずは建物の中を視てみる事にした。


(さて、まずは人質がいるかどうかを見ないとな・・・・・・・なるほど。二階の奥の部屋にニアと同じ波長の人が二人、閉じ込められている、いや捕まっているか。その部屋の扉の前には・・・誰もいない。てことは一階には集まってるのか・・・・・数は、五人か)


【霊眼】で建物の一階を視る颯天の視界に五人ほどの男と思しき姿と波長が映る。【霊眼】には遠見、透視、など幾つかの能力もあるが、今颯天が使ったのは透視と遠見だった。


そして颯天の視界には先ほどのアベルと名乗った男とほぼ同じ赤い色の魔力の波長の男、五人が、一人は正面、残りの四人は入り口の左右で待ち構えているのが颯天には丸分かりだった。滑稽と言うほどに。


「分かりやすすぎだろ、いやこの【霊眼(め)】がチートなのか?」


(まあ、それもあるじゃろうがの)


そんなことをつぶやきなく颯天に白夜が内心でお主がチートじゃよと思っていたが颯天が気づくはずもなく、颯天は服装を偽っていた偽装の術を解くと一応外していた黒いバンダナ取り出し間深く付ける。そして準備が整うと颯天はそのまま男たちが待ち構える宿の中に入っていった。


「じゃあ、ちょっと片付けて来る」


(うむ、待っておるぞ)


そして、颯天はものの数十秒ほどで宿屋に潜伏?していた男たちを倒したのだった。そして、後にニアはその時の事をこう語った。


「あの時のハヤテさんの後ろ姿に私の恋心は奪われました、それに何となくですけど懐かしくて運命かなって感じました。それにしても凄かったですよ。こう、全員が宿の壁に向かって突き刺さって。プラーンってなってるのは」


と言うほどだったそうだ。颯天が簡単に殲滅した男たちはそこそこ悪名があったらしくその日の内に教えてもらった冒険者ギルドに連れて行くと驚かれ、後日また来てくれと言われ、それで再びニアから尊敬の眼を向けられたのはまた別の話で、倒した颯天はというとすごい事をしたというよりは当たり前の事をしたと感じで誇るようなことをせず、それがどうやら更にニアの気持ちを引きつける様になったのだが、颯天がそれを知る術は無かったのだった。


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