第5話 「城から抜け出す」

彼らが興奮している理由、それは今颯天も手に持っているある物、ステータスプレートが関係していた。


それは謁見を終え後、国王より召喚された全員に与えられたこの世界のステータスを見るアイテムだった。


颯天はステータスプレートに魔力を流す。するとプレートが光りその表面に文字が表示される。

そこには職業クラスレベル、名前、そして各肉体の能力が表示されていた。


それがこれだ。


NAME 影無 颯天  職業  錬金術師アルケミスト  レベル ??? 性別 男


筋力  ???

体力  ???

耐性  ???

敏捷  ???

呪耐  ???

魔力  ???


【技能】 『言語理解』・『錬金術』   


おかしい。それが最初にステータスを見て感じた颯天の感想だ。試しに他のヤツの盗み見たステータスはこれだ。



古賀 大雅   職業  勇者  レベル20  性別 男   年齢 17歳



筋力 340

体力 540

耐性 470

敏捷 350

呪耐 250

魔力 280


【技能】 『魔族・魔物特攻』・『全属性耐性』・『光魔法』 


このステータスは颯天が盗み見た男のステータスだ。颯天はほかの特にこの世界の人間のステータスを見てないから何とも言えないが、おそらくこのクラスの中で一番ステータスが高いだろう。勇者と言う職業、レベルも意外と高い事からも確定だろう。


そして周りを見てみる。周りのクラスメイト達も各々ステータスを見てはしゃいでいる。その中に颯天の親友二人の姿もあった。そんな周りが浮ついてはしゃいでいる中、颯天は自分のステータスを自己分析をする事にした。


(まずは、なぜ俺のステータスだけ技能に関しても錬金術と言語翻訳以外が何もないのかだな。感覚的には術の発動を阻害されるような妨害をされている感じではない。…という事は俺が掛けている幻術が関係しているのかもしれないな)


颯天は自身のステータスプレートに二つしか表示されていない事への疑問としての答えは恐らく自身に掛けてる幻術が関係しているのではないのではと思い至った。だが流石にどこで見られているのかもわからない場所で幻術を解くのは相手に実力を見せるのと同義である。


(とりあえず、安全を確保できる場所で無いと試せないな。)


そう思い、とりあえずこの問題は先送りにすることにした。そして気になるのはステータスに二つだけ表示されている内の錬金術だった。


「恐らく俺の職業である錬金術師の固有の技能だろう。‥‥あ」


颯天はステータスなんかの疑問について考えているとふと頭によぎったことがあった。「あれ、今なら抜け出せるんじゃないのか」と。


幸い、全員の視線はステータスプレートか、他の友人達に向いているであろうし、分身の術で分身を作り出し、即座に隠形の術で姿を消せば見つかる可能性も少ない。何より「城の中は面倒」と颯天は感じているからだった。そして、思い立ったら即実行が颯天の座右の銘だ。


「空蝉《うつせみ》」





まず颯天は結界術を応用した気配と魔力を遮断する術「陰影」それによって一時的に全ての視線、感覚から消失する。その間に印を結び分身の術「空蝉」で分身を作りだす。


「それじゃあ、頼むぞ。俺」


「ああ、任せておけ」


もう一人の自分にそう言うと颯天は次に隠形の術へと移る。その時だった。颯天の腕が誰かに捕まれたのは。今の颯天は誰にも認識されない、いわゆる空気のような存在で、消える前まで視線を外していなかったとしても気が付くといなくなっていると相手に誤認させるほどのモノで、颯天を捉えることは不可能のはずだ。


(誰だ?)


だが颯天はすぐに制服の中に忍ばせていた苦無に手を伸ばそうとしつつ、視線で腕をつかんでいるのが人物を捉えると颯天は苦無に伸ばしていた手を止めた。そして面倒にならないように即座にその人物も「陰影かげぼうし」の範囲へと連れ込む。


「はあ、一体どうして俺がここにいると分かったんだ、伏見?」


「匂いまでは消せてなかっったから」


「いや、猫か?」


「半妖の猫又だよ?」


「え?」


「え?」


まさか例えで猫かと言った颯天の言葉に対して半妖であるとカミングアウトしてきた伏見に颯天は思わず驚きの表情で伏見を見て、一方の伏見はどうしたのかとばかりに颯天を見返してきた。


(困惑して居るところ申し訳ないんじゃが、早ようせんとそろそろ「陰影」の効果が切れるぞ?)


「それは拙いな」


せっかくのチャンスを逃すと、次の機会はすぐに訪れるかもしれないが目の前のチャンスをみすみす逃すような愚かな行いをしようとは颯天は思っていない。次がある。そう思い希望を抱くのも一つの手だろう。だが颯天はそれを選択しようとはしない。


「さて。一つ聞くが、伏見、君はどうする?」


故に尋ねる。伏見おまえはどうするのかと。


「もし、お前が一緒に行くというならば、連れて行こう。だが行かぬのであれば、俺と再び会う時までこの時の記憶は封じさせてもらう」


「‥‥…」


「どうする?」


選択を迫る。付いて来るか、それとも記憶を封じて、この場に残るか。伏見が選択したのは、


「私は、あなたの役に立ちたい。だからここに残る。」


残る事だった。


「‥役に立ちたいって、俺はお前に何もしてやった事は無いぞ?」


颯天は少しばかり本気で困惑していた。何せ颯天は伏見に対して何か感謝されるようなことをした覚えがなかったからだった。


「今は、覚えてなくてもいい。次に会った時に教えてあげる。でもその時は、絶対に離れないから」


そう言うと伏見は颯天から離れて行こうとしたが、颯天は鞄から取り出した御守りを伏見に渡した。伏見は颯天から渡された御守りを不思議そうに見つめた。


「これは?」


「まあ、ちょっとした御守りだ。一応肌身離さず持っておけ」


「うん、颯天から貰った物だもの。大切に持ってる」


「ああ、それと、もし分身が殺されても絶対それが分身だと教えないでくれ」


「分かった。それじゃあ」


「ああ、気を付けろよ」


伏見は頷くと颯天は「隠影」の効果範囲内から伏見を外す。


そして伏見は颯天の居る場所に小さく手を振ると背を向けて離れて行った。離れて行く伏見を見ながら颯天は「隠影」に亀裂が生じ崩れようとしている事に気が付いた。


「さて、それじゃあ普通に意識の狭間を縫って移動するか」


颯天は限界が近かった「隠影」を解除し、普通に立っていても誰も颯天を捉えることが出来ていなかった。そしてタイミングよく颯天の耳が捉えた音があった。


「皆様、お待たせいたしました。宴のご用意が出来ましたのでご案内させていただきます」


「分かりました。みんな行くぞ」


部屋に来たメイドに古賀がそう答えると、ぞろぞろとクラスメイト達も会場まで案内するメイドに付いて行く。その中で颯天もドアまで普通に歩いて付いて行くが誰も気が付くことは無い。


「よし。それじゃあ、脱出でるか」


颯天はまず部屋の外へと出ると他のクラスメイト達と一緒に歩いて行く親友の二人、徹理と神流、そして


俺は周りのやつらと一緒に騒ぎながら歩いて行く親友の二人の後ろ姿を見た。


(裏の顔をあいつ等徹理と神流に知られるのは・・・少し怖いしな。それにしても)


何となくだが伏見は颯天の裏の事を知っているように感じ取れたが、気のせいだろうと今は頭の中からそれは排除し、行動を開始した。


一応だが分身にも颯天と同じ思考ができるようになっている。そしてその場の状況に合わせた行動もすることが可能だ。だがその中での行動は颯天自身が操作することは出来ない。分身と言っても一つの人格だ。それ故に偶に思いがけない行動をすることもある。だが颯天がそのことを知るのは分身が何かしらの要因、例えば何かしらの攻撃で致命傷を受けるなどをした際に解除され俺の中に戻ってきたときに知る事が出来るのだ。そして現在、颯天は誰にも気が付かれることも、音を立てる事もなく、目的の、外へと通じる場所に到着していた。それは開けた場所の高い場所にある採光の為と思われる窓のある場所だった。


(お?あそこがちょうどいいかな・・・それにここらの防備は今は甘いようだな・・・)


周囲に人の気配を感じないとわかると颯天は一息に窓のある場所の下まで走って移動する。


「届くな」


颯天はそう言うと天井近くにある開いていた窓の桟目掛けて勢いを付けると、飛びあがりそして足音一つ立てず降り立つ。そしてガラスに己の姿を映らないように術で光を操作し、空いている窓の枠に当たるところに足をかけ、これから外に出ようとした時だった。


「‥…なんだ?」


(どうしたのじゃ?‥‥なるほどの)


唐突に辺りを視だした颯天に伏見は不思議そうに言ったがすぐに何故颯天が辺りを見だしたのかを白夜も感じ取り、理解した。颯天がいる場所はかなりの高所に位置する窓辺だ。それ故に周囲を見渡すことも十分にできる状態だった。


(・・・・・どこだ・・・?)


颯天は一通り周りを見るが見つけることはできなかった。


(かなり反応が小さく絞られておるの。これは見つけるのは難儀じゃの)


(そうか、仕方がない。魔力を消費するが・・・少し眼と気配探知の精度を上げるか)


颯天は体内の魔力を活性化し、活性化させた魔力の半分を目に集中し、残りの半分を空間に薄くしかし満遍なく拡散させ、魔力探知の精度上昇の為に使う。


ちなみにだがこの魔力探知はいわゆるレーダー、潜水艦などに搭載されている、魔力の波で相手の場所を知るタイプと、あたり一帯に魔力を薄く広げ、相手の動きを精密に感知する二種類があるのだ。そして颯天が選んだ手段は辺り一帯に自身の魔力を拡散させ、探知の精度を上げている後者を選択していた。


だがこれには互いに弱点と言うべきものが存在している。


魔力の波で相手を感知するタイプでは確かに精度は高いのだが、周りに雑音(多くの魔力や魔力障壁など)が多いと余計なものに反射してしまうという面をもつ。


そしてもう一つの魔力を一帯に薄く広げるタイプでは一重に魔力の消費が半端ではないことだった。通常の忍術を使用した時の消費が2とすると、このタイプでは8と言う通常で使用する忍術のおよそ四倍ほどの消費に跳ね上がるのだ。ついでに言っておくとレーダータイプの消費は2と割と効率がいい。ついでにレーダー(魔力)で相手を感知する術の名前は「魔響感知」。


また気を感知するタイプは「気拡感知」とそのままの名前だ。そして颯天が今使っているのは消費が多い「魔拡感知」の方だ。


(相変わらずの消費量だ・・・だがそれでも‥…見つけた)


魔力の消費で颯天の額には僅かに汗を浮かび、体には若干の虚脱感を感じながら颯天は先ほど感じた邪気を発する存在を特定する事が出来ていた。


「あれは‥‥」


(蝙蝠、じゃの恐らく悪魔が変化した姿じゃろう)


特定した存在は蝙蝠のような姿をしており、先程颯天達が来た道、クラスメートのいる会場の方へと向けられ、そちらに向かって飛んでいるようだった。そして颯天と白夜は感じ取れるが、蝙蝠の実態は普通の生き物ではない。地球でも稀に颯天の依頼に含まれていた仕事、それは人知れず人間の社会に潜り込み厄介ごとを巻き起こす魔に属する者、悪魔と呼ばれる者の討伐だった。だが颯天の経験を踏まえてもこの蝙蝠はさほどの強さでもないようだ。颯天が全力を出せば消し飛ぶほどの力しかない。


(力の強さからして・・・下級悪魔か?人に害をなす悪魔の最下級の悪魔悪戯悪魔リトルデーモン。今ここで俺が倒してもいいが、宴をしているあいつらにはこの世界でのルールを、この世界は日本でもだが平和慣れしている奴らにとっての、この世界の顔を知るにはちょうどいいかもしれないな。まあ、あいつら二人にとってはきついかもしれないしが・・・)


取りあえず、颯天は悪魔を放置することにした。そして何かあった時対処するように分身に伝えておいた。しかし颯天は知っている。ああいう弱い悪魔に限って最後の悪あがきをしてくるからな・・・自爆とか)


と色々な考えていると、特に最後にフラグの様な事を言いつつ視線を悪魔から窓の外へと向けた。颯天は窓から見える街を、夕日が照らす茜色の空、風に流される白と赤い雲を見る。どうやら思っていた以上に時間が経過していたようだった。


「よし、行くか。しばしのお別れだな・・親友。それと伏見」


颯天はそう届かない言葉を親友二人と颯天の役に立つと残る事を選択した少女に向けて小さく告げ、颯天は窓から飛び降りた。

浮遊感が少しの間颯天の体を包むも、落下の速さが遅くなることは無く、しかし颯天は高所から飛び降りたと感じさせない静かな着地で衝撃を体全体で吸収し、地面に流すと静かに街へと走り出した。



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